わが道/新藤兼人監督
こんな暗くなるばっかりの映画はいまどき観るもんじゃないということは分かっていたはずなのだが、年末年始にボツボツ観た映画である。今は報道でプロ市民の首切り派遣村の話題がかまびすしいわけだが、働かなくてはならない状況で働きに出ることで、さらに不幸になっていく人がいたわけである。いや、現在だっているだろうが、この頃とは根本的に何かが違うことだろう。貧困の中で暮らしていくということは、人間性を喪失させることにもつながっていくのではないか。貧しい中にも人間的な豊かさがあったという美談はさんざん聞かされ続けてきたが、実際のところはこのような悲惨な風景の方が日常にあふれていたのではなかったか。まあ、映画なので多少の味付けがあるのは差っ引いておかなければならないにしろ、また、この映画の中の正義のようなものもなんとなく胡散臭いのだけれど、人間性の残酷というものは描かれているように思う。
後半になると一気に裁判映画になって行くが、まあ、そこからは面白くなくなる。事実が明らかにされても、それのどこが悪いのかは僕にはさっぱり分からない問題だった。ただ、家族としては悲しいにしろ、仕方がなかったのではないだろうか。また、これが本当の女のつらさなのかということも僕にはよく分からん。貧乏で体が弱くてさらに寂しく死んだらしい。そうして行方不明になってやっと見つけて誰が悪いなんて、たんなる後付けの正義にすぎないのではないだろうか。
それに本筋とは関係がないが、乙羽さんのつくるラーメンがものすごくまずそうだったのが印象に残った。あれでは流行るものも流行らなくなるのではないだろうか。
にっぽん泥棒物語/山本薩夫監督
さてしかし、続けてまたこんな映画を観てしまうのは、単なる僕が物好きだからである。基本的には貧困物語だけれど、それが悲惨ではなくギャグなのであった。三国連太郎の若いころの演技はほとんど釣りバカ日誌と変わらない。もともと上手いというのか、逆に上達してないというのかはよく分からない。泥棒をやりながら腕の立つもぐりの歯医者になって人々に慕われるようになるのだが、それがジャンバルジャンのような話になっていないのは面白いと思った。そうして何故かこの映画も後半は裁判映画になってゆく。裁判員制度が話題になっているが、日本人は裁判がもともと好きなのではないか。こんなことで笑っていいのかどうなのか、いまどきの言葉でいうと大変にビミョーな感じがしたけれど、やはりみんな笑っていて平和な時代であるということが分かった。ああ、そういう意味では昔は今より住みやすい世界なのかもしれない。少なくともこのもぐりの医者が本当に悪いわけでなく、貧困が悪かったのだと笑い飛ばせることはできたのだろう。