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「江戸繁昌記 三編」を読む 12

(庭のサルビア・ミクロフィラ)

いよいよ平成が終わる。朝から平成時代の回想番組がテレビで流れている。

平成最後の写真はサルビア・ミクロフィラ、花の時期が4月から11月と、長い花である。

自分は、昭和に42年間、平成に30年間、令和がもし30年続くなら、そこまで生きれば100歳を越す。到底そこまでは持ちそうにないが、思えば遠くまで来たものである。戦争が終ってからこの世に生を受け、70余年、日本は戦争に巻き込まれずにすんだ。天災の多い日本だから、天変地異は数々あったけれども、不思議と自分の周りには影響なく、今まで過ごしてきた。

賭け事に弱い、じゃんけんに弱い、くじに当ったことは記憶にない。自分は運が悪いと思っていたけれど、意外と、当らない分、運が良かったのかもしれない。来たる令和の時代も、この運の悪さを良さに読み替えて、残された時間を、人生の集大成の期間として行きたい。

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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「開帳」の続き。

(友人)、笑いて曰う。善し、既已(すで)にこれを収む。余す所はただ熱、宜しきなり。也(また)都人の熱に趨(おもむ)く、一両両々、宜しきなるや。古えに言う。蝿は驥尾に附して、千里行を致し、士は青雲に依りて、名声世に施すと。思うに、今世、ただこれのみならず、神もまた然り、仏また然り。客人権現なる者有り。明王の尻に附して開帳す。蓋(けだ)し、また賽銭を得んと云う。
※ 驥尾(きび)- 駿馬(しゅんめ)の尾。
※ 客人権現(きゃくじんごんげん)- 滋賀県大津市の日吉山王の祭神。商家で、客足の多くなることを祈願して祭る。


居士、手を拍(う)ちて曰く、妙々その尻に附く。稍(やや)進みて、腰を挙ぐれば、恐らくは那(な)の火に焼かれ、危(あやう)いかな。嗟々(あゝ)、それ已に尻に附くぞ、生涯、主と為ることを得ずと。善いかな、その客人と称すること。居士また駑(おろか)なり。名利の如し。求むほどは、附かんと欲す者久し。曷(いずくん)ぞ、放屁の患を難ぜん。独りなん、天下に無き、吁々(あゝ)
※ 妙々(みょうみょう)- きわめてすぐれているさま。すばらしいさま。
※ 名利(みょうり)- 名誉と利益。また、それを求めようとする気持ち。
※ 驥(き)- 1日に千里を走るほどの名馬。駿馬(しゅんめ)。
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「江戸繁昌記 三編」を読む 11

(庭のミヤコワスレ)

庭のミヤコワスレ、ミヤマヨメナの園芸種だという。もう何年か、春になると花を付ける。

今日は「昭和の日」、明日は「平成」最後の日、明後日は「令和」最初の日、だからどうと云うことはないが、ちょっと気付いたので。天皇の譲位と即位、年号の切り替わりの二日、列島は天気が悪いらしい。一説には梅雨の走りのような肌寒い天気だという。

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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「開帳」の続き。

明王霊龕、六月を以って鎖す。聞く、鎖後、特に拝すを乞う者は、一開、一両金を献ず。然もなお乞う者、これを争い、一開一両、一両一開、一両一両、両々両々。開帳、晷(とき)を窮めて、終に閉めるに遑(いとま)無く、信宿中、又、一大開帳を為すと。嗚呼(あゝ)、明王、霊験の有る所に出るといえども、然も、這(こ)の都に非ざるよりは。争いがこの閉後の開を得ん。盛んなるかな、開帳。
※ 明王(みょうおう)- ここでは、成田山の不動明王。
※ 霊龕(れいがん)- 尊像を納めた厨子。
※ 朔(さく)- ついたち(朔日)。
※ 信宿(しんしゅく)- 同じ所に二晩泊まること。二晩どまり。再宿。


