平成18年に60歳を迎える。六十と縦に書くと傘に鍋蓋(亠)を載せた形である。で、「かさぶた(六十)日録」
かさぶた日録
「江戸繁昌記 三編」を読む 71
朝、体育委員で会計を受けたので、区の体操教室に講師料を届けに行く。今日は一人用のトランポリンを使った体操だという。準備して行かなかったので、参加はせずに帰る。
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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「寄(よせ)」の項終り。
また聞く、足音响(ひびき)を送るを。また一婆々(ばば)を声出しす。一婆問う、吾が翁在りや。猴(小僧)道(い)う、在り在り。主、唱喏し道う。爺なお陽(ウワキ)なり。姐(あね)を労す(=ねぎらう)。今日は斯(ここ)に在り。また掛念せざれ。今且つ、偕(とも)に歌う。請う、姐もまた和せよと。
※ 唱喏(しょうだく)- あいさつの口上を唱えつつお辞儀する。
※ 姐(あね)- あねご。あねさん。同輩親族の年長の女性。
※ 掛念(けねん)- 気に掛ける。
三線(三味線)調(ととの)う。二羽二宮。三弦(三味線)善く六絃の声を為す。爺唱え、婆和し、猴、賡(つづ)き、権、吼(ほ)ゆる。権の音は大濁、猴の声は高清、叟、急音喉を扼するが如く、婆、舌音揵にして洩るゝ。互いに歌い、代る代る和す。漸々遠く往く。微音断続、有無空(くう)に入る。
※ 二羽二宮 -「羽」も「宮」も調弦(弦の音律を調えること)の用語。
※ 六弦(ろくげん)- 和琴の別称。
※ 扼する(やくする)- おさえつける。
※ 揵(けん)- 挙げること。
※ 有無(うむ)- 存在と非存在。
春蠺(しゅんさん)葉を食らい、微雪窓を撲(う)つ。一般、也(また)似たり。却って聴く清、漸く清。濁稍(ようや)く濁。弦、皦に、声還える。主人道(い)う、興(きょう)索(もと)めきたり。須(すべから)く別して奇を弄(ろう)すべし。猴道う、更に既已(すで)に深し。
※ 春蚕(しゅんさん)- はるご。4月中旬に孵化した蚕。
※ 皦(きょう)- 純白。明るく光る。
百談、怪を験(ため)すなり、何如(いか)ん。僉(みな)道(い)う、好し好し。清話濁説、百談怪を極め、忽(たちま)き聞く、風雨驟(にわか)に至るを。風声蓬々、雨声淅々、戸を閉める声、窓を引く声、猴苦を叫び、権驚を呼ぶ。一撲(ひとなぐ)り、地聞き得たり、物の墜つる声。衆音鎮圧、百事(=万事)頓(とみ)に休す。
※ 蓬々(ほうほう)- 風が強く吹くさま。
※ 淅々(せきせき)- 風の音のするさま。
※ 衆音鎮圧(しゅうおんちんあつ)- 皆な黙り込む。
※ 頓に(とみに)- 急に。にわかに。
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「江戸繁昌記 三編」を読む 70
所用でN氏宅を訪問し、奥さんが手塩にかけた花の写真を撮らせて頂いた。雨が多い季節、その何枚かを遣わせてもらう。
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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「寄(よせ)」の続き。
屏障内、口技人在り。唱歌一曲、忽(たちま)ち、一小猴(コゾウ)を声出しす。須臾(一瞬)、問答し、紛然、謔話す。
※ 屏障(へいしょう)- 間を隔てたり、見えないようにしたりするために立てるもの。
※ 口技人(こうぎにん)- 声色、物まね、声帯模写の芸人。
※ 唱歌(しょうが)- 楽器の旋律や奏法を口で唱えること。近世の箏や三味線で、その旋律を擬音的に唱える場合も一種の唱歌であるが、三味線の場合特に口三味線という。
※ 紛然(ふんぜん)- 物事が入り乱れてごたごたしているさま。
※ 謔話(ぎゃくわ)- たわむれ話。おどけ話。
