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「水濃徃方」の解読 23


(裏の畑のナツミカンの花)

近頃、食料品の買い出しと図書館以外、ほとんど外出していないと気付いた。お昼に池新田のSN氏より、庭のバラが花盛りだから、見に来るように電話があった。女房を連れて、行ってみるか。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

「雁首、吸口、釘箱の中や、煙草盆の引出しで廃(すた)るものが、子供衆の慰(なぐさ)みになれば、先もよし、こっちもよし。お前様もこのお屋敷の束ねを成さりますが、小切米(きりまい)の徒士(かち)、若党へも相応に、勝手(かって)になる様に成されて遣(つかわ)されば、旦那様のお為にならず。上のお勝手に
なる様になさるれば、下が迷惑。そこを真の知恵者と云うは、上もよし、下もよしと、取り計らうものでなければ、本のものじゃ御座りませぬ。」と、歯に衣着せず、言い出すにぞ。
※ 切米(きりまい)➜ 江戸時代、幕府・藩が軽輩の士に与えた俸禄米または金銭。春・夏・冬の三期に分けて支給された。
※ 勝手(かって)➜ 暮らし向き。生計。物事を行なうときなどの都合や便利。
※ 歯に衣着せず(はにきぬきせず)➜ 思ったことや感じたことを率直に言うさま、遠慮なくずけずけとのけるさま。

太郎左衛門、大いに感じ、「其方(そなた)(う)い奴なり。汝が言葉を用いば、心得になる事有るべし。云い損ないは苦しからず。存じ寄り、いっぱいを申すべし」と、敷物与えて、酒を振舞(ふるま)い、茶漬よ、飯よと世話をやけば、「これはほんの、飴売りて地固まる。こう一盃(いっぱい)引っかけては、どんな事でも言い兼(か)ねは致しませぬ。」
※ 愛い奴(ういやつ)➜ 感心なやつ。けなげなやつ。
※ 飴賣て地か多まる(あめうってぢかたまる)➜ 諺「雨降って地固まる」のもじり。

「ヱヘン/\、抑(そもそも)この取替兵衛(取かえべい)という詞(ことば)、文字は僅かに五文字なれども、上は天子様より、下は河中の賤(しず)の男(お)、賤の女(め)、この取かえべいの道理に洩(も)るゝ事なし。天下の人を、この飴のごとく、鑿(のみ)をもって、コウ二つに割りて見れば、君子と小人との二つ。君子は小人を治(おさ)めんために、心に骨を折らせられ、小人は君子を養わんために、身に骨を折りまする。心の骨折りと身の骨折りとを、取かえべい。上には賢君(けんくん)良弼(りょうひつ)と誉(ほ)められ給うだけ利が残り、下は淳俗(じゅんぞく)良民(りょうみん)と称せらるゝが儲けに成ります。これ、上も損せず、下も傷まず。天地交泰(こうたい)の取かえべい。」
※ 賢君(けんくん)➜ 賢明な君主。かしこくてすぐれた君主。明君。
※ 良弼(りょうひつ)➜ よい補佐の臣。
※ 淳俗(じゅんぞく)➜ 素直で、かざりけのない風俗。世なれていない風俗。淳風。
※ 良民(りょうみん)➜ 善良な人民。まじめな国民。
※ 交泰(こうたい)➜ 天地、君臣など二つのものが互いに通ずること。通じあって安泰であること。
(「水濃徃方」つづく)  
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「水濃徃方」の解読 22


(蓮華寺公園のスイレン一輪)

4月21日、広い蓮華寺公園で一輪だけ見かけたスイレンの花である。一日雨降りで、表で写真も撮れなかったので、蓮華寺公園の写真から落穂ひろいである。

小川国夫の「悲しみの港」を読み終えた。久し振りに昭和の小説を懐かしく読んだ。平成、令和の若者にはたぶん読まれることはないだろうと思う。それより、今、こんな小説は出版さえされないのではなかろうか。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

ここに番町辺りの御屋敷方、山の手の裏々まで隈なく歩(あり)く、仕出し飴の取替(とっかえ)兵衛、新しき単物(ひとえもの)に襷(たすき)掛けて、街道に丈六かいて、気違いかと思えば、損の行く商(あきない)には替えず、本性かとおもえば、揃わぬ無駄口、跡先に、童(わらんべ)ども取り廻して、還俗(げんぞく)した布袋和尚見る様に、雁首(がんくび)、吸口、錠前、小刀の折(お)れまでも、直(ね)うち相応、慾ぼりなく売って通る。
※ 仕出し(しだし)➜ 工夫・趣向を凝らすこと。また、そのもの。新案。流行。
※ 丈六かいて(じょうろくかいて)➜(丈六の仏像が、多く結跏趺坐の姿であるところから)あぐらをかいて。。
※ 還俗(げんぞく)➜ 一度出家した者がもとの俗人に戻ること。
※ 雁首(がんくび)➜ キセルの頭部。先端にタバコを詰める火皿がある。
※ 慾ぼり(よくぼり)➜ 欲張り。

