恋人たち/橋口亮輔監督
いわゆる群像劇で三人の物語になっている。一人は通り魔殺人で妻を失った男。一人は嫁として夫と姑の間で使いまわしにされているような主婦。もう一人はゲイの完全主義者の弁護士。テーマ設定というか、それぞれに偏見などに悩まされ自分らしさにみたされないとか、他の人から理解されにくい状況を描いている。キャストは無名の俳優さんたちで、それが一種の市井に埋もれる人々を浮き上がらせているような演出になっている。演技が下手だというよりも、何か存在感がはっきりしないような妙な距離感があるように思えた。それぞれに興味としては特殊な状況におかれている人々なのだが、問題意識を浮かび上がらせることには成功しても、ほんとうには身近な問題ではないような感じだろうか。そういうところは橋口監督にしては、今一つという感想をもった。
まあ確かに現代に潜む社会問題を浮き彫りにしているという事はそうなのかもしれないが、なんとなく自分たち自身でこじらせてしまって、生きにくい世の中を生きているようにも思えた。社会が悪い所為で個人的に被害をこうむって、苦しんでいる人というのはいるのだろう。いや実際の問題として、そのような個人が際限なく苦しめられていることは、簡単に無視できる問題では無い。そういう問題意識に敏感な人々いうのがあって、何とか啓発して解決できないかと模索されてもいると思う。そういうものが社会的に有用なことであるという考えも、よく分かりはするのである。
ただし、自分でこじらせている個人問題が、社会的に普遍的な問題で無いのであれば、その解決のためになされたことが、逆の立場の人を苦しめる副作用のようなものが生まれない保証はない。何もしないより何かした方がいいと思う反面、そういうことに無頓着でいいのか、とも思う。自分だけがいいのであればそれでいいけど、それをあたかも社会問題にすり替えて逃げるのはもっとよくない。別に僕は正義漢では無いが、時折こういうものを見ると、率直にそう感じてしまう。後半それぞれに一定の社会への理解を示す表現があるが、そういう事を分かっている第三者から啓発されたという感じもする。そのことに気づけるほどに成長したとも考えられるが、やはり他人任せのような考えがあるのではないだろうか。
今つらい人がこの映画救われるならいいだろう。観ていて痛々しいのは、そういう結局は離れたところに居たまま入り込めなかったからかもしれない。