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「天明年中叓」を読む 14

(散歩道のトウガン/27日撮影)

散歩道も槙の木の生垣に、トウガンが二つ並んで生っていた。まだまだ大きくなるという声が聞こえそうである。

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「天明年中叓」の解読を続ける。「主殿頭に申渡す趣」の項のつづき。

一 近年、御用金と申す名目にて、呉服所より諸大名へ、御借金これ有り候。もっとも右金子は、呉服御用金の内にて、その利分金を以って、年々、御反物代金に相成り候由。たとえ、如何様御倹約に相成り候て、御為とは申しながら、御借金の利足を以って、御召し呉服代金、相補(おぎな)い候義、鄙劣(ひれつ)の至り、言語同断の事。その上、右借金の名目にて、諸権門家来、金銀儲け居り候ものも差し加わり、畢竟(ひっきょう)、上の御威光にて、元利滞りなく取り立て、損金これ無き様にと、姦商(かんしょう)の工(たく)みにはまり、上の御徳をけがし候事。
※ 鄙劣(ひれつ)➜ 品性や言動がいやしいこと。人格的に低級であること。卑劣。
※ 権門(けんもん)➜ 官位が高く権力・勢力のある家。
※ 畢竟(ひっきょう)➜ さまざまな経過を経ても最終的な結論としては。つまるところ。結局。
※ 姦商(かんしょう)➜ 悪賢い商人。悪徳商人。


一 近年、町人どもへ御借金の儀に付、姦曲(かんきょく)の義これ有り、その上、預り候町人、殊外(ことのほか)難儀、迷惑に及び候事。
※ 姦曲(かんきょく)➜ 心に悪だくみがあること。

一 金座の儀は、御由緒これ有り候えども、元来町人の事に候えば、家業柄(がら)と申し、平生帯刀、曽而(かつて)及び不申さず候処、またこれ賄賂を以って、取り拵(こしら)い、平生帯刀にて相勤め候様相成り来たり、これにより、御家人惣じて、信服(しんぷく)致さず候事。
※ 金座(きんざ)➜ 江戸幕府の金貨鋳造所。勘定奉行の管轄下にあった。
※ 帯刀(たいとう)➜ 刀を腰に差すこと。また、腰に差した刀。
※ 御家人(ごけにん)➜ 江戸中期以降の将軍直臣のうち、御目見以下の武士。旗本より身分が低く、直接将軍に謁見する資格をもたない小祿の者。
※ 信服(しんぷく)➜ 信頼して服従すること。


一 百姓町人帯刀は、重き制度とて、古来より人数も大方相定(さだ)まり候。然る処、御領御代官より、さしたる儀これ無き候や、兎や角と申し出候えば、御褒美として、金銀下され候て相済むべき処、帯刀御免仰せ付けられ候者、金銀賄賂より相調い候事。
※ 御領(ごりょう)➜ 江戸時代、幕府直轄領のこと。御料。御料所。天領。


読書:「鹿威しの夢 口入屋用心棒3」 鈴木英治 著
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「天明年中叓」を読む 13

(散歩道のハギの花/昨日撮影)

萩の花は今時どこにでも咲いているが、花が細かくて、アップすると、ピントが合わせ難い。何度かチャレンジして、漸く少しは見られる写真になったか。

   アップして ピントを合わせて 萩の花

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「天明年中叓」の解読を続ける。「主殿頭に申渡す趣」の項のつづき。

上様には、万事御倹約而已(のみ)にて、その身はじめ、家来の者どもまで、莫太(ばくだい)の奢(おご)りを極め候事、いかが心得候や。

附り 諸大名官位の儀は、天聴奏達もこれ有り候て、至って重き義に候処、金銀を以って賄賂を得(う)れば、容易に取持(とりも)ち、世話いたし候義これ有り。(たまり)の間席の儀は、御補佐(ほさ)役にて、時々取候ては、重き御政事にも相加(くわゝ)り候えば、家柄といえども、若年または行跡不正の人は、その用捨これ有るべきの処、賄賂候えば、その(えら)も致さず候て、格別これ無き事。
※ 天聴(てんちょう)➜ 天子がお聞きになること。
※ 奏達(そうたつ)➜ 天皇に奏上して耳に入れること。
※ 溜の間(こうち)➜ 江戸城で、将軍の執務空間である「奥」に最も近く、臣下に与えられた最高の席。
※ 用捨(ようしゃ)➜ 取捨。採否。用いることと捨てること。
※ 撰み(えらみ)➜ 選ぶこと。


