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「江戸繁昌記 ニ篇」 17 混堂(ゆや)15

(今日の夕空)

今日の、夏も終わりの夕空である。

8月の初めだったか、故郷の高校の同窓会の通知が来た。10月始め、古希記念の同窓会を城崎温泉で挙行するとか。行ってみようかなと、心を動かされたが、卒業してから50年余、同窓会には一度も出なかったと記憶している。今浦島で、会話もできなく、ぽつんといることを思い浮かべると、何となく腰が引ける。迷っているうちに申し込みの期限が過ぎてしまった。

今回も欠席と決めていたところ、先日、幹事のK氏から電話を頂いた。故郷の次兄とは話す機会があって、活躍のうわさは聞いている。是非出席してもらいたいとの話であった。かくも背中を押されては、出席しないわけには行かない。今からでも、葉書を出すように、とのことであった。

電話を切ってから、通知を探した。故郷で同級生に連絡してみようと、8月の帰郷の時に持ち帰ったところまでは覚えている。連絡できず、そのまま持ち帰ったはずだが、見つからなかった。K氏に聞きたくても、電話番号が分らず、住所も不明で連絡の取りようがないと知った。

困って、城崎のM氏へ電話し、通知のコピーを送ってもらった。昨日、会費を振り込み、今日、K氏に別の官製葉書で送った。宛先は別だったように思うが、やむを得ない。手続きが済むと、同窓会への期待が膨らんで来るのを感じた。どれくらいの人と話が出来るであろうか。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

居士、前年、谷中の三浦坂下に住す。家は薮沢間に在りて、地は根津の劇街に隣す。嘗つて句有り、絲竹の声は猿鶴声に和すと。側近風俗の悪、知るべし。
※ 絲竹(しちく)-(「絲」は琴・三味線などの弦楽器、「竹」は笛・笙などの管楽器)和楽器の総称。

然し、衡門外、毎旦(あさ)、一孝男負老の父を扶け、混堂に往くを見る。感激、懐に蔵(かく)し、後、李蹊、知章など至る。
※ 衡門(こうもん)- 2本の柱に横木をかけ渡しただけのそまつな門。転じて、貧しい者または隠者の住居をいう。
※ 孝男(こうおとこ)- 孝行者。
※ 負老(ふろう)-(「老いを負う」つまり年を取ること)年取った。


談これに及び、詳(つまび)らかにすることを得たり。孝子、通称斧吉、その父、耄す。病いで起つこと能わず。然も、浴を喜(たの)しむこと、他日に倍せり。故を以って、毎晨(あさ)負い往き、澡摩浄潔、快しと云うに至りて止む。風雨怠らずと。
※ 耄す(もうす)- 老いぼれる。
※ 他日(たじつ)- 以前の日。過ぎ去った日。
※ 澡摩浄潔(そうまじょうけつ)- 洗い磨いて清潔にすること。
覚えず感泣す。


予、覚えず感泣す。乃(すなわ)ち賛(ほ)め曰う、泥裏の君子、糞中の水仙。
※ 泥裏(でいり)- 泥の中。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 16 混堂(ゆや)14

(ムサシにカメラ目線はない)

ようやく、腸炎も癒えて、食欲が出て、元気よく散歩にも出るようになった。しばらくぶりにカメラを向けるが、カメラ目線を逃げて廻る。

台風10号は東海でも関東でもなく、東北の岩手県に上陸した。東北に台風が上陸するのは観測史上初めてだという。台風が逸れて、快晴の空に爽やかな西風が吹いて、秋の到来を感じさせた。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

居士が如きは、則ち、嘗(な)めん宜しくて得ず。試みん宜しくて得ず。銭なく何奈(いか)ん。前人の所謂(いわゆる)、飲食、被服以って、自ら適(たま)に足らざるものこれなり。これを、これ慚(は)じ、哀(かな)しまずして、徒らに、かの哀しむべきの人を哀しむ。意(おも)うに、また、かの哀しむべきの人に、わが哀しむべきを哀しまるゝことを為さんなり。