友生、来たり。予を賛じて曰う。去年初篇に記す、江都の一大患は、火なるのみと。切に、都人、火を慎むを誡(いまし)む。然し、今春の火無き、数十年来の、未だ聞見せざる所、抑々(そもそも)妙なり。豈(あに)、予が神文霊筆(須(すべから)く、近く前(すすま)れ、拝み一拝すべし)、これ誡(いまし)むるの、よって然る所、非ざるを得んや。
※ 友生(ゆうせい)- ともだち。友人。朋友。
※ 賛じる(さんじる)- ほめる。ほめたたえる。賞賛する。
※ 大患(たいかん)- 大きな心配事。
※ 聞見(ぶんけん)-「見聞」に同じ。
※ 神文霊筆(しんぶんれいひつ)- 江戸繁昌記の初篇を指す。この部分意訳すれば、「江戸繁昌記の中で、火の扱いを戒めたため、火事が無かったのか。そんな訳はないと、どうして言えよう。」(友人の言)


居士(静軒)、有せず、これを明王に帰す。曰く、何ぞやなり。曰く、今は偶々(たまたま)憶うに、前番(=前回)不動の来たる都下、大火あり。因って、或るは言う、明王背上、火炎を分かつと。頗(すこぶ)る名声を壊(こわ)せり。乃(すなわ)ち、今春、火無き、果して知る。明王、名を保するの力、民を愛するの霊、蓋(けだ)し、その炎を収む。
※ 背上(はいじょう)- 不動明王の光背。(その火炎から飛び火したという悪口。)
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「江戸繁昌記 三編」を読む 10

(庭の隅のシラン/4月25日撮影)

10連休の2日目、午後、名古屋のかなくん母子が来る。パパは連休なしの仕事だとか。掛川のまーくん兄弟もきて、久し振りに賑やかになった。まーくんパパも長い海外赴任から帰国して、今日は仲間で共同の田植え仕事に出ているという。孫たちは日に日に成長している。

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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「開帳」の続き。

鼓急に、笛(りょう)たり。雪晴れ、廟砕く。城郭漸々地より湧き出ず。(場面転換を表す)慌て得て、観る者、魂飛び、魄散ず。那の(=かの)扈三娘双手剣を揚げて、林箭を砍(き)り除く。蛾眉(すい、=みどり)を縦にし、長袖紅を飄(ひるがえ)す。
※ 喨(りょう)- 音が清らかにひびきわたるさま。
※ 魂飛び、魄散ず(こんとびはくさんず)- 魂が飛んでいって、心が空になるほどに驚く。
※ 扈三娘(れい)- 梁山泊の女性頭領の一人。渾名は一丈青。
※ 双手(そうしゅ)- 両手。もろて。
※ 林箭(りんさ)- 林のように飛んでくる矢。
※ 蛾眉(がび)- 蛾の触角のように細く弧を描いた美しいまゆ。


正にこれ殺気場中、彩霞空より落ち、三郎ノ羯鼓、牡丹驟(にわか)に開く。次を破り、段を超えて、這(こ)の娘を跳(おど)り出す。これ技人の妙思。既にして東帷褪すれば、則ち所謂(いわゆる)一箇の水郷地。梁山泊と名付くるは、四面高山、三関雄壮、聚義庁上、宋江李達など、俯仰態を成す。三面通(かよ)えて変ず。山疂み、水流る。水、近くして遠く、山、小にして大なり。那(か)方円八百余里の縮図と作る。白(口上)叫ぶ。先客後に譲れ。(先さまはお帰り、=客の入替)
※ 彩霞(さいか)- いろどりの美しいかすみ。
※ 羯鼓(かっこ)- 中国・日本の打楽器の名称。雅楽で用いる太鼓の一種。
※ 東帷(とうい)- 東のとばり(垂れ幕)。
※ 梁山泊(りょうざんぱく)- 中国山東省梁山県の南東、梁山の麓。古来天険の要地として著名。「水滸伝」で林沖,朱貴らがここを根拠に活動した。
※ 聚義庁(しゅうぎちょう)- 梁山泊の中枢部が置かれた所。
※ 宋江(そうこう)-北宋末に現在の山東省近辺で反乱を起こした。四大叛徒の一人。綽名は呼保義(こほうぎ)。
※ 李逵(りき)- 怪力、色黒の豪傑。渾名は黒旋風、鉄牛。宋江を絶対的存在とする。
※ 俯仰(ふぎょう)- 立ち居振る舞い。
※ 態を成す(たいをなす)- まとまった形になる。形がととのう。
※ 山畳む(やまたたむ)- 山が幾重にも重なる。
※ 方円(ほうえん)- 四角と丸。方形と円形。
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「江戸繁昌記 三編」を読む 9