一 家柄の諸侯、金紋(きんもん)の儀、賄賂重きにて取り持ち、かれこれ取り繕ろい、願いの通り仰せ付けられ候上にて、又々指し留め候義、全くその方一存の取り計いにて、金銀に迷い候致し方、顕然(けんぜん)に候。
※ 金紋(きんもん)➜ 金箔・金漆で描いた家紋。江戸時代、大名が家格により挟み箱のふたに描くのを許された。
※ 顕然(けんぜん)➜ はっきりと現れるさま。 明らかなさま。


一 岸上の儀は、良蔭の清流、岩石の地にて、御先々代様は、御深慮にて、放し馬御取寄せ、厚く御世話遊ばされ候。御牧場繁昌の処、これまた山師どもより、賄賂金銀を以って、御為(ため)、御益(えき)と申す名目に、(なづ)樹木を伐(き)出し候ゆえ、田蔭薄く、清流も涸れ候て、牧馬夥(おびただ)しく死失(ししつ)に及び候事。
※ 放し馬(はなしうま)➜ 放し飼いの馬。
※ 山師(やまし)➜ 山林の買付けや伐採を請け負う人。
※ 泥む(なづむ)➜ 進行がさまたげられる。とどこおる。
※ 死失(ししつ)➜ 死ぬこと。
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「天明年中叓」を読む 12

(散歩道のタマスダレ)

大代川の土手に、毎年、タマスダレが花を咲かせる場所がある。土の轍の間に一時だけ姿を見せる。夕方、女房と散歩に出て見つけた。

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「天明年中叓」の解読を続ける。「主殿頭に申渡す趣」の項のつづき。

一 その方義、御役屋鋪内の儀は、同席と違い、格別美麗を尽くし、衣食、並び翫品(がんぴん)木取(きどり)に至るまで、天下に比類(ひるい)無き結構(けっこう)にて、居間の釘かくしなどは、金銀無垢(むく)にて作り、これまた銀座の物どもより、賄賂(まいない)にて相贈り候由。これに准じ、その余、与かるに暇(いとま)あらず候。
※ 翫品(こうち)➜ なぐさみのために、もてあそばれる品。
※ 木取(きどり)➜ 大形の材木をひいて、建築その他の用材を取ること。
※ 比類(ひるい)➜ それとくらべられるもの。同じたぐいのもの。
※ 結構(けっこう)➜ ぜいたくなこと。
※ 無垢(むく)➜ 金・銀などがまじりけのないこと。
※ 与かる(あずかる)➜ 分け前をもらう。


木挽町屋敷は、唐木(からき)作りに造り候座鋪これ有り、物見座敷前通りの堀、御用に(だく)(さら)い申し付け、浜町屋敷は御当代初めより花美を極め、三方の堀、これまた御用に詫し浚い申し付け、その上、類焼の後、間もこれ無く、以前より格別の再造営申し付け、大火後、御家人初め一統、おびただしく難儀いたし候儀、眼前へ能々存じながら、その歎きを顧(かえりみ)ず、自分壱人の娯楽を極め候儀、役柄不相応の心得に候。
※ 唐木(からき)➜ 紫檀・黒檀・タガヤサンなど熱帯産の銘木。中国を経由して輸入された。
※ 詫す(だくす)➜ 直接には関係しない他の事と無理に結びつけて、都合のよい口実にする。事寄せる。
※ 花美(かび)➜ 華美。はなやかで美しいこと。