遥々(はるばる)聞き得たり、足音の外に在るを。門を推す声(音)、戸を推す声(音)、一叟至る。謦咳、坐に上る。主客応接、寒暖声し畢(おわ)る。主(あるじ)道(い)う。爺、近日(この頃)、何ぞ闊なる。叟道う、苦事奇談。主道う、奇何の奇ぞ。叟道う、日前(先日)は一処女、我に奔(はし)り、言う。人の妻と為るよりは、寧ろ翁が妾(めかけ)と為らんと。
※ 一叟(いっそう)- 一人のおきな。一老翁。
※ 謦咳(けいがい)- せきばらい。しわぶき。
※ 寒暖(かんだん)- 寒さと暖かさ。ここでは、暑い寒いの時候の挨拶を指す。
※ 闊なる(かつなる)- しばらく会わない。
知るべし、老婆の角を生ずるを。誰か報ずる、又早く那の(かの)妓に簡責せらる。困って数日了(おわ)る。昨(日)始めて難を靖(やすん)ず。今日、纔かに外出する所以(ゆえん)なり。猴(えん、=小僧)道(い)う、豈(あ)に夢かや。主(あるじ)笑う。叟の音(ね、=声)、猴の声、また挑(いど)み、また謔(ぎゃく、=おどけ)す。
※ 簡責(かんせき)- 諫責(かんせき)。いさめ責めること。
主、道(い)う、謳一謳、余困を洗う宜しく。叟道う、則ち佳ならん。主の高声連呼す。権助々々(僕名)権助遥かに諾(だく)す叫声す。随いて即ち至らんと。身なお未だ起きず。主また連声す、権々。始めて聞く、足音の大にして緩(ゆる)きを。大声し道う、何の用ぞ。主道う、一同謳(うた)い和す。汝もまたこれを佐(たす)けよ。権道う、曷(いずくん)ぞ佐(たす)けざるなり。僕、素(もと)善く歌う。
※ 謳一謳(おういちおう)- 歌を歌え。
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「江戸繁昌記 三編」を読む 69
今年のアジサイもこれがラストになるだろう。
裏の畑で山椒の実を収穫してきた。少し遅かったかと思ったが、ネットで収穫時期6月とあったので、まだ良いかと思った。レシピで五分ほど茹でてみたが、中の種が堅い。もう少し何とかして見ようとおもう。味は一粒で舌が痺れた。
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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「寄(よせ)」の続き。
却ってまた、那の(かの)羽生村累女(カサネ)の幽鬼、祟(たた)りを為すの図を照らし出す。霊牌(位牌)前、仏灯暗く、香烟細し。別に一大蘭盆(盂蘭盆)灯を懸け下ろす。那(か)の与右衛門なる者、鉦を敲(たた)きて、仏を念ず。只(ただ)見る、幽鬼の灯篭内より現出するを。
※ 羽生村累女(カサネ)の幽鬼 - 下総国岡田郡羽生村の累ヶ淵を舞台にした、累(かさね)という女性の怨霊とその除霊をめぐる物語から。
還(かえ)りて滅し、還りて現じ、漸(ようや)く小、漸く大なり。嚶々(おうおう)怨(うら)みを訴う。須臾にして澌滅す。乍(すなわ)ち見る、一団の微暈、光を葆(ほ)して洩さず。朧(おぼろ)月、輝きを収め、鷇(ひな)、卯を破らんと欲す。漸く凝(かたま)り、漸く明々、眉目了々、遂に一大鬼首と作(な)る。鮮血噀(ふ)き、怒眼裂く。
※ 嚶々(おうおう)- 鳥が互いに鳴きあっているさま。
※ 須臾(しゅゆ)- 一瞬。
※ 澌滅(しめつ)- 消えてなくなること。
※ 微暈(びうん)- かすかな光の輪。
※ 葆す(ほす)- たもつ。つつむ。
※ 了々(りょうりょう)- 物事がはっきりわかるさま。
高僧祐天を点出す。合掌、経を念じて、一喝、数珠を揮(ふる)いて、怨火即ち消す。只見る、紫雲靉靆、金仏来り合い迎す。蓮花台上、怨魂成仏、妙光四散、天花繽紛たり。
※ 祐天(ゆうてん)- 増上寺三十六世法主で、江戸時代を代表する呪術師。強力な怨霊に襲われていた者達を救済、その怨霊までも念仏の力で成仏させたという伝説がある。
※ 点出(れい)- 画面に目立つように描き出すこと。
※ 怨火(えんか)- 怨みの火。
※ 靉靆(あいたい)- 雲や霞などがたなびいているさま。
※ 四散(しさん)- 四方に散ってちりぢりになること。
※ 天花(てんげ)- 天上界に咲くという霊妙な美しい花。またそれに擬して、法会で仏前にまき散らす蓮華の花びら形の紙。