(イペ)


(ジャスミン)


(ナニワイバラ)

一昨日、吉田町の林泉寺では、長藤、モッコウバラ以外にも、色々と花盛りであった。ブラジルの国花イペ、今の季節だけに目立つ花で、帰り道でも、何本か、イペの木を見付けた。花が咲く、今でないと見つからない花である。ジャスミン、花より先に香りが所在を告げる。ナニワイバラ、花に寄る小さな虫は、蜂ではなくアブで、刺さないので心配しないようにと、親切に断り書きがあった。

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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「開帳」の続き。

(からくり)、西壁に輪ず。両箇(=二人)の好漢、忿争(=紛争)、闘いを堵す。智深を挙げて、頭照らして、打たんと(たい)芝史進、刀を撚(ひね)りて、杖を迎う。瓦棺(灌)廃寺、写し出し幽邃
※ 輪ず(りんず)- 転じる。変える。
※ 智深(ちしん)- 魯達(後に魯智深と名乗る)。盟友、史進と瓦灌寺の凶賊を退治した。
※ 杖(じょう)- 杖術の武器として用いる長さ約一・三メートルの樫の棒のこと。
※ 待す(たいす)- 待ちうける。
※ 芝史進(しばししん)- 9匹の青竜を象った見事な刺青のため、あだ名は九紋竜。王進の弟子。
※ 写し出し(うつしだし)- 見聞したり考えたりした事柄を、絵や文章に書いて表わす。
※ 幽邃(ゆうすい)- 景色などが奥深く静かなこと。


(からくり)(さかさ)まになり。一面の白虎節堂玉欄椒壁金碧映射す。林冲、刀を拏(つか)みて、簷(えん、=庇)前に立在む
※ 白虎節堂(びゃっこせつどう)- 高大尉の策謀で、帯剣禁止の白虎節堂に足を踏み入れて、林冲は禁制を犯した罪で捕らえられた。
※ 玉欄椒壁(ぎょくらんしょうへき)- 玉の手摺りと山椒の実を塗りこめた壁。高貴な婦人の居室をいう。
※ 金碧(きんぺき)- 金色と青緑色。
※ 映射(えいしゃ)- 光を受けて照り輝くこと。
※ 林冲(りんちゅう)- 林教頭とも。綽名は豹子頭(ひょうしとう)。
※ 立在む(たたずむ)- しばらく立ち止まっている。じっとその場所にいる。佇む。


(=口上)叫び、木(=拍子木)鳴る。南西一箇の山、神廟を開く。四天(=四方)一白朔風雪を捲く。管営、已に斃(たお)れ、冨安、走らんと待(たい)す。林冲、鎗を拈(ひね)りて、陸虞候を搠(さ)し倒す。
※ 神廟(しんびょう)- 神を祭る御霊屋(みたまや)。
※ 一白(いっぱく)- 一面に白いこと。まっしろなこと。
※ 朔風(さくふう)- 北から吹く風。北風。
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「江戸繁昌記 三編」を読む 8




(林泉寺のモッコウバラ/昨日撮影)