その身は勿論、召仕えの妻、自由自在の驕奢(きょうしゃ)、家来重立(おもだ)ち候ものども、栄燿(えいよう)権勢(けんせい)日々超過(ちょうか)甚しきは、非理非法(ひりひほう)を以て、公法を破り候事も間々これ有り候。上の御威光、年々に衰え、その方壱人の権勢、日々盛んに相成り候例え
※ 驕奢(きょうしゃ)➜ 奢侈 (しゃし) にふけること。おごっていて、ぜいたくなこと。
※ 栄燿(えいよう)➜ 大いに栄えて、はぶりのよいこと。ぜいたくをすること。
※ 権勢(けんせい)➜ 権力を握っていて威勢のいいこと。
※ 超過(ちょうか)➜ あるものをこえて先に出ること。また、他よりまさっていること。
※ 非理非法(ひりひほう)➜ 道理にはずれ、法にはずれること。
※ 例え(たとえ)➜ 同じ種類の物事。例。ためし。
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「天明年中叓」を読む 11

(散歩道のハナシュクシャ)

カンナに似た花だが、ショウガの仲間らしい。葉はショウガよりも大きいが形は似ている。

秋雨前線で、北九州が大荒れになっている。何十年に一度の大雨が、昨今、年に何度も起きている。

    女房いう 佐賀武雄さんて どこの人

佐賀県の武雄市には全国有数のクスノキの巨木が三本ある。いずれも見に行ったが、今も無事なのだろうか。

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「天明年中叓」の解読を続ける。「主殿頭に申渡す趣」の項のつづき。

これなどは、民(たみ)の油をしぼり、上の御仁徳を損じ候て、不忠、不義、申すべき様なき次第に候。吝嗇の筋より、御代々御伝来の武器など、年々(しか)御手入れも仕らず、見分の処上は直し候えども、実の御用にも立たざる儀、あまたこれ有り候。これなどは、その掛りにて、心得これ有り候役人は、平生、歎息に堪えざる事に候。
※ 聢と(しかと)➜ たしかに。まちがいなく。
※ 歎息(たんそく)➜ 悲しんだりがっかりしたりして、ため息をつくこと。


一 拾ヶ所、火消屋鋪は、火事の節、御手当とは申しながら、その実は御深慮(しんりょ)のこれ有る御大切の御役屋鋪にて候。然る処、御倹約の名目(みょうもく)故、十五年前辰年大火已後、別して御普請麁末(そまつ)の時節、その後御修覆もこれ無く、近来壁など落し候間、外より内まで様子見え、透き候所もこれ有り候事。
※ 深慮(しんりょ)➜ 深く考えをめぐらすこと。深い考え。

一 伊勢、天照皇太神宮の御社(やしろ)は、弐拾五年目には、新規御造営これ有り来り候処、願い候ても取り上げ申さず候。伝通院(でんつういん)は、御先祖様、格別の御由緒これ有る御寺に候処、近年破損に及び候ゆえ、度々願い出候えども取り上げ申さず。御宮から、御寺からゆえ、賄賂(まいない)金指し出し候儀、これ無き故、聞き届け致さず、追々大破に相成り候。この外、相准(じゅん)じ候儀、種々これ有り候えども、右弐ヶ所は重典(じゅうてん)のものとも申さず、何らの御用差し置き候ても、第一御普請これ無く候ては、相叶わざる事に候処、秋毫(しゅうごう)心頭(しんとう)に留めず候えば、自然と、上の御徳輝(とっき)も薄く成り行き候事。
※ 伝通院(でんつういん)➜ 小石川にある浄土宗の寺。徳川将軍家の菩提寺。
※ 重典(じゅうてん)➜ 重要な、守らなければならないきまり。
※ 秋毫(しゅうごう)➜ きわめて小さいこと。微細なこと。わずかなこと。いささか。
※ 心頭(しんとう)➜ こころ。念頭。心中。
※ 徳輝(とっき)➜ 徳のかがやき。徳の現われ。
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「天明年中叓」を読む 10

(散歩道のヒャクニチソウ)

