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「復讐 天橋立」を読む 19

(散歩道のタカサゴユリ)

午後、「駿遠の考古学と歴史」講座に出席した。30分ほど前に行き、教授のSTさんと、「天正の瀬替え」について話した。今、考えているのは、天正の瀬替えは、実は慶長の瀬替えだったということで、まだまだ仮説の域を出ないが、いずれこのブログで論じてみたい。

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「復讐 天橋立」の解読を続ける。

殿これを聞こし召され、只今次にて我を誹謗(ひぼう)し、あざ笑いたるは、臺右衛門の声と覚ゆるなり。臣下の分際(ぶんざい)として過言(かごん)を吐く奇怪さに、これへ呼べと、気色(けしき)を変えて曰(のたま)いける。御側(そば)の人々、手に汗をにぎり、すわや例の麁忽(そこつ)ものが、また殿の御機嫌を損ないたりと。各(おのおの)顔見合わせ、いかにとも言い出すべき詞もなく、座中ひそまり黙々(もくもく)たり。
※ 誹謗(ひぼう) ➜ 他人を悪く言うこと。そしること。
※ 分際(ぶんざい) ➜ 身分・地位の程度。身のほど。
※ 過言(かごん) ➜ 度を過ぎた言葉。無礼な言葉。
※ 気色(けしき) ➜ 表情や態度に現れた心のようす。顔色。
※ すわや ➜ 突然の出来事に驚いて発する語「すわ」を強めた言葉。
※ 麁忽(そこつ) ➜ 粗忽。軽はずみなこと。そそっかしいこと。軽率。
※ 黙々(もくもく) ➜ 黙っているさま。


されども、大胆不敵の臺右衛門、恐るゝいろなく召しに応じ、御前に罷り出れば、殿大きに急(せ)かせ給う様子にて、その方唯今某(それがし)をさして、身のほどをも知らぬ愚か者なりとさみせしは、緩怠至極(かんたいしごく)の曲者(くせもの)かな。言い開くべき子細(しさい)あらば、速やかに申すべし。
※ さみす(狭みす)➜ 見下げる。軽んじる。
※ 緩怠至極(かんたいしごく) ➜ 無礼なこと、この上ない。
※ 子細(しさい) ➜ 特別の理由。こみいったわけ。


臺右衛門、承り参(さん)候。只今、君の自負(じふ)し給うは、下世話(げせわ)に大名の懐子(ふところこ)とかや申すごとく、英雄才士も(あまね)世塵(せじん)に渡らざれば、この間違いを引き出すことあるものなり。殿すでに諸士と立合い、及ぶもの無きを、自(みずか)らその芸に長じたりと誇り給うは、これ愚かなるの甚だしきなり。その故、家来の身として、主人に仕勝(しか)ち、益なしと、各(おのおの)わざと打ち負け、扨(さて)も殿は天晴(あっぱ)れの手練(しゅれん)、我々が未熟の及ぶところにあらずと、追従(ついしょう)軽薄(けいはく)し、おもねり諂(へつら)うをまことと思召さるゝかや。
※ 下世話(げせわ) ➜ 世間で人々がよく口にする言葉や話。
※ 懐子(ふところこ) ➜ 大事に育てられた子。転じて、世間知らずの子。
※ 普(あまね)く ➜ もれなくすべてに及んでいるさま。広く。一般に。
※ 世塵(せじん) ➜ 世の中の煩わしい雑事。俗事。
※ 手練(しゅれん) ➜ 熟練した手際。よく慣れてじょうずな手並み。
※ 軽薄(けいはく) ➜ 人の機嫌をとること。おせじ。ついしょう。


読書:「鼠草紙 新酔いどれ小籐次 13」 佐伯泰英 著
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