カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

夢を(信じて)あきらめないで   ノクターナル・アニマルズ

2022-06-23 | 映画

ノクターナル・アニマルズ/トム・フォード監督

 今は芸術関係の仕事をやっているか何かして、それなりに成功している様子。夫も事業をしているが、こちらは少し調子が悪いのかもしれない。高級車に運転手付きの生活だが……。そういうスーザンは何かもやもやとした挫折感のようなものに付きまとわれていて、後に明らかにされていくが、生きていくうえでの幸福感に飢えているという感じかもしれない。彼女には学生時代に一度結婚した夫がいて、そうして奇しくもその前夫が書いた小説が手元に送られてくる。もともと不眠症でろくに寝ていない中、夜にその小説に読みハマっていくのだったが……。
 小説の物語は、おそらく別れた自分たちの境遇をヒントにしたバイオレンス作品になっている。テキサスのめったに車の走らない高速道をノロノロ走る車がいる。追い込そうにも道をふさいで前に出られない。しばらくそういうやり取りをしていたが、やっと道を開けられ追い越すと、妙な感じの複数の若者がこちらに笑いかける様子が見える。後部座席で怒った娘が中指を立てると、その車が猛然と追いかけてきて、煽り、そうしてついに車が接触してしまう。その後は車を停めるように幅寄せや車自体をぶつけてくるようになる。たまらず路肩に寄せて停まると、タイヤがパンクしているから交換してやると言われ。その間車から降りるように言われ、そうして妻と娘は結局彼らの車で連れ去られてしまうのだった……。
 小説の中の物語は、当然今のスーザンたちの置かれている現在においても比喩として語られているはずのことらしい。以前あんなにも愛した夫だったし、彼の才能に賭ける生き方とともに、自分も自分の才能にかけて芸術の作家の道を歩むべきだったと考えている。何しろ母のトラウマのようにブルジョア生活を送ってしまった自分に対しての嫌悪感も抱いている。自分らしく生きるという選択を、自分は選び取ることができなかった。そうしてその象徴である元夫のバイオレンス作品は、まぎれもなく彼は作家としての腕を磨いてきた現在があるのである。
 ラストシーンはかなり分かりにくいが、観るものが勝手に解釈していいものかもしれない。復讐劇であったとしてもいいし、ある種の架空性を含んだミステリともとれる。またそれは死を暗示するものなのかもしれない。僕には分かりえないが、ここまでで十分に心を動かされる映画では無かっただろうか。田舎って怖いな、とは思いましたが……。
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