人口で語る世界史/ポール・モーランド著(文芸春秋)
人口で語る世界史とは、書名の通り人口という切り口で、近年・近代の200年ばかりの時代ということを読み解くことができるのではないかという内容。確かに人口というのは、比較的確実な未来を予測することに使われる指数である。それを過去の出来事の本質に至るまで読み解く材料したことが、歴史的な面白さともいえる。
人が多いということは、その国の力でもありうる。食料の問題を解決し、経済を発展させることに成功すると、同時に軍事の力もつけることができる。それが覇権国家としての帝国を生み出した一番の原因かもしれない。ということは、まず第一にこの本ではブリテンという呼称が使われているが、何しろ英国なのだろう。英国はどんどん自国の人口を増やし、米国や豪州、NZ、南アフリカなどへ移民を送り込んだ。送り込んだ先でも人を増やし、事実上アングロサクソン帝国を世界に席巻させていったのだ。そういうブリテンの歴史というのは、人口を伸ばしていく過程で経済や軍事の力をつけていった歴史なのだともいえよう。
また、それに追いつきたい、追い付こうとすがるドイツやロシアというな勢力ももちろんあったわけだが、そういう力の源泉もまた、人口で語ることが可能だそうだ。そのまま人口の力による伸びが後押しして勢力争いができた、という見方もできたかもしれないからだ。
そうしたこととは少し毛色が違う勢力として、他ならぬ日本という国もある。しかしこれも事実上凄まじく人口を伸ばしていた点では、間違いではない。そうして日露戦争で白人社会であるロシアを打ち破り、世界に大きなショックを起こしてしまう。東アジアの人口というのは非常に多かったが、日本の繁栄というのは覇権を狙う世界情勢を大いに動揺させたことは間違いなかった。結局東アジアを統制することはできなかったが、敗戦後も人口を伸ばし経済も伸びていった。そうしてそのまま伸びるかにみえた先に急激な出生率の低下を見て、さらに急激な高齢社会になり、一気に停滞してしまった。もっともこれは、多かれ少なかれ教育の行き届いた女性が多くなると出生率は下がるわけで、高齢化の伸びで人口減が遅れはしたものの、結局移民もあまり受け入れてこなかった日本の当然の姿と言えるのだ。さらにこの超停滞国家のゆくえは、世界の停滞国家の注目の的なのかもしれない。
ただし、人口さえ多ければいいのかというと、決してそればかりともいえない。その見本ともいえるのは中国である。もちろんその人口の多さによって、今後の影響力は甚大ではあるが、同時にすでに高齢化も進んでいる。猛烈な圧力で衰退が迫ってくるわけで、巨大ゆえの苦しみはどのようなことになるか、まったく見通せない。さらにインドから覇権を奪われるようなことにもなるかもしれず、遅く起きた中国のゆくえはどうなるのだろう。
さて次にくるのは、なんといっても中東や南アジアなどの若くて人口の伸びの見込まれる地区である。ただし中東などの国は若すぎて、常に好戦的という面もあって、伸び悩んでもいる。その上に、まだまだ女性の地位が低いという問題も抱えていて、教育等が平等に行き届かない問題などを抱えている。女性の地位が上がらなければ当然出生率というのも下がっていかない。情勢が不安定で死亡率が高くても、英国より人口が増えていっている事実はあるが、そのことを上手く活かせていないのかもしれない。ただし、先端技術や軍事などというのは、現代は簡単に移動が可能だ。そのようなものは容易に国境を越え、行き渡っていく。結局は力をつけていくことには間違いなく、自国で開発できないというデメリットがあったとしても、人口的に覇権を伸ばすということは可能になっていくらしい。
また今現在の勢いで行くと、イスラム教徒の方がキリスト教徒人口を追い抜くということはほぼ確実視されていて、その後の世界ということはどうなるのか、というのはまだわからない。
さて最後に残るのはアフリカなのであるが、人口が爆発的に伸びていっている国が、残念ながら出生率の高さがありながら、国内情勢の不安定さの中にあって貧困にあえいでいる。それでも着実に死亡率は低くなっており、将来はアフリカが制するという事は、ほぼ間違いなさそうに見える。
特にナイジェリアは注目されていて、出生率も高く死亡率もなんとか押さえられているらしい。そこで人口はどんどん伸びていく。今後のアフリカの主たる指導権を握っていく可能性も十分にあるという。そうした中、台頭するたの南アフリカの国々と共に、アフリカの時代がやって来るのかもしれない。
この本を読んでいて別のことを考えていたのは、先に社会的に成熟して行って出生率が下がり、また高齢化率も高まっている北欧諸国の事であった。高齢社会になるスピードは日本が早いが、しかし北欧はずいぶん昔から高齢化社会へ移行し続けていて、いわば衰退のお手本であったはずだ。確かに移民を受け入れるなど日本とは違う面もありはするが、実際はどうなのだろう。小さい国が多くて、日本のように大きな国には参考にはならないのだろうか。まあ、大きな会社が国家を牛耳っているミニ組合国家みたいなところが多いというし、やっぱり日本とは違うのかもしれない。