よく見ると、花の中央に小さな五弁の花がサークル状に八輪、咲いているように見える。これは何だろう。

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「天明年中叓」の解読を続ける。「主殿頭に申渡す趣」の項のつづき。

もっとも、それ以前より権勢(けんせい)相募(つの)り、誠に天下の御政務、その身壱人に帰(き)し候にしたがい、惣じて御倹約と申す名目(みょうもく)を立て、御膳部(ぜんぶ)よりはじめ、御召物(めしもの)、その外一切の御用残らず、代金のみに相かかわり、自然と麁薄(そはく)へ相成り、これなどは誠に以って冥加(みょうが)、恐ろしき儀に候。
※ 権勢(けんせい)➜ 権力を握っていて威勢のいいこと。
※ 名目(みょうもく)➜ 表向きの理由。口実。めいもく。
※ 膳部(ぜんぶ)➜ 膳にのせて出す料理。食膳。
※ 麁薄(そはく)➜ 粗末なこと。
※ 冥加(みょうが)➜ 違約や悪事をしたら神仏の加護が尽きても仕方ないという意で用いる自誓の言葉。


さて、倹約(けんやく)と申すは、聖人の大徳(だいとく)にて、至って宜事(ぎじ)に候えども、上たる御壱人、または親身(しんみ)たる者の上にて、とかく君親(くんしん)たる人の行い候義にて、臣子(しんし)たるものより、君親たる人のために行い候道にてはこれ無く、その上誠に倹約と申す仕方にこれ無き吝嗇(りんしょく)の筋に候えば、下々より、自然と上をうらみ奉り候様に成り行き候。
※ 大徳(だいとく)➜ 偉大な徳。りっぱな徳。
※ 宜事(ぎじ)➜ 宜しきこと。
※ 親身(しんみ)➜ 肉親のように心づかいをすること。
※ 君親(くんしん)➜ 主君と親。
※ 臣子(しんし)➜ 主君や親に仕える身分の者のこと。
※ 吝嗇(りんしょく)➜ ひどく物惜しみをすること。けち。


この段、文盲(もんもう)故と存じ候。倹(けん)と吝(りん)と表裏にて候儀、相分らず、御政害(せいがい)この上なき事に候。それゆえ、追従(ついしょう)の諸役人、吝嗇の筋を倹約と心得違い、下々痛みに成り候ても、上へ御利益(りやく)付き候えば、姦智(かんち)の者どもまで、近年、吝嗇の処より立身いたし、諸太夫(だいぶ)へ至り候人、間々(まま)これ有り候。
※ 文盲(もんもう)➜ 文字の読み書きができないこと。
※ 政害(せいがい)➜ まつりごとの害。
※ 追従(ついしょう)➜ 他人の気に入るような言動をすること。こびへつらうこと。
※ 姦智(かんち)➜ 奸智。悪賢い知恵。悪知恵。
※ 太夫(だいぶ)➜ 江戸時代、大名の家老職に当る者を指して呼ぶ。


読書:「帰還」 堂場瞬一 著
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「天明年中叓」を読む 9

(散歩道のヤナギハナガサに止まるベニシジミ、22日撮影)

シジミチョウと貝のシジミは形や色がそっくりである。どちらかが似ていると、後追いで付けられた名前であろう。チョウが付いている分、シジミチョウが後だろうと想像付くが、そこは目をつぶっても、やはり食料としてのシジミ貝が先に名前が付き、蝶の名前は後だろう。

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「天明年中叓」の解読を続ける。「主殿頭に申渡す趣」の項のつづき。