香棟玉甃、繁昌都内の為す勢い、固より然るべし。更に、一浴場の、また大都会の閙熱、景を湧かす有り。温泉これのみ。千壺万甕、千里の濤(なみ)を破りてこれを写して、これを溢(あふ)らす。豈に妙にして便ならずや。都下の病客、坐(い)ながら千里の薬泉に浴す。また、太平の余流に霑(うるお)うなり。
※ 閙熱(とうねつ)- 繁盛して熱気がある。
※ 千壺万甕(せんこまんおう)- 湯量の多さを表す。


居士、もと、温泉を好む。嘗(か)つて言う、恨(うらめ)しくは、江都内一所の温泉を湧(ゆう)す無しと。今にしてこれを思うは、或は有らば、一扚千金、またまた素封家の物と為して、居士浴せんと欲するも、世に没して得ん。塩窰(シオフロ)に寒を醫(いや)し、蒸室(ムシブロ)に温を取る。思うに、これ終身得る者。
※ 一扚千金(いっしゃくせんきん)-「扚」は「杓」の間違い?「一杓千金」は一攫千「一攫千金」のもじりだろう。温泉を杓ですくうから、「一杓」としたのであろう。

手巾(てぬぐい)最も低きは六十八銭、貴といえども一百余銭に過ぎず。蓋し、常値なり。長さ二尺有五寸、冶遊の子弟、或は三尺を用ゆ。妓館、烹家は並びに、その家巾を供す。
※ 冶遊(やゆう)- 芸者遊び。
※ 烹家(ほうや)- 料理屋。
※ 家巾(かきん)- その家の手ぬぐい。


頃者は予め、人の好染手帕を袖にするを見る。これを訊(と)えば曰う、値い若干銀と。且つその人言う、精緻良染は、居士といえども、目有るを認むるべし。試みにこれを握れと。予、乃(すなわ)ち、これを褶(たた)んで、これを拳(にぎ)るに、手中物有りて、物無し。軽軟の妙、口に言うべからず。独りこれを心に知るのみ。
※ 頃者(けいしゃ)- この頃。近ごろ。
※ 好染手帕(コウセンシュバツ)- 染めの奇麗な手ぬぐい。


居士笑いて曰う、手巾(手ぬぐい)これを用いて、かの臭手を拒まば、何如(いか)ん。手は則ち、畏(おそ)るべく、巾は則ち、惜しむべし。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 15 混堂(ゆや)13

(散歩道のくずの花)

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

聞く、近来妓館もまた、清湯を貯え、築くに香木を以ってし、甃(いしだたみ)珠玉を以ってす。佳麗香潔、以って遊客を待たすと。本(もと)これ不潔浄所。恰(あたか)も好し、潔を用いてその不潔を洗う。
※ 妓館(ぎかん)- 遊女屋。娼家。
※ 珠玉(しゅぎょく)-海から産する玉と、山から産する玉。真珠と宝石 。美しいもの、りっぱなもののたとえ。
※ 香潔(こうけつ)- 潔(きよ)らかな香り。
※ 潔浄(けつじょう)- 清らかでけがれのないこと。


俚謳に云う、報言す、挿紙(ハサミガミ)墜(お)つと。拾い去り、戴き来りて、還(ま)た挿み来る。この手、澡洗せず。直に佳殽を撮(つま)み、直に杯を擧ぐ。不潔証すべし。
※ 俚謳(りおう)- 民間で流行する歌。俚謡。
※ 澡洗(そうせん)- 洗うこと。
※ 佳殽(かこう)- 佳き料理。


古衲、一休の言に曰う、男女の楽は臭骸を抱くのみと。この手、豈(あ)に臭上に臭を加えるならず。然るに、人の惑溺、家をこの手に亡し、身をこの手に墜(おと)す。この手、畏るべし。冶郎戒めよ。(多く手段(てだて)あり。何を畏る)
※ 古衲(このう)-(「衲」は衲衣のこと。僧の着る法衣。僧自身をも指す。)昔の僧。
※ 臭骸(しゅうがい)- 悪臭を放つ死体。汚れたからだ。
※ 惑溺(わくでき)- ある事に夢中になり、本心を奪われること。
※ 冶郎(やろう)-「遊冶郎」酒色におぼれて、身持ちの悪い男。放蕩者。道楽者。