お厩谷(むまやたに)の永井右馬頭(うまのかみ)様のお屋敷、お台所の立臼(たてうす)に背(せなか)をあてゝ、アヽ今日も大分草臥(くたびれ)た。この屋敷の子供等は飴食わぬ願がけでもしたか。いつ来ても、すっとこないなす事ぞと、口汚いも常になっては、誰叱る者もなく、中間(ちゅうげん)はした、寄りたかってなぶり廻る。
※ 立臼(たてうす)➜ 地上に置いて餅などをつく臼。
※ すっとこな ➜ 素通り。すっぽかし。肩すかし。
※ いなす ➜ 攻撃を簡単にあしらう。また、自分に向けられた追及を言葉巧みにかわす。。
※ 中間(ちゅうげん)➜ 江戸時代、武士に仕えて雑務に従った者の称。
※ はした ➜ 召使いの女。下女。

その騒ぎ、御家老の斎藤太郎左衛門様お聞きなされ、「その取替兵衛、聞き及んだ。ちょと/\逢いたいものじゃ。これへ呼べ」と、御家老さま対面あって、「そちが面躰、さりとては、一トくせあるもの。何をしても渡世あらんに、廻り遠い替(かえ)もの商(あきない)、それでも見事勘定が合う事か」との
お尋ね。
※ 面躰(めんてい)➜ かおかたち。おもざし。面貌。面相。

飴売り、皃(かお)を詠(なが)めて「おまえ様もこのお屋敷では二番と下らぬ親玉様じゃが、よっぽどな事を御意(ぎょい)なされ、誰も頼(たの)みはせまいし、この暑いのに、利の無い事に骨を折ってたまるもので御座りますか。利はしたたか有れども、私が利はそれだけ。先(さき)へも利を付ける故、これでも合うかと思わっしゃるで、何時までも愛想が尽(つ)ませぬ。まづ手間の利を願わば、先の利を思うが肝要。」
※ したたか(れい)➜ 分量がたいへん多いさま。たくさん。
※ 愛想が尽きる(あいそうがつきる)➜ 好意や信頼が持てなくなる。
(「水濃徃方」つづく)  

読書:「悲しみの港」 小川国夫 著
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「水濃徃方」の解読 21


(庭のピンクのセッコク/デンドロビウム)

緊急事態宣言も、何度目かになると、人々の動きも中々変えられないようだ。ワクチン接種も遅々として進まない。日本のすべてが、平和ボケで危機意識が足らないのではなかろうか。

ワクチン接種も、老人は後回しにして、繁華街でふらふらしている若者たちにこそ、真っ先に捕まえて実施した方が、蔓延は防げて、経済にもダメージが少ないのではないか、などと極論を思ったりする。

我々片田舎の老人たちは、この時期、危ない所へは出て行かないし、まだ半年や1年は、今のままで我慢できる。当地、島田市は昨日も今日も陽性者は1名だという。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

手ずから飯匙(いいかい)、茶碗、酒の肴は何よけんと、小余綾(こゆるぎ)の急ぎあり来ても、西河岸の鮎のすしは間に合わず。近き例(ためし)石焼豆腐、蒲焼(かばやき)、新蕎麦の香りに愛(め)でゝは立ち去り難き鼻の下陰(したかげ)、嗅げて、人が謗(そし)るも知らず。梅が鰹(か)、桜入りの蛸と歌人の願い重し。両国の上林が茶飯に、山下の薮屋が香の物で、さら/\と五、六杯。なでしこ、軽焼(かるやき)、おみ菜飯(おみなめし)、求食(あさ)らぬ秋の野良もなく、真先(まっさき)、でんがく、蜆汁、味(あじ)わい残せる歌もなし。
※ 手ずから(てずから)➜ みずから。自分自身で直接。
※ 飯匙(いいかい)➜ 飯を盛るためのしゃもじ。
※ 小余綾の磯(こゆるぎのいそ)➜ 神奈川県大磯付近の海岸。[枕]歌枕の「小余綾の磯」から、磯と同音を有する「急ぐ」「五十 (いそぢ) 」にかかる。
※ 石焼豆腐(いしやきどうふ)➜ 火熱した石の上で豆腐を焼いて、みそのたまりなどをかけて食べた。
※ 鼻の下陰(はなのしたかげ)➜「花の下陰」(花の下の陰になったところ)のもじり。「陰」と「嗅げ」を掛けた。
※ 上林(かんばやし)➜ 茶舗で有名。
※ 軽焼(かるやき)➜  糝粉(しんこ)に砂糖を加え、軽く焼いた煎餠。軽焼煎餠。
※ なでしこ、~ ➜ 秋の七草のもじり。軽焼は「かるかや」、おみな飯は「おみなえし」。