吉田町の林泉寺、長藤のそばに、モッコウバラが満開であった。花の基に「皇室 紀子様のお花」とあったが、これは間違いで、正しくは、秋篠宮家眞子内親王のお印である。細かくは黄モッコウバラと云うからまさしくこの花である。

つる性低木のモッコウバラが、このような樹形になっているのは、不思議に思ったが、よく見ると、夏ミカンらしい木を台木化して樹形を形成しているようであった。

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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「開帳」の続き。

以下、水滸伝の幾つかの有名な場面が、絵や人形や鳴り物で展開される見世物小屋の光景である。水滸伝を知らないから、なかなか解読に時間がかかった。ともかく、見世物小屋を想像しながら読み進んで行く。

(口上)、扇を揚げ、指示し説道す。こはこれ、水滸伝第一回、洪大尉誤りて妖魔を走らす模様を擬(ぎ)す。那(な)大尉、声に応じて晴転し、指動く。火把一炤石碣を掘り開く。猛に聴く刮喇々一声黒気一道、穴より袞出す。
※ 白(はく)- 口上。台詞(せりふ)。
※ 偶(ぐう)- 人形。
※ 晴転(せいてん)- 明るく変わる。今でいえば、スポットライトが当たるの意。
※ 火把(かわ)- たいまつ。
※ 一炤(いっしょう)- ひとあかり。
※ 石碣(せっけつ)- 石のたてぶみ。石碑。
※ 刮喇々一声(かつらかつらいっせい)- ぐわらぐわらとなる声。
※ 黒気(こっき)- 黒い気。不吉な気配。妖気。
※ 袞出(こんしゅつ)- こんこんと出る。


(ひょうしぎ)(ひび)き、転ず。殿宇山巌、後ろを望んで、倒覆す。只見る。野天荒涼、遠林昏(くれ)んと欲す。一婆、羸馬坐下し、一馬尾踉在す。遠々一箇の荘院、燈光閃(ひらめ)き出ず。白(はく、=口上)、叫ぶ。王教頭、私(ひそ)かに延安府に走る。この処、これなり。(須(すべから)く、近く前(すすま)れ、拝み一拝すべし。)
※ 機(き)- からくり。しかけ
※ 殿宇(でんう)- 御殿。殿堂。
※ 山巌(さんがん)- 山の石。
※ 倒覆(とうふく)- ひっくりかえること。
※ 羸馬(るいば)- やせて疲れた馬。
※ 坐下(ざげ)- 腰掛けること。
※ 漢(かん)- おとこ。
※ 馬尾(ばび)- 馬の尾。ここでは馬の後ろ。
※ 踉在(りょうざい)- ふらふらと、よろめいていること。
※ 荘院(そういん)- いなかの別荘。
※ 王教頭(おうきょうとう)- 王進(おうしん)。武術の達人で八十万禁軍の教頭(武術師範)をつとめた。辺境の延安府へ、老母を連れて逃亡する。
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「江戸繁昌記 三編」を読む 7


(牧之原市静波、東光寺の長藤)


(吉田町、林泉寺の長藤)

昨日からの雨も上がったので、今朝思い付いて、お昼前から、女房と、東光寺の長藤と林泉寺の長藤を見に行った。どちらの長藤も、有名な熊野の長藤から芽を頂いて、境内に元からあった山藤に接ぎ木したものだと云う。

どちらでも、藤棚の下にテーブルが並び、地元のお年寄りたちが花見をしていた。アルコールも入って、声が大きい。東光寺の長藤は幹が半端ではなく、長藤と呼ばれる前に、山藤の時代が長かったことを思わせた。それに比べると、林泉寺の長藤はまだ若い木であった。

長藤にはクマバチがつきものだが、特に東光寺ではうるさいほどに飛び回っていた。大型のハナバチで、もちろん針は持っているが、スズメバチと違い、余程でないと人を刺すことはない、穏やかな蜂である。とはいえ、子供の頃、山が遊び場で、一度ハナバチの中の、クロマルハナバチに刺されたことがある。何かの拍子に驚かせてしまったのだろう。