※ 繽紛(ひんぷん)- 多くのものが入り乱れているさま。
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静岡 不去来庵の見学会(2)
(昨日の続き)
不去来庵の本堂裏手に展示室がある。今日は一九研究会の見学に合わせて、一九関係の軸物などを出して頂いていた。
伊豆屋は、江戸中期、伊豆の松崎から駿府に出てきて、両替町に住居し、呉服商、両替商を営んでいた。「松木新左衛門始末聞書」の松木家が没落して、その跡地に居を構えたのが伊豆屋であった。本堂の基部の伊豆石や鏝絵も、伊豆の出身と聞けば納得できる。
展示室には、まず本堂の鏝絵のいわれが、展示物で紹介されていた。かつて成田山新勝寺と芝山観音経寺の二つをセットでお参りすることが「両山講」と呼ばれ、火事と泥棒除けに利益があると、信仰されていた。鏝絵はその観音経寺の仁王像をスケッチしたものをもとに、伊豆の長八の弟子の森田鶴堂が造形したものと云い、当時の仁王像の御姿の御札や、鶴堂に指示したスケッチ画も展示されていた。
一九関連の展示は、掛け軸が四本、扇絵が二枚展示されていた。誰かが、「一九さんは絵も上手なんだね」という。そのはずで、一九は戯作者になる前に、他の人の戯作に挿絵を描いていた。どの絵もほのぼのとして、緊張感が感じられない。そのはずで、時間を掛けずにさらさらと描いた絵と聞く。
それぞれ画題に狂歌が書かれていた。
倹約は 家の大黒柱にて 千歳ゆるがぬ 福の神棚
(絵は大黒さんで、小槌、大きな袋を持ち、俵の上に座る。鼠一匹。)
商いに 格別利生 ありがたや お得意様の 福の神より
(絵はえびすさんで、竿、魚籠、鯛を抱えて岩の上に座る。)
万歳は まだ見えぬとも お屋敷は まことに目出とう さぶらいの礼
(絵は中間を三人連れた武士の後ろ姿で、年始回りの風景か。)
慎めや うかうかはまる 河丈の 流れの末は 借金の渕
(絵は、遊郭の遊女と禿(かむろ)か。)
扇絵は、一枚は読めたが、一枚は解読できず。
交わりも 濃い茶にせよや 四畳半 しかじか四面の 付き合いぞよき
(絵は、茶の湯を立てる人。)
不去来庵の斜め向かいに、一九の生家の碑が立っていた。帰り、昼を蕎麦屋でとの、一九研究会の会長さんの呼びかけがあったが、車で来た人も多いようで、蕎麦屋へ同行したのは8人であった。
読書:「チョコレート・ガール探偵譚」 吉田篤弘 著
20代の頃より、読んだ本の記録を付けていて、それがこの本で4500冊となった。多いというのか、そんな程度というのか。この頃は小難しい古文書を読んでいる反動か、読書傾向に軽い読み物が多い。
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静岡 不去来庵の見学会(1)
朝から、不去来庵の見学会で静岡に行った。
不去来庵は、伊豆屋(渡辺家)の持仏堂として、同敷地内に建てられたもので、いわばプライベートなお寺である。一九講演会の特別見学会として、一九研究会で交渉されて、この機会を作って頂いた。
車で行こうと思ったが、駐車場の事情が不明なので、電車にした。駅から歩いても20分ほどで行けて、30分前には集合地の門前に着いてしまった。両替町の通りが本通りと交差する、少し手前の北側に門があった。すでに数人参加者が日蔭を求めて門前に待っていた。
出席の申告を、一九研究会会長のOさんにチェックしてもらい、待つ内に、段々集って、門は定刻10時より前に開けて頂いた。炎天下では暑いだろうとの配慮であった。
中へ入ると、ビルに周囲を囲まれた中、僅かな緑地に功徳池と名付けられた池があり、錦鯉が泳いでいた。空気が少しひんやりしたのを感じた。こういう会で、あちこちで出会う、焼津のIさん、静波のKさんと言葉を交わす。一九研究会には、駿河古文書会と兼ねる会員も何人かあり、駿河古文書会のN副会長さんなど、見知った顔が随分増えて来たと思う。
(地蔵菩薩立像)