かの二三子と嫂(あによめ)を援(すく)うの手、異なり誤りて、この手に死せば、道路に死なんぞ。大葬を得ん。小子をして手を啓(ひら)かしむることを得ざらんや。
※ 二三子(にさんし)- 二、三人の男。この一文は解読してみたが、内容を解することが出来なかった。惑溺する男たちを救うのか、あるいは足抜けの企ての話なのか。何か、古事があって、それを踏まえているのか。解らない。
※ 手(て)- 手段。てだて。


酒は浴後の渇(かわ)きに宜しく、食は浴腹の虚なるに宜し。乃(すなわ)ち烹家(リョウリヤ)もまた,これを滀(たくわ)えて、香棟玉甃、彼(妓館)と美を競い、美味香温、人をして體(からだ)に、口(くち)なら使(し)む。これ所謂(いわゆる)素封、飲食を恣(ほしいまま)にするの処。
※ 痴(ち)- 知恵が足りない。おろか。
※ 呆(ほう)- 愚か。ばか。
※ 素封(そほう)- 俸祿を受けていないが、それに匹敵する富をもっていること。


然るに、或は聞く、士(さむらい)にして珍味を嗜(たしな)むや。大夫にして佳温を好むや。私(ひそ)かにその味を買い、私(ひそ)かにその温を訪う。顧(おも)うに羞(は)ずべきかな。なおかつ、辱(はじ)を挙げて人に誇る。曰う、某亭に異を嘗(な)め、某の楼に香を試みんと。有識に笑わらるゝを知らず。哀しい夫(おとこ)なり。
※ 大夫(たいふ)- 身分のある人。
※ 佳温(かおん)- いい湯。好い風呂。
※ 有識(ゆうしき)- 学問があり見識の高い人。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 14 混堂(ゆや)12

(散歩道の萩の花)

朝、サイレンの起された。今日は防災訓練の日であった。慌てて洗面後、少し遅れて集合場所へ行く。終ってから帰り道に、萩の花が咲き出したのを見つけた。夕方、ムサシの散歩の時、台風の影響か、東風が吹いていた。台風10号は東よりにずれて、東海地方への直襲は免れそうである。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

別に浄湯(きよめゆ)を蓄う。これを陸湯(オカユ)と謂う。爨奴(三助)、杓(しゃく)を秉(と)る。ここを謂いて、呼出(ヨビダシ)と曰う。奴の出入、これよりするを以ってなり。奴を若者(ワカイモノ)と曰い、また爨助(三助)と曰う。今、皆な僭して伴頭と呼ぶ。(、書画会者流の、先生と僭号する如し)杓を秉(と)る者を、上番(アガリバン)と曰い、(さん)を執(と)る者を、爨番(タキバン)と曰う。間日に更代す。
※ 僭する(せんする)- おごって身分不相応なことをする。
※ 猶(なお)- さながら~のようだ。
※ 者流(はりゅう)- その仲間の者。その連中。
※ 爨(さん)- かまどを炊くこと。
※ 間日(まび)- あいまの日。ひまの日。


また、冷水を蓄う。これを水舟(みずぶね)と謂い、斗(マス)を浮べて、斟(く)むに任す。陸湯、水舟、男女板を隔てて通用す。小桶數十を以って、客用に供す。貴客は別に大桶を命じ、且つ、奴をしてその脊を摩澡せしむ。乃(すなわ)ち、その至るを覩(み)る。伴公、報ず。客、五節毎に銭数を投じて、その労を労(ねぎら)うと云う。
※ 貴客(ききゃく)- 上客くらいの意。
※ 摩澡(まそう)- 洗いみがくこと。
※ 柝(き)- 拍子木。
※ 緡(さし)- 銭の穴に通す細い縄。普通、九六文を一差しとし、百文として扱った。


自分も子供の頃はずっと銭湯を利用していた。その経験によれば、「陸湯、水舟、男女板を隔てて通用す」とあるように、銭湯ではこの部分が唯一、男湯と女湯が通じていた場所で、夫婦者が声を掛け合い、この隙間から石鹸などの、ものをやり取りしていたことを思い出す。