(長藤に寄るクマバチ)

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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「開帳」の続き。

南膽部州、大日本国中、神々仏々、大と没(な)く、小と没(な)く、霊に屈(かがま)りて来る。仰ぐ殆んど虚月無かれ。今、そのなるものを算(かぞ)えれば、嵯峨の釈迦、成田の不動、信州の如来、身延の上人、これ等、是なり。今春、開帳十九ヶ所、成田の不動もまた、旧例を照らし、深川に来たりて帳を開く。都人の賽詣、星を趂(お、=追)い、潮を捲く。屓贔(ひいき、=贔屓)奉納、豪を賭し、山を湧かす。観物演戯、また従いて、奇を競いて、今、その一戯を記す。衆観(観衆)推すべし。
※ 南膽部州(なんせんぶしゅう)- 仏教的宇宙観で、須弥山の四方にある四つの島の一つで、閻浮提とも云い、人間が住んでいる世界である。
※ 虚月(きょげつ)- 何事もない月。
※ 魁(かい)- 他の者の先頭を行くこと。
※ 嵯峨の釈迦 - 京都市嵯峨にある清涼寺の本尊、釈迦如来立像のこと。
※ 賽詣(さいけい)- お礼参り。
※ 潮を捲く(しおをまく)- 海から船で来ることをいうのであろう。


方数十歩の間、一大榭を葺きし。四面、戯(場)を設(もう)く。梁上の当中、一箇の綵燈を懸け、一部の鼓吹を草(はじ、=創)む。を鼓し、角(らっぱ)を動(どう)ず。梆木(ひょうしぎ)(ひび)く処、ただ見る、帳(とばり)落ちて、一宇の伏魔殿を現じ出す。山険林猛なり。
※ 方数十歩(ほうすうじゅうぶ)- 数十歩四方。「歩」は、1.8メートル。
※ 大榭(たいしゃ)- 大きな高殿。
※ 綵燈(さいとう)- 彩灯。彩色や装飾を施したちょうちん。
※ 鼓吹(くすい)- 鼓を打ったり笛を吹いたりすること。
※ 鐃(にょう)- フライパン型の金属製の銅鑼で、ひもで下げ、ばちで打つ。
※ 伏魔殿(ふくまでん)- 魔物のひそんでいる殿堂。
※ 山険(やまさか)- 山のけわしいこと。
※ 林猛(りんもう)- 林が勢い盛んなこと。


読書:「化蝶散華」 玄侑宗久 著
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「江戸繁昌記 三編」を読む 6

(庭の花盛りの花壇/21日撮影)

数えてみると、およそ10種類ほどの花がひしめき合って咲いている。

午後、金谷宿大学の会計監査があって、大学側として出席した。

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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「開帳」の続き。

徳に帰し、霊に依(え)す。屓贔(贔屓)連中、儕輩(さいはい)、皆な争いて物を供す。千位萬置、彩を懸け、華を陳ず。また一壮観なり。俗にこれを奉納物と謂う。奉納所、那辺に処す。観物、這(こ)の辺は、幻技戯場、劇棚、鳥喙相撲(あいう)酒壚茶竈魚鱗相連なる
※ 贔屓(ひいき)- 気に入った人を特に引き立てること。後援すること。
※ 儕輩(さいはい)- ともがら。同じ仲間。
※ 千位萬置(せんいまんち)- 千の所に万を置く。つまり、山盛状態を示す。
※ 那辺(なへん)- どのへん。どのあたり。
※ 観物(かんぶつ)- 見世物。
※ 幻技(げんぎ)- 手品。奇術。
※ 戯場(ぎじょう)- 芝居などを演じる場所。舞台。劇場。
※ 鳥喙(ちょうかい)- 鳥のくちばし。
※ 鳥喙相撲つ(ちょうかいあいうつ)-鳥がくちばしを打ち合わす(ような、喧騒の様子の表現)。コウノトリのクラッターのようなものだろうか。
※ 酒壚(しゅろ)- 居酒屋。
※ 茶竈(ちゃそう)- 茶の湯をわかすかまど。ここでは茶店のことを指す。
※ 魚鱗相連なる - 魚の鱗のようにびっしり連なっている。