天然の御物好(おものずき)ばかりにて、世の中、何(いずく)までも殷冨(いんぷ)と而已(のみ)思し召され、御物好の所より阿諛(あゆ)を以って附け込み、追々工智(こうち)をめぐらし、近年、薦挙(せんきょ)近辺の権家(けんか)は、皆々その方親族の者ばかりにて、その方召仕いの妾(めかけ)を願望の計事(はかりごと)となし、度々登城仕り、殊に数日逗留、その節も莫太(ばくだい)金帛(きんぱく)相送り、内外の親睦をつくろい置挙き候儀、人口(じんこう)もかえりみず致し方に候。
※ 天然(てんねん)➜ うまれつき。天性。
※ 物好(ものずき)➜ 物好み。特別な物事を好むこと。珍しい物事や風流、趣味などに心を用いること。
※ 殷冨(いんぷ)➜ 栄えて豊かなこと。
※ 阿諛(あゆ)➜ 顔色を見て、相手の気に入るようにふるまうこと。追従(ついしょう)。
※ 工智(こうち)➜ 巧智。たくみな知恵のこと。
※ 薦挙(せんきょ)➜ 人を推薦して役職に就かせること。推挙。
※ 権家(けんか)➜ 権勢のある家。権門。勢家。
※ 金帛(きんぱく)➜ 金と絹。金銭と布帛(ふはく)。
※ 人口(じんこう)➜ 世人の口の端(は)。世間のうわさ。


その上、忰(せがれ)事は、御奉公の年功(ねんこう)もこれ無き処、所々工智をもって、若年寄に経(へ)上り候。これ又、才徳(さいとく)これ有るもの、余無き義事に候えども、闇愚(あんぐ)生質(しょうしつ)にて、親の権威をかりて、諸家の金銀、宝物をむさぼり集め、既に佐野某(それがし)のために、枉死(おうし)を遂げ候ほどの悪行跡、恥辱この上無き事に候処、その節も、就服恐懼(きょうく)の顔色少しも無く、公然たるる勤め方、言語に絶する、甚だ以って、人情に遠き様子に候。
※ 年功(ねんこう)➜ 長年その事に携わって積んだ経験。
※ 才徳(さいとく)➜ 才知と徳行。
※ 闇愚(あんぐ)➜ おろかで道理がわからないこと。暗愚。
※ 生質(しょうしつ)➜ 生まれつきのたち。もって生まれた気質。
※ 枉死(おうし)➜ 災いにあったり殺害されたりして死ぬこと。非業の死。
※ 恐懼(きょうく)➜ おそれかしこまること。

(「主殿頭に申渡す趣」の項、つづく)
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「天明年中叓」を読む 8

(散歩道のカラスノマクラ、22日撮影)

秋には赤く色づいて、よく目立つカラスノマクラも、今は緑の瓜坊である。

朝、防災訓練。9時にスマホがけたたましく鳴って、地震発生のエリアメールを受信した。もちろん訓練ではあるが。実際に地震発生時にこのエリアメールがどう役立つのだろう。同様に、先日、台風時に、川根の避難勧告を受信した。当地には関係なかったが、それは役に立ったのかもしれない。

今日の訓練は班の集合指定地に集っただけで終わった。この猛暑の時期、区で集まっての訓練は、別の危険が生じるからか、数年前から実施されない。

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「天明年中叓」の解読を続ける。

一 相良城、岡部殿御請け取り後、剥(は)ぎ捨ての儀、仰せ付けられ候。晴天十日の内に、人夫を具(ぐ)し、一万人ずつ出し、打ち崩し、引き崩し、木石(ぼくせき)、戸障子などまで、その所に、そのまま捨て置き候様に、との御事の由。世の人言えるは、不忠の人、築きし城地(じょうち)なれば、剥ぎ捨てに成りしか、と言えりとぞ。
※ 城地(じょうち)➜ 城と領地。また、城下。