堂中の科目、大略左の如し。曰く、官家(御公儀サマ)通禁の守るべきは固(もと)なり。男女混浴の禁、最も宜しく厳守すべし。須(すべから)く猛(もう)に火を戒むべし。
※ 科目(かもく)-「注意事項」ほどのものだろう。
※ 通禁(つうきん)- 通例の禁止事項。


甚雨、烈風、肆(みせ)を収むる。期(とき)無く、老人家(ガタ)、子弟の浴を扶くる無ければ、謝す。病人、悪疾、並びに、入ることを許さず。且つ赤裸、戸に入るを禁ず。附たり、手巾、頬を罩(こめ)る(ホウカムリ)者。日月行事、白(もう)す。
※ 謝す(しゃす)- 断わる。
※ 赤裸(あかはだか)-まるはだか。すっぱだか。 全裸。風呂は裸で入るものだが、始めから素っ裸の者は入れない。
※ 手巾(しゅきん)- 手ぬぐい。(頬かむりを「附り」にしたのは、外せば入れるからであろう)
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「江戸繁昌記 ニ篇」 13 混堂(ゆや)11

(散歩道のシコンノボタン)

迷走している台風10号が、海水温の高い海で発達して、やっと東へ動き出した。来週頭には東海、関東辺りに上陸して、日本海へ抜けるコースをとる模様である。家の周りには、外壁塗装用の足場が組まれているから、風が心配である。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

一日両浴、三銭、糠を費やす。熱を好む者。温を喜(この)む者。寒を療する者。浄を貪(むさ)ぼる者。千磨百剔、汚れを除き、光を放ちて、孰(いずれ)か、能く心を洗う。湯の盤の銘に曰う、苟(まこと)に、日に新たにして、また日新なり。庶幾は、都人心を併せて、これを滌(あら)いて、六根清浄ならんことを。
※ 両浴(りょうよく)- 朝夕、一日に2度風呂に入ること。
※ 千磨百剔(せんまひゃくてき)- 何度もえぐりとり、何度も磨きをかけること。
※ 庶幾(しょき)- こいねがうこと。切に願い望むこと。


混堂、或は湯屋(ゆや)と謂う。或は風爐屋(ふろや)と呼ぶ。堂の広狭(こうきょう)、蓋し常格無し。一堂を分画して、両浴場と作し、以って男女を別く。戸、各々一つ、両戸間に當りて、一坐所を作す。形、床の如くにして高く、左右下(くだ)し監すべし。これにして銭を収め、事を誡(いまし)める。これを伴頭(番台)と謂う。
※ 常格(じょうかく)- 常に定まった格式。
※ 分画(ぶんかく)- 分割して区画すること。


戸に並んで(かきね)を開き、の下に数衣閣(トダナ)を作し、の側に数衣架(タナ)を構ず。単席数筵(座敷)、筵を界してを施し、より室に至る中霤の間、尽(ことごと)く板地を作して、澡洗所と為す。半ばに当りて溝を通し、以って余り湯を受く。
※ 牅(よう)- かきね。
※ 闌(らん)- てすり。
※ 中霤(ちゅうりゅう)の間 -(「霤」は、あまだれ。)座敷と浴室の間に、板敷の洗い場がある。水に濡れることを前提にした板の間である。
※ 澡洗所(そうせんじょ)- 洗い場。


湯槽広がり、方九尺、下に竈(かまど)有りて爨ず。槽の側に穴を穿ち、湯を泻(つな)ぎ、水を送る。穴に近くして、井有り。轆䡎、水を上す。室の前面塗るに、丹艧を以ってす。半上はこれを牅にし、半下はこれを空にす。客、空所より俯(ふ)し入る。これを柘榴口(ザクログチ)と謂う。牅戸画くに雲物花鳥を以ってす。常に鎖して啓(ひら)かず。蓋し、湯気を蓄うるなり。
※ 爨ず(さんず)- 炊く。
※ 轆䡎(ろくろ)- 回転運動を利用する装置の総称。ここでは、釣瓶の滑車のこと。
※ 丹艧 -(意味不明)「舟用の赤い塗料」(?)