10時になって見学会が始まった。庭には供養塔と墓石が並び、地蔵菩薩立像が立つ。説明によれば、この地蔵菩薩の銅像は地蔵信仰の篤かった巍山居士(六代目伊豆屋伝八、直道)の慰霊のために建造され、明治・大正・昭和を代表する金工作家の香取秀真の作という。
(鏝絵、金剛力士像)
不去来庵の御本尊は阿弥陀如来坐像であるが、今日は本堂の中は見せて頂けなかった。春と秋のお彼岸に一般公開されるという。本堂は土蔵作りになっていて、観音開きの扉を開けるとその内側に、鏝絵(こてえ)、森田鶴堂作の金剛力士像が左右にあった。その扉だけは開けて見せて頂いた。初め、風神雷神像かと早合点したが、よく見れば、仁王像であった。
(伊豆石の黒い涙あと)
本堂の裏側に展示室があって、そこを見学させて頂いたが、本堂右脇を行くと、本堂下部に使用された「伊豆石」が所々黒い、何かが流れた跡が見えた。説明によると、戦災で回りがほとんど焼けた中に、この不去来庵は焼け残ったが、周りの熱で、伊豆石の内部に含まれた硫黄が溶けだして、黒い涙のようにみえるのだと聞く。また側には石樽に耐火用の粘土が保管されて、火事が迫ったら隙間に塗りこめて、火の入るのを防ぐという。
(石樽に耐火用粘土)
この後、展示室を見学したが、それについては明日記す。
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「江戸繁昌記 三編」を読む 68
散歩道に雑草化して、よく見る花なのだが、今まで名前を知らなかった。今日、写真に撮って来て改めて調べると、意外に早く名前が知れた。単なる雑草が、名前を知ると仲間になれる。これは人間関係も同じだと思う。
島田市の同報無線で、警察署からとして、昨日夕方、警察署員を名乗る、アポ電が島田市内に集中してあった。詐欺に掛からないように、十分注意するようにという内容であった。
一日、家にいると色々な電話が掛かってくる。身に覚えのない電話には、自分からは名乗らない。詐欺電話だけでなく、あらゆる勧誘の電話には、「用はありません」「興味はありません」と、出来るだけそっけなく言い、向うの言葉を待たずに電話を切ることにし、励行している。たとえ真面目な勧誘であっても、そんなことに係わっている時間が惜しい。こういう時代だから、見当違いで、もし失礼があっても、許されるはずだと、女房にも同じ対応を勧めている。
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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「寄(よせ)」の続き。
一閃、迹(あと)を晦(くら)ます。次に衆卉を写す。或るは梅、或るは菊、また牡丹、また芙蓉、碧花、瓣(はなびら)を析(わけ)て、露に蘂(しべ)看々(みるみる)破れ、青楓、影を改めて、霜葉漸く紅なり。破るゝ時、改むる処、観る者、眼眩(めくるめ)き、神(しん、=こころ)奪わる。一口、妙と叫ぶ。聴き得たり、祭礼曲鼓譟する処、双霊柱(トリイ)涌き、一殿宇湧く。紅白幟(のぼり)を竪て、大小燈を張る。賽人徃回、銭を抛(なげうち)て、福を祈る。既にして鼓声、漸く歇(や)み、人影頓(とみ)に減ず。
※ 一閃(いっせん)- ぴかっと光ること。ひとひらめき。
※ 衆卉(しゅうそう)- たくさんの草々。
※ 碧花(へきか)- 緑の葉と花。
※ 蘂(しべ)- 蕊。雄しべと雌しべ。
※ 青楓(あおかえで)- 緑の楓の葉。
※ 曲鼓(きょくこ)- 身ぶりや技巧に、種々の変化をもたせて打つ鼓。曲打ちの鼓。
※ 殿宇(でんう)- 御殿。殿堂。
※ 賽人(さいじん)- 神社・仏閣にお参りする人。
※ 徃回(おうかい)- ゆきめぐり。
夜、蓋し深し。遠々聞き得たり、叱咜(ワキヨレ/\)、人を避くる声、狐群排行、徐々歩を進む。蒲席を荷い、炬火を啣(くわ)え、木を担(にな)い、竿を持す。俗談に所謂(いわゆる)狐の婚礼、これなり。纔(わずか)に双柱(鳥居)を出れば、狐、皆な化して、人と為る。席(蒲席)は挟筥(ハサミバコ)に変じ、火は提灯に変ず。竿は鎗に化し、木は輿に化す。奇々怪々、変妙に機神なり。燈滅し、狐殲(せん)す。