   田沼主殿頭(とのものかみ)殿へ仰せ渡され候趣
その方義、積年(せきねん)御側(そば)を相勤め、格別御懇意を蒙(こうぶ)り、抜群の御厚恩を以って、追々結構(けっこう)の身分に候えば、責(せめ)るは、寸志を念(ねん)じ、御学文(学問)を御勧(すす)め申し上げ、何卒(なにとぞ)御政事(まつりごと)に御自親(みずから)、思し召しさせられ、以後は、御先代様御同様の、御盛立(せいりゅう)にも在らせられ、上下一統、御仁徳(じんとく)感戴(かんたい)奉り候の処、
※ 田沼主殿頭(とのものかみ)➜ 田沼意次。
※ 積年(せきねん)➜ 積もる年月。長い年月。
※ 結構(けっこう)➜ ぜいたくをすること。
※ 寸志(すんし)➜ 少しばかりの志。
※ 何卒(なにとぞ)➜ なんとかして。ぜひとも。
※ 盛立(せいりゅう)➜ 衰えたのをふたたび盛んにする。再興する。 
※ 一統(いっとう)➜ 一つにまとめ合わせた全体。総体。一同。
※ 感戴(かんたい)➜ ありがたくおしいただくこと。


いかにも心付き、諸事御伝受申し上ぐべき処、さはなくして、御読書の儀は勿論、本朝古来の義士、勇忠臣、諸臣などの義論に拘(かかわ)り候儀、御側向(おそばむき)より申し上げず候様、厳しく制禁申し付け、たとえば、小児向け様に御仕立て申す御政事(まつりごと)の筋は、夢にも御存知遊ばされず。
※ 心付(こころづく)➜ 今まで意識の中にはいらなかった物事が、意識される。気がつく。
※ 義論(ぎろん)➜ 義(人のふみ行うべき正しい筋道)の論。
※ 制禁(せいきん)➜ ある行為を禁止すること。禁制。

(「主殿頭に申渡す趣」の項、つづく)

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「天明年中叓」を読む 7

(散歩道のシオカラトンボ/一昨日撮影)

孫が滞在していたとき、オスをシオカラトンボと呼び、メスは体が茶色っぽいので、ムギワラトンボと呼ぶのだよ、と教えると、首をかしげていた。爺じがまたいい加減なことを教えるとでも思ったか。今の子はこんな常識も学んでいないのだろうか、と爺じは少し不安に思ったものである。

自分の子供の頃は、昆虫は採集して標本にするもので、多くの男の子は昆虫採集キットを持っていて、一日中、山野を駆け回り、集めた昆虫を毒瓶や注射器で殺し、固まらない中に虫ピンで形を整え、標本を作ったもので、夏休みが終わると、その戦利品を宿題として学校へ提出したものである。そんな夏休みが、何時から無くなったのだろう。

午後、Sさんに頼まれた書類を届け、お店に客がいなかったので、ついつい二時間ほど話をした。Sさんは、地元の最もローカルな歴史に詳しくて、色々な話を聞き、情報を頂いた。

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「天明年中叓」の解読を続ける。

               井上武三郎
遠州相良城付武器之内
一 長柄 八拾筋    一 弓臺 六
一 同替鞘 七拾五   一 弓〆革 六
一 手鑓 弐拾五本   一 関弦(せきつる) 百
一 弓 拾張      一 弦〆革 六
一 征矢(そや)八百五拾本   一 弦〆革 六
一 靭(うつぼ) 六       一 鉄炮 百挺
一 奴弓(いしゆみ) 壱
※ 奴弓(いしゆみ)➜ 機械じかけで石や矢を発射する強力な弓。
    内鑄形附
一 鉄炮三百目(匁) 壱挺   一 火縄 六拾
一 同 五拾目(匁) 壱挺   一 鉄炮革覆 三
一 同 百目(匁) 七拾挺   一 玉箱 弐荷
一 同 拾匁 七拾挺   一 陣貝(じんがい) 数なし本のまゝ
一 同 六匁 五挺    一 陣笠 七拾
一 同 四匁三分 七挺  一 三ッ道具 五組
一 同 三匁五分 廿挺  一 祢ぢ板 壱本
一 胴乱(どうらん) 拾弐      一 鑄鍋(いなべ) 壱
一 薬入 拾
    右の通り、浜松城付に御預け成され候間、岡部美濃守に相談し、
    請け取らるべく候。
      丁未十二月