四十二の物争いも、今の世ならば、浜焼と潮煮(うしおに)、貝焼きと蒲ぼこの争いを載(の)すべし。かかる女中の好(この)みを、時と羽根をのす、蝶千鳥(ちょうちどり)焼、鹿の子餅満更(まんざら)、見立てられても悔しいとも思わず。広瀬さんの口へは、団十郎煎餅が丸で入る。お岩さまの歯では、雷蔵おこしが微塵になるのと、異な事に自慢をも味噌といい、悋気(りんき)も焼餅と下卑(げび)て、いざよい慳貪(けんどん)の銘になれば、恋も煮凝り(にこごり)の事に聞きなしぬ。追っ付け長局(ながつぼね)前栽(せんざい)に、薩摩芋作らるゝなるべし。
※ 四十二の物争い ➜ 二つの事物を一つの歌に読み込む、いわゆる物争いの作品である。その和歌が、四十二首あり、その中で優秀な和歌を決めている作品である。
※ 鹿の子餅(かのこもち)➜ 餅菓子の一。餅や求肥(ぎゅうひ)などを包んだ赤小豆(あかあずき)のさらし餡(あん)の上に、蜜煮した小豆粒をつけたもの。
※ 満更に(まんざらに)➜ (下に否定の語を伴って)その状況、判断などが絶対ではないさまを表わし、その逆の状況、判断を消極的に肯定する。必ずしも。
※ 異な事(いなこと)➜ 不思議なこと。おかしなこと。
※ 味噌(みそ)➜ 自慢とする点。工夫・趣向をこらした点。
※ 悋気(りんき)➜ 男女間のことなどでやきもちをやくこと。
※ 下卑(げび)➜ 下劣で卑しいこと。また、意地きたなく、けちくさいこと。
※ いざよい ➜ 進もうとして進まないこと。ためらい。躊躇。
※ 慳貪(けんどん)➜ 物惜しみすること。けちで欲深いこと。
※ 煮凝り(にこごり)➜ 魚などの煮汁が、冷えて固まったもの。
※ 追っ付け(おっつけ)➜ やがて。そのうちに。まもなく。
※ 長局(ながつぼね)➜ 宮中や江戸城大奥などで、長い1棟の中をいくつもの局(女房の部屋)に仕切った住まいのこと。
※ 前栽(せんざい)➜ 草木を植え込んだ庭。寝殿造りでは正殿の前庭。のちには、座敷の前庭。
(「水濃徃方」つづく)  
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「水濃徃方」の解読 20


(庭のフリージア)

区の集金、第一回目の自動振替の手続きにJAに行き終わった。

駿河古文書会の予習をした。一回分を終える。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

   取替兵衛之篇

千年/\三千年と売り弘めしは、(おや)中村七三地黄煎。その後、廣治三官飴国性の浄瑠璃語りし頃まで、世の流行り事もしおらしく、浮世をめぐるきりや徒む。大磯の虎ぎすなんぞも、今に茶事の咄しに残る。所縁(ゆかり)の色の沢之丞帽子。抑(そもそも)芝居という事、何者の仕始めし事にや。役者の発句(ほっく)といえば、やんごとなき玉簾(たまだれ)の内までも、伝(つて)を求て、定家(ていか)、家隆(かりゅう)の真跡(しんせき)の想いをなすこの時節。
※ 親中村七三(おやなかむらしちざ)➜ 初代中村七三郎。元禄期に活躍し、江戸和事の祖と称された歌舞伎役者。
※ 地黄煎(じおうせん)➜ 水飴のこと。漢方の地黄を煎じたのに水飴を混ぜて、飲みやすくしたのが元で、のちにただの水飴や竹の皮に引き伸ばした飴、固形の飴の名称となった。
※ 三官飴(れい)➜ 江戸時代から昭和時代にかけて豊前国(福岡県)小倉名物として販売されていた飴のこと。
※ 国性爺(こくせんや)➜ ていせいこう(鄭成功/国姓爺)。(浄瑠璃では「国性爺」と書く)浄瑠璃「国性爺合戦」の主人公。明朝再興のために戦った鄭成功をモデルとする。
※ 虎ぎす(とらぎす)➜ 関東以南の太平洋岸に棲息する海水魚。
※ 沢之丞帽子(さわのじょうぼうし)➜ 女性のかぶり物の一種。元禄時代の代表的な女形である荻野沢之丞が使用したもので、帽子の両端におもりを入れて布が返るのを防いでいた。婦女子の間で流行した。