※ 叱咜(しった)- 大声をあげてしかること。
※ 排行(はいこう)- 列をつくってならぶこと。
※ 徐々(じょじょ)- ゆっくり進行したり変化したりするさま。
※ 蒲席(ほせき)- 蒲(がま)の葉で編んだむしろ。
※ 炬火(きょか)- たいまつ。
※ 機神(きしん)- いつわりの神。
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「江戸繁昌記 三編」を読む 67
テレビだったか、ヤマボウシの花を紹介していた。どこかで見たような花だと思いながら、散歩の途中で、ある旧家の門前に差し掛かると、そこにまさに咲いていた。
ヤマボウシは漢字では「山法師」と書く。花の形状を、山法師(僧兵)の坊主頭と頭巾(白い総苞片)に見立てた名前だという。そうか、武蔵坊弁慶の白い頭巾か。
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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「寄(よせ)」の続き。
剃出(前座)、始めて下る。これを一齣(ひとこま)と為す。この時を名(めい)して中入りと曰う。これに於いて、便を忍ぶ者は厠(かわや)に如(ゆ)き、烟を食らう者は火を呼び、渇者は茶を令し、飢える者、菓を命ず。
(次の段落は読んで見たが、どんな催しなのか、想像出来なかった。)
技人、乃(すなわ)ち、物を懸けて䦰(くじ)を売る。䦰数百本、初め数枝を連ねて値(あたい)十数銭、売り了(おわ)り一徧(遍)、余り枝なお茂りし。因って値を低してこれを募る。已(すで)に低し。未だ踈(まばら)ならず。更に低して斧を請う。数十枝、四、五文、根を断ちて、始めて原䦰を剪る。三枝僅(わず)かに泄(も)らす。葉を照らして貨を献ず。
早く見る、先生の座に上るを。親方(真打)これなり。三尺喙(くちばし)長く、弁、四筵を驚かす。今の笑いは、向うの笑いより妙に、後の泣きは前の泣きより妙なり。親方の醉、剃出(前座)何ぞ及ばん。人情の穿鑿、世態(世の中)の考証、弟子、固より若(し)かざるなり。
※ 四筵(しえん)- 満座。宴席に集う人々はみな。
※ 三尺喙(くちばし)長く - 慣用句「喙長三尺」(かいちょうさんじゃく)。口が達者なことのたとえ。
※ 向う、前 - それぞれ、前座を指す。前座と比べている。
紙幛一面淡墨、物無く、笛响(ひび)き、鼓鳴る。乍(たちま)ち数緑松を生ず。一人従いて上る。帽(ぼう、=頭巾)戴き、襖(ふすま)を披(ひら)く。右手に鈴を揮(ふる)い、左手に扇を開く。了々明々、写し出て分明なり。左に顧(かえり)み、右に旋(まわ)り、眼を転じ眉を動かす。笛に応じて鈴を揚げ、鼓に合して扇を翻(ひるがえ)す。舞々廻々、真(まこと)にこれ、影人、魂有り。舞い闋(おわ)れり。
※ 紙幛(ししょう)- 紙の衝立(ついたて)。
※ 了々(りょうりょう)- 物事がはっきりわかるさま。
読書:「なにごともなく、晴天」 吉田篤弘 著
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「江戸繁昌記 三編」を読む 66
庭の隅に、アマリリスの花が咲いた。畑に真っ赤なアマリリスが毎年咲くことは承知していたが、この花は今まで知らなかった。女房がご近所から頂いて、植えて置いたものらしい。
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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「寄(よせ)」の続き。
一楼数楹(はしら)、奥を当て座を設く。方一筵、高さを若干尺、隅に火桶を置き、茶瓶に湯を畜(たくわ)う。夜は則ち両方に燭を設け、客、席を争いて地を占む。一席は則ち、数月寓都の村客、一席は則ち、今年参藩(キンバン)の士類、五、六頸(くび)を交じえ、七、八臂(ひじ)を接す。新道の外妾、代地の隠居、伴(番)頭や手代や、男女雑居し、老少、位を同じうす。
※ 方一筵(ほういちえん)- 筵一枚分の四方。