    明善根(みょうぜんがね)武器三口の□□左の通り。
一 長柄鑓 百七拾七本  一 手鑓 五拾八本
一 弓 百三拾六張    一 征矢(そや) 千八百七拾本
一 鉄炮 弐百弐拾五挺  一 小姓具足 七拾弐領
一 数具足 八拾領
一 金壱萬三千両     一 米 千俵
一 味噌 拾樽      一 塩 三拾俵
    右の通り、御勘定奉行久世下野守殿、御差図相済み、相良城残し
    置き候様、田沼龍助へ仰せ渡され候旨。
      未十二月
※ 田沼龍助(たぬまりゅうすけ)➜ 田沼意明(おきあき)。田沼意次の孫。遠江相良藩の第二代藩主、のち陸奥下村藩の初代藩主。
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「天明年中叓」を読む 6

(岡部英一著「緑十字機決死の飛行」)

磐田在住岡部英一氏からは、このブログを見たと連絡を頂き、氏の次なるテーマの資料提供をさせてもらい、知り合いになった。話をする中、岡部氏の話を、ぜひ聞いてみたいという気持ちが湧き、希望を出したところ、岡部氏の講演会が、今日実現した。

公民館主催の、市民、おやじ、もみじの三講座の行事として、一般の人の参加も募るという形になった。ただ、平日の午前中という時間帯のこともあり、なかなか参加者が増えなかった。9時半に、一人でも多くと、女房を動員して出掛けた。参加者は五、六十人で、少し寂しいかと思った。

8月15日の玉音放送から、8月28日のマッカーサーが厚木に降り立つまでの、戦後史空白の2週間。「緑十字機決死の飛行」はその間に日本で起きた秘話を、岡部氏が某メーカーを退職後、10年近くかけて調査し、まとめ上げた一冊である。この本は昨年、静岡県の自費出版大賞を受けている。これだけの力作にして貴重な本が、著者の自費出版に頼らねばならないという、出版界の現状には悲しいものがある。

マッカーサーの命令を受けた軍使を乗せた緑十字機が、東京に帰還途中、事もあろうに、竜洋町鮫島地先の遠州灘の砂浜に、不時着してしまった。帰還が遅れれば、日本の行末はどうなるのか、絶体絶命の危機を迎えた。その時、軍使や、鮫島の住民たちなど、それぞれの立場の人々が、どのように動いて、危機を出したか。講演内容はここでは、とても書き尽せない。

講演後、上写真の本を即売したが、岡部氏は15冊も売れたと、その事を喜んでくれた。講演会のあと、一緒に昼食をとり、自宅に来て頂いて、さらに二時間ほど、お話をした。岡部氏の、この情熱はどこから来るのだろうと、しゃべることでは負けない自分が、専ら聞き役に回っていた。

岡部氏とお話するのはまだ二度目だが、これから長い付き合いになりそうである。

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「天明年中叓」の解読を続ける。

                   西尾隠岐守
遠州相良城破却、仰せ付けられ候。取毀(こぼち)の儀、仰せ付けられ候条、人歩に指し出し候様、致さるべく候。委細の儀は、御勘定奉行、承り合わさるべく候。

                   西尾隠岐守
 遠州相良城附武器の内
一 長柄 四拾本    一 手鑓 拾五本
一 同替鞘 四拾弐   一 関弦(せきつる) 五拾三
一 弓 三拾六挺    一 靭 四ッ
一 弓臺 四      一 弓〆革 四
一 弦巻 弐拾五     一 鉄炮六拾挺
一 征矢(そや) 四百七拾本
※ 人歩(にんぷ)➜ 建築、土木工事などの肉体労働に従事する労働者。人足。
※ 弦巻(つるまき)➜ 掛け替えのための予備の弓弦を巻いておく籐製の輪。