湯船のそばに井戸があったとは、想像もしなかったが、湯温を下げるためには水が必要であり、手っ取り早く水を得るには井戸がそばにあるのが便利である。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 12 混堂(ゆや)10

(散歩道のソライロサルビア)

先週に続いて、駿河古文書会に出席する。月に2回の会が後半に纏まったために続くことになった。さらに来週は9月の会が続くため、3週連続となる。しかも、来週は自分の当番である。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

晩に際して混雑、復た沸く。吊燈(ちょうちん)晃々として、真に白日の如し。なお偸兒に備えて、中央にまた高床を設け、更に一南郭を出す。左顧右省、蚤を撮るの眼を為す。
※ 晃々(こうこう)- キラキラと光り輝くさま。
※ 偸兒(とうじ)- ぬすびと。
※ 左顧右省(さこうしょう)- 左を見たり右を見たりして、周りの様子を窺う。


雪に砕ける竹、返魂香、枕辺の臂(うで)、松落ちざる緑、曲同じくして音異るに、音同じくして節(ふし)(こと)なり。時に鬨聲(トキノコエ)を揚げ、挟むに邪許の聲(キヤリ)を以ってす。水潑し桶飛ぶ。山壑、将に頽(くず)れんとす。方(まさ)にこの時にてや。湯滑かにして油の如し。垢を沸かし、を煎ず。衣帯狼藉、脚の投ず容(ひろ)き莫し。蓋し、蚤と蚤相食らうことを知る。
※ 山壑(さんかく)- 山と谷。山谷。
※ 膩(じ)- あぶら。あぶらあか。
※ 衣帯狼藉、脚の投ず容(ひろ)き莫し - 着物と帯がとり散らかって、足の踏み場もない。


女湯のまた江海を翻す。乳母と悪婆、喋々談じ、大娘小婦聒々話す。飽(あ)くまで、隣家の富貴を罵(ののし)り、細かに伍閭の長短を弁ず。わが新婦を訕(そし)り、わが旧主を訴(うった)う。
※ 江海(こうかい)- 大河と海。
※ 喋々(ちょうちょう)- しきりにしゃべること。
※ 大娘(だいじょう)- おばさん。
※ 小婦(しょうふ)- 若い嫁。おめかけさん。
※ 聒々(かつかつ)- 人声が大きく騒がしいさま。
※ 伍閭(ごりょ)-(「伍」は、五人組(向こう三軒両隣)。「閭」は村。)御近所や町内。


金龍山の観音、妙法寺の高祖、併せてその霊験に説き及ぶ。隣家の放屁も論じて、遺(のこ)すこと無し。既にして、甲夜を報ず。爨奴、早く槽底に向いて、枘(セン)を脱す。数客闌入す。伴頭、急に止めて曰う、既已に漏(もら)せり。(ヌケマシタ)客曰う、大いに事を敗けると。(オヽシクジリ)沈吟して去る。
※ 柝(き)- 拍子木のこと。
※ 甲夜(こうや)- 五夜の一。およそ今の午後7時または8時から2時間をいう。戌の刻。初更。
※ 爨奴(れい)- 三助。風呂屋の男の使用人。燃料を集め,釜を焚き,また特に洗い場で浴客のあかすり、肩もみを行った。
※ 槽底(そうてい)- 湯船の底。
※ 闌入(らんにゅう)- 許可を得ずにかってにはいりこむ。乱入。
※ 既已(きい)- すでに。もはや。
※ 沈吟(ちんぎん)- 考え込むこと。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 11 混堂(ゆや)9

(散歩道のヤゾウコゾウ)

マキノキの実を当地ではヤゾウコゾウという。これはまた、鈴なりのヤゾウコゾウである。通りかかった御近所の、地元出身のSさん、車を停めて、たくさん成ったねえという。子供の頃はよく食べた。もっとも、食べるにはまだ早い。黒くなるくらいに熟したら甘くなる。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

一裸、烟を吹きて坐す。顎を引いて下(おろ)し窺い、梯下の一人を指着して曰う、伴公看ずや。悪(にく)むべし。の湯水を乱用する者は、隣家の野郎なり。夫れ水なるは五行の一つ、これを乱用して可ならん。人間一日、水火無ければ、則ち死なん。豈(あ)に慎み用いざるべけんや。一を叩いて万を知る。人物この如く推知す。その金を惜まざるを、その火を戒(いまし)めざるを。将に一條の理屈を説出し来らんとす。
※ 叟(そう)- おきな。老翁。
※ 那(な)- あれ。あの。離れた人や物を指して言う語。
※ 五行(ごぎょう)- 五行説では、万物は木・火・土・金・水の5種類の元素からなるという。