何をがなと、女の求むる鬢付(びんづけ)花の露。皆な彼等が名題(なだい)を借りて、品の善し悪し、直段の高下を論せず。僅かの間に建て並ぶる家蔵(いえくら)、畢竟(ひっきょう)役者に立てて貰う同前なるべし。それさえ二十年已前(いぜん)までは、女中(じょちゅう)の好み。衣装、髪の上にのみ止(とどま)りて、ばしなるの、派手なるのと笑う人もあれど、何も知らぬ繁華の地の女心には無理とも云われぬ事なりしに、この頃は女中の好みも一等向上の花奢(きゃしゃ)風流。
※ 何をがな(なにをがな)➜ 何かよいものがあればそれを。何かを。
※ 鬢付(びんづけ)➜ 鬢付け油。主に日本髪で、髪を固めたり乱れを防いだりするのに用いる固練りの油。木蝋(もくろう)・菜種油・香料などを練ってつくる。
※ 花の露(はなのつゆ)➜ 江戸時代、女性用の上等の鬢付油の名前。
※ 名題(なだい)➜ 名題役者。歌舞伎で、名題看板の絵組に描かれる資格の役者。幹部級の俳優の総称。
※ 女中(じょちゅう)➜ 婦人を敬っていう語。御婦人。
※ ばし ➜ 軽薄で落ち着きのないさま。
※ 花奢(きゃしゃ)➜ 物事の状態が上品で優雅なこと。
(「水濃徃方」つづく)  
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「水濃徃方」の解読 19


(庭のテンニンギク)

花びらがしわしわなのは、肥料不足なのだろうか。花に留まっている虫はバッタの幼虫のようだ。バッタは卵から孵ると、もう親と同じ形をして生まれる。ただ、この段階で詳しく名前を特定することは難しい。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。今日で、「巻之一 柔和里先生之篇 上下」を読み終える。明日からは、続いて「巻之二 取替兵衛之篇」を読む。

(すべ)てこの長屋、竃(かまど)数は八、九十もありて、皆な十兵衛が子分、弟分の者なりしが、十兵衛が教訓によりて、外の鳶(とび)の者より、甚だ柔和なりとて、表に居らるゝ亘理通屈(わたりつうくつ)と云う医者殿、唐土(もろこし)孝敬里の例(ためし)を引いて、柔和里(じゅうわり)と呼びけるより、どことのう十兵衛を柔和里先生と尊び敬い、
※ 柔和(にゅうわ)➜ 性質や態度が、ものやわらかであること。
※ 孝敬里(こうけいり)➜ 中国後漢末期から三国時代にかけての武将・政治家である、司馬懿(しばい)を始めとする高官を輩出した、名門司馬氏は、河内郡温県孝敬里の出身であった。

その地の及ぶところ、鰻売(うなぎうり)は殺生の拙きを恥じて、山の薯蕷(いも)に商売を変え、田鼠(たねずみ)と嫌われし悪者も、(うずら)ならねど、ちぢ後悔の涙禁じがたく、小鷹の目付き、鳩に三枝の礼を知り、年毎に子分繁昌し、今はしゃち屋、大八車の損料借(が)しして、親子五人口、ゆるりっと寝て暮らす。よい/\のよいやんな。
水能行邊巻之一 終
※ 田鼠(たねずみ)➜ モグラの別名。
※ 田鼠化して鶉と為る(でんそかしてうずらとなる)➜ 七十二候のひとつ。清明の第二候、陽暦四月十日~十四日までの間。春になり地中のものが地上に出て活動するというたとえ。
※ 三枝の礼(れい)➜ 鳩は親鳥より三本下の枝にとまるということ。鳥でさえ親に対する礼をわきまえているというたとえ。
(「水濃徃方」つづく)  