且つ粱餈曲擣なるものあり。開帳所を趂(お、=追)い、店を下ろす。数人一装紅帕(べにはちまき)額を抹し、叫声す。粱餈曲擣、高評々々。一箇(人)は杵を操(あやつ)り、一箇は手を臼にす。一呼一杵、一叫一手。低昻、態を作し、曲節、响(ひびき)を呈す。
※ 粱餈曲擣(りょうしきょくとう)- 粟もちの曲搗き。
※ 一装(いっしょう)- 揃いの装束。
※ 紅帕(べにはちまき)- 赤い鉢巻き。
※ 抹す(まっす)- すりつぶす。なすりつける。ここでは、巻き付けるの意。
※ 高評(こうひょう)- 評判が高いこと。大評判。
※ 一呼(いっこ)- 一声。
※ 低昻(ていこう)- 高低。高下。


(か)え杵し、代り臼し、臼を輪(まわ)し、杵を輪し、臼を環(めぐり)追逐し、臼を隔てゝ調譃す。我、実を奪いて、彼、虚を擣(つ、=搗)き、彼、手を停めて、我、度を錯(あやま)る。百杵、已(すで)に熟す。
※ 追逐(ついちく)- あとを追いかけること。
※ 調譃(ちょうく)- 戯れること。たわぶれ。


双手これを抓(つま)みて、顆々珠を拈(ひね)り、直(すぐ)に大盤の裏(うち、=内)に向けて抛(なげう)つ。正にこれ秋果熟する時、風伯、林を摧(くだ)き、蟄龍空に(ひい)て、春雹、天に砕(くだ)く。珠の大小千もまた一顆、萬また一顆。臼・盤相距(へだ)たること、一丈たるべし。然し、珠落ちる所、千も也(また)一的、万也(また)一正、盤外一顆の誤り迸(と)ばすを看(み)ず。真に妙擣、真に妙手、高評高評。
※ 顆々(かか)- つぶつぶ。
※ 風伯(ふうはく)- 風の神。
※ 蟄龍(ちつりゅう)- 地にひそんでいる竜。活躍する機会を得ないで、世に隠れている英雄のたとえ。
※ 冲る(ひいる)- 空高く舞い上がる。
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「江戸繁昌記 三編」を読む 5

(森町、天宮神社のシャクナゲ/一昨日撮影)

これはまた鮮やかな真っ赤なシャクナゲである。天宮神社参道には同じシャクナゲが何本も咲いていた。

一日、江戸繁昌記の漢文と格闘する。どうやら、漢和辞書にもない、静軒さん独特な漢語もあるようで、辞書を引くと、用例として、江戸繁昌記のその部分が出て来る場合も多い。

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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「開帳」の続き。

その次、説き起して曰く、昔在、神功皇后、親(みずか)ら三韓を征する彼れ、急を明(あした)に告げ、乃(すなわ)ち、大明の天子詔(みことのり)を下すに、関羽、張飛等にして、数万兵を率いて来たり、援(すく)わ遣(し)む。后、便(すなわ)ち、武内の宿禰をして迎へ戦わ令(しめ)ん。后、便(すなわ)ち、短兵(すで)に接す、我が軍、危敗とす。后、中軍に在り、急に麾(さしまね)くに、日蓮上人、書する所の七字妙号旗を以ってす。魔風、忽(たちまち)にして起きて、神兵天より降り、敵軍大いに敗れ、関張等纔(わずか)に身を以って脱すなり。那の時の霊旗、これ、是れなり。近く前(すすま)れ、これを拝せよ。
※ 昔在(せきざい)- むかし。往時。
※ 大明(だいめい)- 中国、南北朝時代、劉宋の孝武帝の年号(457年~464年)。
※ 短兵(たんぺい)- 短い武器。弓矢や長槍・長剣などに対して、刀剣や手槍(てやり)の類。
※ 危敗(きはい)- 敗北を危ぶむこと。
※ 中軍(ちゅうぐん)- 中央に位置する軍隊のこと。
※ 関張(かんちょう)- 関羽と張飛。(もちろん、歴史的な全くでたらめである)
※ 那の時(なのとき)- あの時。かの時。