伴公、面てを仰ぎて、壁間の題額を指示し、叟に訊ねて曰う、僕、未だ審(つまびらか)にせず。額面の文字は、所謂(いわゆる)俳句か、抑々(そもそも)狂歌か。叟曰う、俳歌これなり。狂歌は俗称なり。曰う、知らず。何の風味が有る。曰う、似て非なる者、究竟、趣無し。これ唐人の寐語ならず。日本人の寐語のみ。(都俗謂う。難解は曰く、唐人寐語。)
※ 風味(ふうみ)- そのものやその人などから受ける好ましい感じ。風情。
※ 究竟(くきょう)- 物事をそのきわみまで突き詰めること。 また、そのきわみ。究極。くっきょう。
※ 寐語(びご)- ねごと。たわごと。「ねごと」とルビあり。


世に解すべからざるもの有りて、これを為す。自ら大人と称す。大人の、大人たる所以(ゆえん)、全く理會(理解)し難し。公もまた、解すべからざる人。自己の有する所にして、何たるを解せず。嘆ずべきかな。公が職、冗(ヒマ)なり。今より少なく書を読め。

曰う、如何ぞこれに及ばん。僕、唐様を学ばんと欲して、未だ暇あらず。請い問う、当今誰をか能書と為する。曰う、所謂(いわゆる)烏賊、世間皆なこれなり。孰(いずれ)をか能書と為し、指頭、字を結ぶも、胸中、文字を立てず。
※ 能書(れい)- 字を巧みに書くこと。また、その人。能筆。
※ 烏賊(いか)- 烏賊は墨を持つが字を解さないことから、文字を書いても字の意味を解さない人に譬えた。
※ 指頭(しとう)- 指の先。ゆびさき。


並びに、達摩(ダルマ)の門人、且つ書は姓名を記するに足る。(拙筆、従来この語を宗(たっと)ぶ)これを為すは、彼を為すに如からず。公、少なく書を読め。

伴曰う、近ごろ千筵間に善く一大字を作す者有りと聞く。識らず、如(いか)ん。叟笑いて曰う、龍を屠(ほ)うることを学ぶ者は、学び得て用無し。これ亦、一叚、解すべからざる事。
※ 千筵間(せんえんま)- 「センジョウジキ」とルビあり。
※ 一叚(いっか)- 一時的な。余計な。


叟、自ら膝を進む。火頭(ガンクビ)の覆(くつが)えるを省ず。烟(たばこ)膝頭に墜(お)つ。叟、惶遽し、衆、失笑す(フキダス)。
※ 惶遽(こうきょ)- おそれ慌てること。「ウロタエ」とルビあり。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 10 混堂(ゆや)8

(散歩道のギョウジャニンニクの花)

ムサシが食べなくなり、獣医に見て貰ったところ、腸炎で、一日絶食させて、薬を処方してもらってきた。夕方の散歩もムサシ抜きでする。何枚か、花の写真を撮る。その一枚、毎年のように見て来た花だが、ギョウジャニンニクの花らしいと判明した。前は畑に植わっていたような気がする。栽培種なのだろうか。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

楼上また一南郭有りて、茶菓を売る。茶の、概ね山本山の(茶名)上に出ず。或は麦湯を煎ず。饅頭、羊羹、品、糠種、紅を陳(なら)べ、緑を累す。精製に非ずといえども、扭金阿市(並び、菓子名)の前日に比すれば、また餘甘有り。
※ 糝(しん)- こながき。米の粉をかきまぜて煮たてたあつもの。
※ 糠種(ぬかだね)- 糠漬けの漬け物。
※ 累す(るいす)- 積み重ねる。
※ 扭金(ねじがね)- 長方形を中央で一回ねじった形をした駄菓子。
※ 阿市(おいち)- 御市。落雁に似た駄菓子の名。