読書:「善鬼の面 大江戸定年組 6」 風野真知雄 著  
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「水濃徃方」の解読 18


(蓮華寺公園眺望)

夜、班長会。総会は今年も書類議決となる。今夜の主題はその説明。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。 

風を移し俗を易(かゆ)と云うは、不断(普段)(なます)、焼物つけて、給仕の、配膳のと、結構に御膳あがる、殿様方の御苦労に遊ばす事。読本(よみほん)ぐらいで届くものでは御座らぬ。すべて恥(はず)べき事、恥(はず)まじき事をよく知るを、恥(はじ)を知ると云う。この恥と云う事知らぬ者が、捨て置かば人の物も盗むぞや。
※ 風を移し俗を易る(かぜをうつしぞくをかゆる)➜ 移風易俗。習慣やしきたりをよりよく変えること。
※ 鱠(なます)➜ 切り分けた魚肉に調味料を合わせて、生食する料理をさす。
※ 読本(よみほん)➜ 江戸時代の小説の一種。絵を主とした草双紙に対して、読むことを主体とした本の意。

竹松はまだ年若(としわか)、そちがくれた鬼の面も、かぶらずに能(よ)くばと、人毎に云う詞(ことば)がよい戒(いまし)め。義を守ると云うも、恥を知る事なれば、日雇取なればとて、義を知らいで済むと云う事はない。そちは気に張(は)りのない生れ、爰(ここ)の場が心もと無い程に、おれが詞忘れぬため、今日から義平と付けてやる。忠臣蔵の天川屋にあやかって、義を守る男気(おとこぎ)を出っしゃれ。
※ 天川屋(あまかわや)➜ 忠臣蔵の義商天野屋利兵衛は、『仮名手本忠臣蔵』では天川屋義平となっている。
※ 男気(おとこぎ)➜ 弱い者が苦しんでいるのを見のがせない気性。男らしい気質。義侠心。

サァ、弟松が番じゃ。爰へ来い。これを弟松と付けたは、かの儒者殿。兄は孝太郎、弟を弟松、弟と云う字は弟行とて、孝行に続いて、知らねばならぬ道理。もの云うも年長(とした)けた人に差し越さず。道歩くにも人の跡。万(よろ)ず人を敬いて、内端/\と気を付けよ。
※ 内端(うちば)➜ 動作・言動が遠慮深く控えめであること。

(そろ)へば揃う七人の頭字。孝弟忠信勤儉義の七文字乃題目、今身(こんじん)より仏身に至るまで、よく保ち奉れと。こちの先生の御すゝめ。イヤモウ、何から何まで親分の御説法。(おろ)かには承らぬ。これと云うも、三社の託の御願/\と拝礼とげて、悦びけり。
※ 頭字(かしらじ)➜ 語句・文章・人名などの、初めの文字。
※ 今身(こんしん)➜ この世での体。うつしみ。
※ 疎かに(おろかに)➜ いいかげんにすませたり軽く扱ったりして、まじめに取り組まないさま。疎略。
※ 三社の託(さんじゃのたく)➜ 三社の託宣。天照大神・八幡大菩薩・春日大明神の託宣を一幅に書いたもの。信仰の対象として、室町時代から江戸時代末まで、吉田神道の発展に伴い広く流布した。
(「水濃徃方」つづく)  

読書:「幽霊になった女 剣客同心親子舟 3」 鳥羽亮 著
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「水濃徃方」の解読 17


(蓮華寺公園のカワウ)


(蓮華寺公園のつがいのコガモ)

朝から、「古文書に親しむ(経験者)」講座の教材の解読。御前崎の魚猟運上の話である。けっこう解読に迷うところが多い。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