次また霊を説き、次かつ妙を説く。三国伝来、狐の尻珠。八丈四面、狸の睾丸。唾壺出現の蛟龍。箱根関西の魑魅水虎の屁。鬼首級一欄内、天下奇観を極(きわ)む。
※ 三国伝来(さんごくでんらい)- インドから中国または朝鮮半島を経て日本に伝わってきたこと。
※ 唾壺(だこ)- たんつぼ。
※ 蛟龍(こうりゅう)- 中国古代の想像上の動物。水中に潜み、雲雨に会えば、それに乗じて天上に昇って龍になるとされる。
※ 魑魅(ちみ)- 霊魂または、山林の気・沢や石の精、物の怪や化け物など。
※ 水虎(すいこ)- 日本の妖怪。川や海などの水辺に住み、人を水中に引きずり込む。河童の一種とされる場合もある。
※ 首級(しゅきゅう)- 討ちとった敵の首のこと。
※ 一欄(いちらん)- ひとわく。ひと仕切。
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「江戸繁昌記 三編」を読む 4

(山名神社のクンシラン/昨日撮影)

袋井市上山梨、山名神社の境内の木陰に、一際鮮やかにクンシランが咲いていた。我が家にも一鉢、クンシランがあったはずだが、気付かないところを見ると、まだ咲いていないのだろう。年に一回、花が咲く時だけに気付く。地に下してこんな元気に咲くならば、我が家のクンシランも鉢から出して木陰に植えようかと思う。

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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「開帳」の続き。

万点を供して、衆星、光を閃(ひらめ)かす。千指、香を拈(ひね)て、濃雲を凝(ぎ)す。幟(のぼり)竿林列し、賽銭雨抛(なげう)つ。一箇、神酒を売り、一箇は霊符を呼ばう。一箇は何に、一箇は何に、皆な叫(よ)ばう。何はこれより出でて、何はこの所に有り。
※ 万点(ばんてん)- 多くの点。また、数えきれないほど点在するさま。
※ 燭(しょく)- ともしび。あかり。
※ 衆星(しゅうせい)- 多くの星。
※ 香を拈る(こうをひねる)- 焼香する。
※ 濃雲(のううん)- 香を焚く煙りのこと。
※ 祥(しょう)- めでたいこと。また、その前ぶれ。吉兆。
※ 霊符(れいふ)- 霊験あらたかなおふだ。お守り。護符。


時々喝道す。霊宝は左に在り、左欄曲折、次を以って宝を陳ず。人有り、傍らに在りて、その縁故を説く。揚言して曰く、これに安置奉る所の霊杖は、これ/\昔、殷湯七年の旱(ひでり)、天下の井水皆な涸れる。人民、渇(かわ)きに苦しむ。弘法大師、これを哀れみ、念呪、これを把(と)りて、在々これを挿(さしこ)む。霊なるかな、杖刺す所、即ち、泉抽(ぬ)く。
※ 喝道(かつどう)- 大声でしかりつけること。どなりつけること。
※ 揚言(ようげん)- 声を大にして言うこと。公然と言いふらすこと。
※ 殷湯七年(いんとうななねん)- 殷の湯王の治世、7年。紀元前17世紀。湯王は、古文献の多くで、明哲王としてその徳を讃えている。
※ 念呪(ねんじゅ)- まじない念じる。
※ 在々(ざいざい)- ここかしこ。そこここ。