※ 寓都(ぐうと)- 都に宿ること。
※ 外妾(がいしょう)- 自宅以外に住まわせているめかけ。
※ 代地(だいち)- 江戸幕府が江戸市中において強制的に収用した土地の代替地として市中に与えた土地のこと。
落語家一人上る。納頭、客を拝す。篦舗の剃出、儒門塾生、これを前座と謂う。旋々、湯を嘗(なめ)て舌本を滑(なめら)かにし、帕(テヌグイ)以って喙(くち)を拭(ぬぐ)う。(折帕、大いさ拳の如し)拭い一拭い。左右、燭を剪(き)り、咳(せきばらい)一咳。縦横、説き起こす手、必ず扇子を弄(ろう)す。忽(たちま)ち笑い、忽ち泣き、或るは歌い、或るは酔い、手を使い、目を使い、膝を踦(き)し、腰を扭(ねじ)り、女様、態を成し、傖語、鄙(ひな)を為す。仮声(こわいろ)倡(しょう、=遊女)を写し、虚怪、鬼を形す。世態、極めざるは莫(な)く、人情尽くさざるは莫し。落語の処、人をして絶倒捧腹に堪えざらしむ。
※ 納頭 -(意味不明)文脈からすると、「低頭して、客を拝す」という所だが。
※ 篦舗(へいほ)- 髪結い。
※ 剃出(すりだし)- 髪結いの弟子の称。
※ 儒門(じゅもん)- 儒学を教える所。
※ 舌本(ぜっぽん)- 舌の根。
※ 折帕(せつはく)- 畳んだ手ぬぐい。(手ぬぐいが落語では色々な役割をする)
※ 燭を剪る(しょくをきる)- 蠟燭の芯を切って明るくする。蠟燭は長くつけていると、芯に燃えかすがついて暗くなる。それを切り取って再び明るくする。
※ 膝を踦す(ひざをきす)- 片膝を立てる。
※ 傖語(そうご)- 田舎の方言。
※ 虚怪(きょかい)- にせものの妖怪。
※ 世態(せいたい)- 世の中のありさま。世間の状態。世情。
※ 絶倒捧腹(ぜっとうほうふく)- 抱腹絶倒。腹をかかえてひっくり返るほど大笑いすること。
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「江戸繁昌記 三編」を読む 65
午前中、金谷宿大学の年次総会に出席した。何事もなく無事に終わって、現役時代の、株主総会が終わったときに似た、安堵感を久し振りに感じた。学長が来年度の学長人選をするように、冗談半分に事務方に話していたが、学長の思いは、まだ実現の半ばの気がする。学長の思いを実現するに、最短でも3年は勤めてもらわなければなるまい。
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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。
寄(ヨセ)(都俗、招聚のいい、これを「寄せ」という)
太平を鳴らし、繁昌を鼓する。手技(テヅマ)や、落語(ヲトシバナシ)や、影紙(カゲエ)や、演史(コウシャク)、百眼と曰い、八人芸と曰う。昼に夜に、交代して技を售(う)る。七日を以って、限(=区切り)を建つ。限を尽くす。客舃(きゃくせき)減ぜざれば、また日を延ばし、更に期を引く。大概(おおむね)一坊一所、楼(=大きな建物)を用いて場を開く。
※ 都俗(とぞく)- 都会の風俗・習慣。
※ 招聚(しょうしゅう)- 人を招き集めること。
※ 百眼(ひゃくまなこ)- 種々の目鬘(めかつら)で変相しながら小噺(こばなし)などをする寄席芸。
※ 八人芸(はちにんげい)- 一人で八人分の楽器や声色(こわいろ)などを聞かせる芸。
※ 舃(せきのくつ)- 奈良時代に男女がはいた「履」のことで、爪先が高くなっているので「鼻高履」ともいう。
※ 坊(ぼう)- 方形にくぎられた町の区域。市街。まち。
その家の檐角に籠招子を懸け、書して曰う、某々(なにがし/\)出席、某(ぼう)の日より、某の日に至る。夜分は火を上(のぼ)す。肆(みせ)端に錢匣(ぜにばこ)を置き、匣上に塩を堆(も)ること三堆、一大漢、側に在りて叫声す。請う、来たれ。請う、來たれ。夜娼(ヨタカ)、客を呼ぶ声、律甚だ似たり。匣に面する壁間に、履屐を連らね懸け、小牌(=下足札)を繋ぎて、識(=識別)を為す。牌銭、別に四文を課す。乃(すなわ)ち、銭無くして至る者、親(みずか)ら履(はきもの)を懐にして上る。俗語、この曹を名じて、これを油虫と謂う。
