カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

現実主義的な人が人をだますマジックを作る   マジック・イン・ムーンライト

2019-09-10 | 映画

マジック・イン・ムーンライト/ウディ・アレン監督

 中国人に扮した大掛かりなマジックを得意とする売れっ子マジシャンのもとに、マジシャン仲間の友人からある相談が来る。大富豪の家に取り入っている霊媒師が本物ではないかと思うような見事さで、そのトリックが見破れないというものだった。現実主義で精神世界を認めていない天才マジシャンとしては、どうしても化けの皮を破ってやらなければならないと意気込んで乗り込んでいくが、自分の相手には知られざる過去は次々と読み取られ、段々と形勢が変わっていくのだったが…。
 文句なしの傑作。多少形式的すぎる英国人風の理屈っぽさはあるが、あちらの世界の、宗教を絡めた教養のあり方や幸福感を、見事に皮肉っている。いくら現実主義者だとはいえ、目の前に繰り広げられる信じられない超現実に対して、認めるものは認めざるを得ない状況にどんどんとはまり込んでいく。あまりに偏屈で、その考えに凝り固まっているがゆえに幸福感を持ちえないように見える中年のマジシャンが、非現実に心を奪われる過程で、恋に落ちていくさまが実に見事である。現実主義ゆえに恋敵を実直に褒めて窮地に至るなど、ふんだんに笑わせられる。ちょっとスノッブだけれど、はまりだすとおかしさの止まらなくなるギャグの応酬劇である。凄い脚本を書くものだなあ、と舌を巻いてしまう。
 しかしまあ、これが地味といえば地味である。現代人に対する大衆受けはちょっと無理かもしれない(実際そうだったらしい)。50年代とかそういう映画的に幸福な時代であればともかく、このような人間の幸福というのは多様化が進んで、本当の意味でシンデレラを奪うような不条理な恋愛劇が描きにくくなっているのではなかろうか。まあ、あえてそういうものを作ろうとしていたことは、観ていてよくわかったが、例えば主人公たちの年齢差を考えると、いくら外国人の年齢を感覚として分かりにくい僕からみても、無理があるんじゃないかな、と思う。もう少し血気盛んな若い感じのする中年でなければ、若い女性の心まで、本当に奪うことはできないだろう。もっともそれがマジックの、本当の神髄ということなのかもしれないけれど。
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