堀ぬき井戸より清水(せいすい)な商売、それで唐(から)の賢人も、世に隠れて賃舂(ちんしょう)の、傭作(ようさく)のと、おらが仲間へ入って居る衆はあれど、茶屋(くつわ)する衆は無い。心に思わぬ愛想云ったり、空(そら)笑いする事が好きなりや、おらもちっとは(にじ)り書く。帳も付ける。相場割もする。もそっと銭の儲かる商(あきない)と云うものすれど、おれはもう、昨日、今日まで、「三太郎ヤイ、十二文がついで、こんにゃくのでんがく一ト串もって来い」と云うて来たやつらが、前で、伴頭様一ト月まけておくれ/\と、空笑いするやつらを見てさえ、卦体(けたい)が悪うて、いま/\しゅうて、そりゃぁまた、大屋殿が置くと云っても、つがもないこったが、またこの長屋の内には、そりゃ又、おれが置かない。
※ 清水(せいすい)➜ 澄んできれいな水。
※ 賃舂(ちんしょう)➜ 人に雇われて臼をつくこと。
※ 傭作(ようさく)➜ 人にやとわれて物を作ること。また、やとわれて働くこと。
※ 茶屋(ちゃや)➜ 客に飲食または酒色を供して遊興をさせるのを商売とした店。
※ 轡屋(くつわや)➜ 遊女屋。置屋。
※ 躙り書く(にじりかく)➜ 筆を紙に押さえつけて、にじるように文字を書くこと。
※ 相場割(そうばわり)➜ 和算で、比例を用いる問題、またはその解法。
※ もそっと ➜ もう少し。もうちょっと。
※ 卦体が悪い(けたいがわるい)➜ いまいましい。腹立たしい。
※ つがもない(れい)➜ 道理にあわない。とんでもない。

はて、大屋殿は代りもの。おらは調度、祖父(じじい)の代から、この長屋に九十六年、銭百でも借りの無い男だよ。味噌ではない四角な字もちっとは読めども、小面倒な付き合いが嫌でこうして居れど、親達に一生の内、せつい目見せず。そのお影か、有難い事には、惣領の幸太めが、またおれを大事にしてくれゝば、人間の楽(らく)して、これより上に何があろう。浮世はさまざま、おらが紋もの、法被着て、片言云うも風俗。それを笑う商人の、身の程忘れて、よき衣(きぬ)着て、片言云わぬ品のよい者じゃと、自惚れして居るも風俗。
※ 味噌ではない(みそではない) ➜ 自慢ではない。
※ 四角な字(しかくなじ)➜ 角ばった文字、すなわち仮名に対する漢字。
※ せつい ➜ せつない。つらい。
※ 惣領(そうりょう)➜ 特に、長男、または長女をいう。一番上の子ども。兄弟中の最年長者。
※ 片言(かたこと)➜ なまり・俗語・方言など、標準から外れている言葉。
(「水濃徃方」つづく)  

読書:「浪人奉行 六ノ巻」 稲葉稔 著
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「水濃徃方」の解読 16


(蓮華寺公園のコイノボリ)

午後、竹下区の総会資料作成のため、区長三人でミンクル(金谷公民館)に行き、輪転機を借りて印刷し、製本まで行った。2時間半近くかかった。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

あれには訳の有ることで、軽い日雇取(ひようとり)風情(ふぜい)でさえ、拙詞(つたないことば)は人が笑い、身に悪事すれば、人が謗(そし)る。増してや云わん、何の何某(なにがし)と苗字でも名乗る方は、と云わぬばかりに書くを、諷諌(ふうかん)とやら、湿熱(しつねつ)とやら云いて、よい衆へ異見の礼義。それをば知らで、指ざし手ざし、こちの仲間ばかりを笑いおれど、仕事師は仕事師、相応のなりふりせねば、人は誉(ほ)めても、仲間の者を非(ひ)に見る様で、付き合いが悪い。
※ 日雇取(ひようとり)➜  日雇いで働くこと。また、その人。
※ 風情(ふぜい)➜ 名詞、特に人名、代名詞や人を表わす語に付いて、それをいやしめ、または、へりくだる意を添える。
※ 増してや云わん ➜ 「増して」を強めた言い方。(「増して」は、前の場合でさえそうなのだから、この場合はもちろんそうだという気持ちを表す語)
※ 諷諌(ふうかん)➜ 遠まわしに忠告すること。
※ 湿熱(しつねつ)➜ 湿気と熱気。また、しめっぽい熱気。諷諌を「風寒湿熱におかされる」の風寒に洒落て、湿熱と続けた。何れも洒落である。
※ 形振り(なりふり)➜ 身なりと振る舞い。服装と態度。 