万能無二、(並び、膏薬名)相撲膏薬。楊木(ヨウジ)、歯粉(ハミガキ)を連ねて、満箱これを貯(たくわ)う。
※ 万能(まんのう)- 万能膏。あらゆるはれもの、傷などに効くという膏薬。
※ 無二(むに)- 無二膏。京都の雨森敬太郎薬房の膏薬。
※ 相撲膏薬(すもうこうやく)- 浅井万金膏。愛知県一宮市浅井町で製造・ 販売された膏薬。別名「相撲膏」。
※ 満箱(まんばこ)- 箱いっぱい。


失物、須(すべか)らく自ら戒(いまし)むべし。決して昼寝を許さず。(予に於いてこれを誅す)並びに署して、壁間に在り。
※ 失物(しつぶつ)- 「うせもの」とルビあり。

裸々一塊、相依りてを囲む。子(小)声、丁々喧嘩、道を争う。傍観、八着を贏(あま)る。当局、一迷を喫す。東南、風急なり。後辺に立ちて助声する者、睾丸を把(にぎ)りて、他の頂上に放在す。
※ 棊(き)- 囲碁。
※ 傍観、八着を贏(あま)る -「おかめはちもく(岡目八目)」とルビあり。
※ 放在(ほうざい)- 入れること。


裸々、並び臥(が)して、手、春畫本を翻(ひるがえ)す。看て妙処に到る。或は起つこと能わず。(青蛇、舌を吐く)
※ 春畫本(しゅんがほん)-「ワライボン」とルビあり。「春畫本」は、性的な描写だけでなく、ユーモアもあふれていたので「笑い絵」と呼ばれていた。

裸々団欒、紅緑泛食す。伴公、甚だ恐れる。他の算数を繆(あやま)らんことを。
※ 紅緑 - 前述の「紅を陳べ、緑を累す」を指している。
※ 泛食(ぼうしょく)- 色々広く食べること。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 9 混堂(ゆや)7

(大代川に映る夕陽)

これも昨日写したものである。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

男にして女様、糠を用いて精滌し、(面恐剥皮鉄面、何をか憂えん)人にして鴉浴、一洗、径(みち)に去る。
※ 精滌(せいじょう)- こまかく洗う。
※ 面恐(おもこわ)- 恐い顔。
※ 剝皮(はくひ)- 皮をむくこと。
※ 鉄面(てつめん)- 鉄面皮。恥を恥と思わないこと。厚かましいこと。
※ 鴉浴(あよく)- カラスの行水。


物有り、板を舐めて、青蛇、鱗を曝らし、包頭(カワカブリ)桶に触れ、玄亀、頭を縮む。


この文は、詳しく注を付けるのは止めた。

酔客、気を噓(ふ)いて、熟柿香を送り、漁啇膻を帯て、乾魚臭を曝す。
※ 熟柿香(じゅくしか)-熟柿のようなにおい。酒に酔った人の息のにおいを形容する語。。
※ 漁啇(ぎょてき)- 魚の素。(これは何だろう)
※ 膻(だん)- きも。
※ 乾魚臭(かんぎょしゅう)- 魚の干物の臭い。


一環の臂墨(イレズミ)。掩(おお)う所、有るが若(ごと)く、満身の花繍(ホリモノ)。赤裸、側に在るも悪(お)ぞ。よく浼(けが)さん。故(ふる)うに、これを示すに似たり。一撥、衣を振れば、汶々の受けるを欲せざるなり。
※ 一環の臂墨(いっかんのひぼく)- 罪人の腕の入れ墨であろうか。
※ 赤裸(せきら)- まるはだか。すっぱだか。
※ 汶々(もんもん)- くりからもんもん。入れ墨のこと。


浮石(カルイシ)踵(かかと)を摩(ま)し、両石、毛を敲(たた)く。衣を被(ひ)して、爪を剪(き)り、身を乾(かわ)かして、蚤を拾う。光頭一箇(ホウズアタマ)、乾々洗滌し、更に頂上に向いて、一桶水をにす。一人傍より絶叫して曰う、快し。相視て大いに笑う。
※ 乾々(けんけん)- 怠らず勤めるさま。「ごしごしと」位の意。
※ 倒(とう)- さかさま。


