プロミシング・ヤング・ウーマン/エメラルド・フェネル監督
夜になると酔いつぶれたふりをして、ナンパされてホテルに連れ込まれてやられそうになると、急にシラフに戻り、その男性を叱責するということを繰り返す女がいる。彼女は昼間は実にいい加減にカフェの店員をして、両親と同居して結婚もせずに心配されている。しかし元優秀な医学生だった過去があり、ある事件をきっかけに中退し、このように男たちに私的に復讐する毎日を送っていたのだった。
ひどく男を恨む気持ちはよく分かるものだが、復讐される男たちは、彼女の過去とは実際には何の関係もない。酔った上に曲がりなりにも同意したようなものと捉えて性交渉をしようとするのは、問題がありそうな気もしないではないが、誘っているのだから当然と言えば当然である。要するに詐欺のようなもので、男たちも被害者だ。しかし医学生時代の今は小児科医になっている同級生と再び出会い、恋に落ちてから話が急展開する。
終始嫌な感じがつきまとうが、だんだんと心が解かれていき、新しい未来が開かれる予感がする。そうして終盤に、一気にガツンと頭を殴られるように、観るものは突き落とされてしまうだろう。それは実に見事な復讐劇で、最も後味の悪いものだ。あとで考えてみると仕組まれたものだと知って驚くが、こんなに悲しい一生というのはそうそうないのではないか。それくらい性的な事件というのは、いわば「おおごと」である。
主演のキャリー・マリガンの、大人だけど若い女性の幼さが混ざっているような雰囲気というのが、お話の筋とリアルさを担保している。見事と言っていい。本当には悪い人間ではない哀しさが、この悲劇を形作っているのである。罪を犯した人間は、どうしても逃がさないのだ、という執念と恨みの映画なのかもしれない。