※ 檐角(えんかく)- 軒のかど。のきさき。
※ 籠招子(かごしょうし)- 商店名を記し入り口に懸けた行燈(あんどん)方看板。
※ 大漢(たいかん)- 大男。
※ 律(りつ)- 音調。調子。拍子。
※ 履屐(りげき)- 草履と木ぐつ(下駄)のこと。
※ 牌銭(はいせん)- 下足札銭。
※ 曹(そう)- 仲間。また、一族。
※ 油虫(あぶらむし)- 人につきまとい、害を与えたり、無銭で飲食、遊楽などしたりするのを常習とする者をあざけっていう語。たかり。
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「江戸繁昌記 三編」を読む 64
午後、駿河古文書会に行く。今日は発表当番であった。発表に際して心がけていることは、第一に、何とか楽しい勉強会にすること。第二に、出来るだけ皆んなの意見を取り上げること。それには耳を澄ませて、つぶやき程度の声も拾って、意見を聞くことである。第三に、自分の考えは二の次に、納得できる意見には従って、直すことに躊躇しないこと。
そんな考えで、準備したことは、1時間45分の間にすべて使い切って、自分としてはけっこう自由に講座が出来たと思う。1講座2時間の使い方に、随分慣れて来たと思う。
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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「愛宕」の項、今日で終り。
近ごろ、俳優面具を製す。隆鼻なるは(ハナノタカキハ)錦升なり。(松本幸四郎)巨眼なるは三升なり。杜若なるは(岩井氏)幘(さく)に(杜預曰、幘ハ歯上下相値)。梅幸なるは(尾上菊五郎)鋭(とが)る。巨眼や、鋭(とがる)や、中老尾上をして死なしむ。
※ 面具(めんぐ)- 中世の甲冑の小具足の一つ。顔面を防護するもの。ここでは「お面」のこと。
※ 隆鼻(りゅうび)- 鼻筋の通った高い鼻。
※ 錦升(きんしょう)- 松本幸四郎。「錦升」は日本舞踊松本流の三世家元としての名前。
※ 三升(さんしょう)- 市川団十郎。屋号は成田屋。定紋は「三升」。
※ 杜若(とじゃく)- 五世岩井半四郎。俳名が杜若。
※ 幘(さく)- 歯並びが美しいこと。
※ 杜預(とよ)- 中国三国時代から西晋時代の政治家・武将・学者。魏・西晋に仕えた。
※ 値(ね)- ものの値打ち。
※ 梅幸(ばいこう)- 尾上菊五郎。「梅幸」は、初代尾上菊五郎の俳名に由来する。三代目尾上菊五郎は何かと問題を起した。「とがる」はその辺のことを言ったのであろう。
※ 中老尾上(ちゅうろうおのえ)- 加賀騒動を扱った歌舞伎「加賀見山廓写本」で、中老尾上は恥辱を受けて自害する。女同士の敵討ちを扱った歌舞伎に由来する。
刀精摺妙、錦画の製、江戸を舎(お)いて外有ること無し。俳優小照(ニガオ)、花鳥写真、武者絵、勝景図、また張り、また懸く。草紙本(クサゾウシ)なるは、近世殊に精良、紅を揩(す)り、紫を揩り、金を消(ついや)し、銀を消し、正に、これ織女の雲錦工。なお浅く、蘇氏金文、針、未だ巧(たくみ)ならず。
※ 刀精摺妙(とうせいしょうみょう)- 版を精緻に彫り、美しく刷ること。
※ 錦画(きんが)- 錦絵。
※ 小照(しょうしょう)- 小さな肖像画。似顔絵。
※ 写真(しゃしん)- 絵画・小説などで事物のありのままを写しとること。写生。
※ 雲錦(うんきん)- 中国錦織りの最高峰とされる伝統的手織り工芸。「雲錦」の由来は、錦織りの生地が雲や霞の如く美しい、その図案に雲が多く描かれているためなどと言われる。
金鐡舗(金物屋)、紙楮店(紙屋)、菓肆(菓子屋)、履行(履き物屋)、軒を争いて、居を占む。この所、巷(ちまた)窄(せま)く、繁昌殊に見ゆ。これより神明、已(すで)に二編に詳なり。
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