(なり)も言葉も文盲(もんもう)なが、則(すなわち)こちとが持前(もちまえ)。恥と云うは、人の物借りて済(す)まさぬと。喧𠵅(けんか)口論、又しても町内の大屋(おおや)衆へ厄介(やっかい)かけると。身こそ日雇取風情なれ、人のお髭の塵とつて、銭儲けしようと思うが恥。商人と違(ちご)うて、空直(そらね)言わず、軽薄(けいはく)せず。百が骨折りて百取れば、恩も平(ひら)も無し。手練(てれん)工面(くめん)の機心(きしん)を離れ、虚言(うそ)使わで暮さるゝ。
※ 文盲(もんもう)➜ 文字の読み書きができないこと。
※ 持前(もちまえ)➜ その身にもともと備わっているもの。 生まれつきのもの。
※ 又しても(またしても)➜ 繰り返されるさま。 またまた。またもや。
※ 大屋(おおや)➜ 貸家の持ち主。家主。
※ お髭の塵とる(おひげのちりとる)➜ 人に媚びへつらうことをいう。
※ 空値(そらね)➜ 実際よりも高くつけている値段。かけ値。
※ 軽薄(けいはく)➜ 人の機嫌をとること。また、その言葉。おせじ。
※ 手練(てれん)➜ 人をだましてあやつる技巧・方法のこと。
※ 工面(くめん)➜ いろいろ手段・方法を考えて手はずを整えること。
※ 機心(きしん)➜ 機を見て活動しようと思う心。また、たくらみのある心。
(「水濃徃方」つづく)  

読書:「オオカミ県」 多和田葉子 著
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「水濃徃方」の解読 15


(蓮華寺公園のツツジの壁)

図書館にネットで予約した小川国夫の「悲しみの港」を借りて来た。分厚い小説だから、少しずつ読もうと思う。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

そちばかりへの咄しでない。皆もよう聞いてくれ。アノ綱五郎がちいさい時、茨木(いばらき)屋と云う質屋の息子に、世知辛い童子(がき)があって、「わが親仁(おやじ)は、不断こっちへ質置きに来る。その単物(ひとえもの)も、昨日来て、明日は節句じゃ。この中(じゅう)預けた小僧めが郡内の大嶋、たった一日貸して下されとて、借りて来て着て居ながら、力むなやい。おれは殿様じゃ。綱を鑓持ちにしろ。」と云うたら、よく/\悔しかったか、鳶口(とびぐち)担いで、右の腕をしたたか、ぶち打って、大喧𠵅(おおげんか)
※ 世知辛い(せちがらい)➜ 金銭に細かくて、けちだ。抜け目がない。
※ わが ➜ おまえの。
※ 不断(ふだん)➜ 普段。いつも。へいぜい。通常。日常。
※ この中(このじゅう)➜ せんだって。さきごろ。先日。過日。
※ 郡内の大嶋(ぐんないのおおしま)➜ 郡内織りの大がらな縞模様の着物。
※ 力む(りきむ)➜ 力のあるようなふりをする。強がってみせる。

おれはあいつが所で借りた単物(ひとえもの)なら、着る事は嫌じゃとて、裸になって啼(な)きながら、爺さま、早く地を買って、地主様になって下さい。(たな)借りじゃから、人に馬鹿にされますと云って啼(な)いた時は、おれも親仁も、一時に貰い泣き。今に忘れはしやるまい。
※ 店借り(たながり)➜ 家を借りて住むこと。また、その人。借屋ずまい。

(おし)えを待たずして知るものは、良智(りょうち)なりとは、爰(ここ)の事じゃ。あの時さえ、人の物借りて着ては、男は立(た)たぬと思い、貧しい暮しは辛いと思う魂(たましい)が、額(ひたい)に毛抜き当てる程になって、人の銭で着る物着て、男が立つか。
※ 良智(りょうち)➜ 人が生まれながらに持っている正しい知力。是非・善悪・正邪を知る心の先天的なはたらき。

(ここ)合点(がてん)して、家業さへ励(はげ)んだら、家持、地持に(たね)はないわいの。何時からでもならるゝ事。この中(じゅう)も、さる人が仮名草読んで見て、仕事師(しごとし)の穴とやらんが書いてあるとて、おらが仲間を笑うたが、おれは可笑(おか)しい。ハテ、町人と云うものは、四民(しみん)の中での下座、その中で、屋根より外には高上がりせぬ、鳶の者の事を、たいそうに書物にする程の事もあるまい。
※ 合点(がてん)➜ 承知すること。事情などがわかること。納得。
※ 種(たね)➜ 裏に隠された仕掛け。(例えば、手品の種)
※ 仮名草紙(かなぞうし)➜ 江戸時代初期に仮名、もしくは仮名交じり文で書かれた、江戸時代初頭の約八十年間に作られた散文文芸の総称である。中世の小説と本格的な近世小説である浮世草子との過渡的な存在である。
※ 仕事師(しごとし)➜ 土工または土建工事に従事する人。江戸時代から、多く組をつくって火消しを兼ねた。鳶の者。
※ 四民(しみん)➜ 近世封建社会での、士・農・工・商の四つの身分・階級。転じて、あらゆる階層の人間。
(「水濃徃方」つづく)

