カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

バカバカしく悲しい   寝ずの番

2019-09-12 | 読書

寝ずの番/中島らも著(講談社文庫)

 映画にもなっている短編集。9編入っている。そのうち寝ずの番が3篇ある。それぞれ独立しているが、落語の師匠から始まって所縁のある弟子とおかみさんの死が続き、通夜の晩で落語的に飲む話である。
 話かご本人も言っている通り、毎度ばかばかしい話を彼らはしているのだが、それで金をとっているので芸である。それをネタに小説を書くとどうなるか。ものすごくばからしいが、金がとれることは理解できる。取材費は払ったのだろうが(実費で)、これだけバカらしくても面白く、なおかつすさまじいものがあるというのが見て取れる。小説なので構成もいい。しょうもない話といえばそうなのだが、だからこそ味があったりもするもので、この馬鹿かしさと悲しさは、どうしてくれたらよいのだろう。
 徹底的に下ネタだったり、馬鹿げていたり、暴力的だったりすると、どういうわけか一抹の悲しさがにじんでくる場合がある。これらの連作には、そのような悲しさがにじんでる。カラッとした明るさのある笑いではなくて、非常にアンダーグラウンドで、心に傷のある者同士が、しょうがねえなあというような思いでもって笑っている。笑ってしまわざるを得なくなっている。これが可笑しいだけでなく、悲しくなくてどうする。どこか結局破滅に向かって進まざるを得ない日本軍である。それなりに強力な力で強引に止めてくれないと、止まるものではないのである。それに手遅れ感もあるし…。
 基本的には酒を飲んで明るく暮らしているのが一番だが、芸人というのは必ずしもそういうことが許されない人々なのかもしれない。いろんなプレッシャーや障害はあるものだろうけれど、こういう世界で生きていくことは、そのまま棺桶に足を突っ込んだままでなければならないのだろう。そういえば著者も死んだわけで、非常に読後感がむなしいものであった。もちろん馬鹿らしく面白いのだけれど…。
コメント
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