    内鑄形附
一 鉄炮百目(匁)壱挺  一 火縄 四十五
一 同五拾目 壱挺    一 鉄炮革覆 弐
一 同 拾匁 四拾挺   一 数具足 廿領
一 同 六匁 弐挺    一 玉箱 壱荷
一 同 五匁 弐拾壱挺  一 小姓具足 廿七領
一 同 四匁三分 五挺  一 三ッ道具 三組
一 同 三匁五分 五挺  一 鑄鍋(いなべ) 壱
一 胴乱(どうらん) 八
一 薬入 九
     右の通り、横須賀城付候。御預け仰せ付けられ候間、
     岡部美濃守ヘ相談、受け取らるべく候。
      十二月
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「天明年中叓」を読む 5

(散歩道のノウゼンカズラ)

午後、散歩に出たら、まだまだ暑くて、30分ほどで、汗たらたらで帰った。外で、証券会社の若者が待っていた。今は運用に充てるお金もないので、普通なら玄関で応対して帰ってもらうのだが、自分が冷房に当りたくて、応接に上げた。ほとんど雑談で、一時間ほどして、ほてった身体が漸く落ち着いた頃、帰って行ったが、彼の役に立ったかどうか。束の間ながら涼しく過ごせたことは間違いないが。

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「天明年中叓」の解読を続ける。

一 右城附武器の儀、別帋(べっし)の通り、心得らるべく候。米、金、塩、味噌などの儀は、御勘定奉行承り合わせ、御代官へ引渡し候様、致さるべく候。

                    本田(多)伯耆守
 遠州相良城附武器の内
  一 長柄 五拾筋     一 同替鞘 五拾
  一 弓 四拾張      一 征矢 五百五拾本
  一 弓臺 五ッ      一 関弦 七拾
  一 弦〆革 三拾弐    一 矢柄箪笥 壱荷
  一 鉄炮 六拾五挺    一 手鑓 拾八本
  一  四ッ       一 弓〆革 五
※ 替鞘(かえざや)➜ 取り替えのための鞘
※ 征矢(そや)➜ 鋭い鏃をつけた、戦闘に用いる矢のこと。
※ 弓臺(ゆみだい)➜ 弓を立てておく台。
※ 関弦(せきづる)➜ 昔、戦陣で用いた弓弦の一。弦苧(つるお)に黒く漆を塗った上に絹糸を巻き、さらにこれを漆で塗り固めたもの。
※ 矢柄(やがら)➜ 矢の幹。鏃(やじり)と矢羽根を除いた部分。普通は篠竹で作る。
※ 手鑓(てやり)➜ 柄が、標準より短い槍のこと。
※ 靭(うつぼ)➜ 矢を携帯するための筒状の容器。

     内、鑄形
  一 鉄炮三百目(匁)壱挺 一 同百匁 壱挺
  一 同拾匁 五挺     一 同六匁 三拾三挺
  一 同三匁五分 廿七挺  一 胴乱 八
  一 火縄 四拾五     一 鉄炮革覆 弐
  一 陣貝 壱ッ      一 陣太鼓
  一 数具足 廿領     一 陣笠 六拾
  一 鑄鍋 壱       一 薬入 九
  一 鉄炮弐拾匁 壱挺   一 玉箱 弐荷
  一 同三匁三分 五挺   一 小姓具足 廿領
  一 三ッ道具三組
     右の通り、城付候間、岡部美濃守相談し、受け取らるべく候。
※ 鑄形(いがた)➜ 鋳型。鋳物を鋳造するときに、溶かした金属を注ぎ入れる型。
※ 胴乱(どうらん)➜ 皮または布製の四角の袋で、鉄砲の弾丸を入れるのに用いた。
※ 陣貝(じんがい)➜ 昔、陣中で軍勢の進退などの合図に吹き鳴らした法螺貝。
※ 数具足(かずぐそく)➜ 量産品の安物の具足。
※ 鑄鍋(いなべ)➜ 溶鉱炉で溶かした鉄を取り出して鋳型に注ぎ込むのに用いる容器。
※ 薬入(くすりいれ)➜ 火縄銃用火薬入れ。
※ 小性(こしょう)➜ 小姓。武家の職名。主君に近侍してその身辺の雑務にあたるほか,外出の折や戦場にあっても騎馬もしくは徒歩にて側近く仕える近臣の称呼である。
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