沖縄のやんばるの森では、ヤンバルクイナなど、希少な動物たちが住んでいることで知られている。島特有の環境や歴史から、ひっそりと暮らしている動物たちがいるのであろうと思われる。
そうした中、30年前に絶滅としたと思われていたトゲネズミというものが、また発見されたらしい。マングースや野生化した家ネコなどから食べられて、絶滅したのではないかと言われていた。ところがヤンバルクイナなどの調査のために設置したカメラに偶然写っていて、現在もまだいるというか生息していることが分かった。それがトゲネズミであることは確認されたが、そもそもの生態は謎に満ちていた。せっかくだから、改めてその姿を追うドキュメンタリーが撮られたという訳だ。
新たに設置されたカメラなどにおさめられたトゲネズミを観察すると、ぴょんぴょん跳ねて移動したりする姿が、なかなかユーモラスでかわいらしい。また椎の実を、両手で支えて抱えるようにして食べる。そうしてハブなどから襲われると、ぴょんと跳ねて逃げる。背中のトゲをのような毛を少し持ち上げて、何やってるかわからないが、空気をそうやって毛の中に入れると言うか、謎の行動もしている。その意味のようなものは結局分からないようだったが、その為に背中の毛を針のようにしているのかもしれない。まあ、何と言ってもトゲネズミなんだし。また、 木などを背後にして、警戒しながら椎の実を食べる。決して椎の実を拾ったその場で食べはしない。何度も何度も椎の実を取って来ては、安全な場所に移動して実を食べる。忙しいのだが、同時に可愛いのである。
しかしながらクマネズミというのが、おそらく貨物船などの荷台に隠れて島に流れ着き、移り住んでくるようになった。クマネズミは繁殖力も強く、何て言ったかモンスターマウスだったっけ、ともかくトゲネズミよりは強い存在のようだ。映像でもトゲネズミを追い掛け回していた。せっかくの住みよい場所は、クマネズミに乗っ取られつつあるのかもしれない。
沖縄では家猫が逃げ出して野生化したネコが、それなりの数でもって森に棲んでいるのだという。野良とは違って、ほぼ山猫といっていいほど、かなり野生化したもののようだ。そのような野生化した猫の糞の中に、トゲネズミが確認されている。マングースだけじゃなく、やはりそのような脅威があって、なかなか増えにくいのかもしれない。
さらにやんばるの森のある北部地区の開発もあって、環境が激変している。沖縄の水問題もあるけれども、将来的には貴重な生息域がダムの下に沈むということにもなっている。とりあえずトゲネズミが住む場所が、さらにどんどん減っていくのである。そうして道路が新たに通り、森を寸断する。せっかく30年ぶりに見つかったトゲネズミであるが、前途は多難なのである。 結局また、絶滅の道を歩むだけのことなのであろうか……。