これを拜すにより、悪事災難悉くこれを除く、一の如き大師の誓願なり。便(すなわ)ち、細竿を使いて、帷帛を捲き上げ、喝道す。須(すべから)く、近く前(すすま)れ、拝み一拝すべし。
※ 一の如き(いつの如き)- 如一。変化がない。全く同じ。
※ 帷帛(いはく)- 絹布のとばり。
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「江戸繁昌記 三編」を読む 3

(新天皇即位、令和改元奉祝の屋台の組立)

朝8時10分出発、二度目の遠州式内社見学会下見に、NT氏と出掛けた。今日は袋井を中心に下見をした。

袋井市木原の許禰神社の駐車場で、御祭り屋台の組み立てを行なっていた。「御祭りですか」と聞いたところ、「新天皇即位と令和の改元を祝って、屋台を出す準備をしている」との答えが返ってきた。国を挙げての大きな御祝い事があると、庶民側からも、お祭りの形式で祝うことは、昔から行われてきたことなのだろうけれど、令和の時代へも引き継がれて行くようで、嬉しいことである。

同行のNT氏は、設計士として、文化財建築の修覆をいくつも経験され、長年、文化財としての建築について勉強されてきて、造詣が深く、話を聞くだけで、社寺の建物の見方が変わって、大変楽しくなる。これはぜひとも、金谷宿大学に、文化財建築案内の講座を開いてほしいと、前から要望している。今日の話では、少し前向きに考えてくれていそうである。

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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。

    開 帳
神、崇(あがめ)しといえども、仏、尊(たっと)ぶといえども、江戸の賽銭を仰がざれば、阿弥陀も、或るは光を欠く。神の格、測るべからず。争いて霊趾を挙げ、競いて妙脚を運び、輻々湊々四遠、ここに萃(あつ)まる。
※ 霊趾(れいし)- 霊跡。神聖ないわれのある場所。
※ 妙脚(みょうきゃく)-(「脚」は足のあるもの、ここでは仏像をいう。)不思議な仏像。妙なる仏像。
※ 輻々湊々(ふくふくそうそう)- 色々なものが方々から集まってくること。
※ 四遠(しえん)- 四方の遠く隔たった所。


未だ知らず、神、都人に福するや。抑々(そもそも)、人、仏に福するや。仏(く)、神某れ、開帳に先(さき)んず者、旬日、去る処、在る所、榜文を掲げて曰く、某(ぼう)が地の、某が霊、某が境内に開帳す。某(ぼう)月より某ヶ月に至る期に及ぶ。都人帰依し、霊を(むか)
※ 某れ(くれ)- 不定称の人代名詞。名を知らない人、また、それとは定めない人、名をわざとぼかしていう場合などに用いる。
※ 旬日(じゅんじつ)- 10日間。10日くらいの日数。
※ 榜文(ぼうぶん)- 告示,お触れ書き。
※ 郊(こう)- 都市の周辺部。町外れ。郊外。
※ 逆う(むかう)- 迎える。


錦旆(旗)、綺(綾)幟を並べ、記識を作り、老を連らね幼を併わせ、行を結び陣を排す。知らざる者は、以為(おもえ)らく、今日祭事有りと。汗雨陸續、袂(たもと)を連らね、途(みち)に塡(み)つ。蟻群の糠を訪(と)うに似て、一般、霊を徙(うつ)すの地、新たに仮宮を葺(ふ)き、尊龕を奉安す。荘厳、威を装い、佳美、徳を衒(う=売)る。
※ 記識(きし)- 記録して忘れないこと。
※ 陸續(りくぞく)- あとからあとからと絶えないで続くこと。
※ 一般(いっぱん)- 普通。
※ 尊龕(れい)- 尊い厨子。
※ 佳美(かび)- りっぱで美しい・こと。


読書:「機捜235」 今野敏 著
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