読書:「神隠し はぐれ長屋の用心棒 37」 鳥羽亮 著
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「水濃徃方」の解読 14




(藤枝市蓮華寺公園)

朝10時過ぎから、女房と、藤枝市蓮華寺公園のフジの花を見に行く。土日を避けて来たつもりだったが、人出が意外に多くて、駐車場に車を止めるに苦労した。歩き始めて、すぐに体温チェックを受ける。手のひらをかざすだけのチェックは初めてであった。藤は盛りを過ぎたものもあり、終わりが近いのかもしれない。人との間隔を取りながら、池の周りを一周した。コロナさえ忘れておれば、花粉症も終わり、雲一つない天気で、快適な散歩であったのだが。

終わりに、博物館と文学館を見学した。こちらはほとんど立ち寄る人はいないようであった。再現された小川国夫の書斎で、「小川国夫の散歩道」というビデオを見て、彼の本も読んでみようかと思った。今まではほとんど手に取ったことはなかったが。

帰りには、食堂など、どこへも寄らずに帰宅した。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

お身が癖で、何ぞに取付けと云えば、望姓(もとで)が無いと算(かぞ)え出し、万度(よろずたび)姨御(おばご)せぶる心がけ。たとえて云わば、この紙鳶(たこ)。頭から、糸たんとやったとて、揚がるものでない。壱尺、二尺から揚げつけて、風に勢いのついた時、糸やれば、ずっとへと伸ばしに行くごとく、軽い商人は望姓(もとで)少しに精出して、振り廻しも直った時は、金持った親類も助(たす)けになる。何時までも給うては居ぬ程に、今の内金溜めて、年寄って楽(らく)しやれ。雅名(がめい)を、今日から改めて、儉五(げんご)とつけてやる程に。儉とは物を惜しみて遣わぬ事と心得て、しわい位に気を付けやれ。
※ 望姓(もとで)➜ 元手。資金。
※ 万度(よろずたび)➜ 何度も何度も。何回も。たびたび。
※ 姨御(おばご)➜「姨」を敬って呼ぶ語。おばぎみ。
※ せぶる ➜ せびる。金銭や品物を無理にもらい受けようと頼む。ねだる。
※ たんと ➜ 数量の多いさま。たくさん。 たっぷり。
※ 振り回し(ふりまわし)➜  金銭のやりくり。
※ 給う(たまう)➜ いただく。ちょうだいする。
※ 雅名(がめい)➜ 雅号。風雅風流の考えから、実名以外につける名。多く文筆家、画家などが使う。
※ しわい ➜ 金銭などを出し惜しみするさま。けちだ。しみったれている。

その次は信兵どの、こなたは臼井峠の生れ、国の名をかたどりて、信兵衛。云うた事の違(たが)わぬを信と云う。第一は、借り貸しのきまり。こなたのくれた小玉飴、上から見れば白浪(しろなみ)。中は甘茶。こいもって遊び物。蓮の葉の濁りの(し)まぬ心もちて居ながら、などかは露を玉とあざむく、と云うた歌がよい教え。人をだまさず、欺(あざむ)かねば、人もまた我をだまさぬ。信の一字は、軽い者の宝蔵(たからぐら)。貸し借りの無き世とは偽り。濟(すま)そうと云うた時を、違えぬ者には、貸したがって、続々(ぞくぞく)する世の中に、心から、石で手を徒めて、うすゐの定光(碓井の貞光)では無い、「うそいいのせんみつ」じゃと言われては、マアおれが皃(かお)が立たぬ。
※ 蓮葉の濁り ‥‥ ➜ 本歌は、古今集、僧正遍照の、
   蓮葉の にごりに染まぬ 心もて なにかは露を 玉とあざむく
※ しまぬ ➜ 染まらぬ。
※ 宝蔵(たからぐら)➜ 宝物を納めておくくら。比喩的に用いて、貴重なものを含む物事をいう。
※ 続々(ぞくぞく)➜ 絶え間なく続くさま。
※ 石で手をつめる ➜ 動きのとれないこと、進退きわまること、また、貧乏で動きのとれないことのたとえ。
※ 碓井の貞光(うすいのさだみつ)➜ 大江山酒呑童子討伐で有名な頼光四天王の一人。他に、渡辺綱、卜部季武、坂田金時。
(「水濃徃方」つづく)

読書:「金狐の首 大江戸定年組 5」 風野真知雄 著
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