午末の際が伴頭倦昬嗒焉として坐睡す。南郭に隠る。模様想うべし。賓頭盧、屡々(しばしば)来客に撫(な)ぜらる。
※ 午末(ごまつ)- 昼下がり(?)。
※ 倦昏(けんこん)- 疲れて意識が薄れる。
※ 嗒焉(とうえん)- うっとりとすること。
※ 坐睡(ざすい)- 座ったまま眠ること。いねむり。
※ 南郭(なんかく)- 南の区画。
※ 几(き)- 机。
※ 賓頭盧(びんずる)- 十六羅漢の第一。白頭・長眉の相を備える阿羅漢。日本ではこの像をなでると病気が治るとされ、なで仏の風習が広がった。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 8 混堂(ゆや)6

(飛行機雲が目立つ、今日の夕空)

このところ、夕空ばかりを眺めている。台風1号がなかなか発生しなかった今年、帳尻を合わせるように、太平洋に幾つも発生し、次々に日本にやってくる。台風11号が去ったと思ったら、今朝は台風9号が関東を襲い、房総半島に上陸した。人が付けた順番など、自然界は頓着しないようだ。

オリンピックが終わった。メダル数が、金12個、銀8個、同21個、合せて41個、国別では6位。メダル数では過去最高であったロンドン大会の38個を3個上回った。

孫たちが去って、今日から外壁の塗装の業者が入った。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

全く業気を除して、自ら痴を知る。清音宛轉中、忽(たちま)ちの濁音を挟んで曰う、魂を返す、返魂香。名畫、霊有らば憐むべきの一隻語(カワイトタツタヒトコトノ)の如し。一声これを聴かしめよ。声大なり。
※ 業気を除して -「つとめぎ(務め気)はな(離)れ」とルビあり。
※ 宛轉(えんてん)- なめらかで、とどこおりのないさま。
※ 返魂香(へんごんこう)- 焚くとその煙の中に死んだ者の姿が現れるという伝説上の香。反魂香(はんごんこう)。
※ 隻語(せきご)- ちょっとした言葉。短い言葉。


(つい)で歌いて曰う、松は固より緑を落さず(トキワニテ)、薪と為すは桜と梅、誅焼(キリクべテ)始めて知る、衛士の火、庭燎、今夜君が與(とも)して来たる。
※ 衛士(えじ)- 護衛の兵士。
※ 庭燎(にわび)- 神事の庭にたくかがり火。


甲、乙を怒りて曰う、湯を用いる事、姑(しばら)く、徐々にせよ。我が頭は誕生仏に非ず。洗然たる一怒声、頓(とみ)啾音遏密す。寂たりや。適す(ちょうどその時)聞く。湯中に自然に声有りて、湧き上るを。蓋し、人の放屁するのみ。
※ 洗然たる(せんぜんたる)- さっぱりとした。
※ 啾音(しゅうおん)- 啼く音。
※ 遏密(あつみつ)- 鳴りものをやめて静かにする。


外面の浴客、位置、地を占め、各(おのおの)自ら垢を摩(ま)す。一人は大桶を擁し、爨奴をして、背を巾(ぬぐ)いしむ。人、両児を挟んで慰撫、頭を剃らす。弟は手に陶亀と小桶を弄す。兄は則ち已に剃らせり。側に在りて板面に巾(手ぬぐい)を布(し)き、舒巻、自ら娯(たの)しむ。
※ 爨奴(さんど)- 三助。風呂屋の男の使用人。燃料を集め、釜を焚き、また特に洗い場で浴客のあかすり、肩もみを行う。
※ 舒巻(じょかん)- のばし広げることと、まき固めること。


水舟に就いて嗽し、因って、睨(にら)め、板隙を窺(うかが)う。蓋し、更代藩士。(温泉宮、目前に在り。覗かざるを得ず)隅に踞して、盤を前にし、犢鼻(ふんどし)を洗濯す。曠夫なると知る可し。
※ 水舟(みずぶね)- 水槽。
※ 嗽す(そうす)- 口をすすぐ。うがいをする。
※ 更代藩士(こうたいはんし)- 参勤交代で江戸へ来た藩士。
※ 踞す(きょす)- しゃがむ。
※ 曠夫(こうふ)- 妻のいない男性。男やもめ。
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