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「天明年中叓」を読む 9

(散歩道のヤナギハナガサに止まるベニシジミ、22日撮影)

シジミチョウと貝のシジミは形や色がそっくりである。どちらかが似ていると、後追いで付けられた名前であろう。チョウが付いている分、シジミチョウが後だろうと想像付くが、そこは目をつぶっても、やはり食料としてのシジミ貝が先に名前が付き、蝶の名前は後だろう。

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「天明年中叓」の解読を続ける。「主殿頭に申渡す趣」の項のつづき。

天然の御物好(おものずき)ばかりにて、世の中、何(いずく)までも殷冨(いんぷ)と而已(のみ)思し召され、御物好の所より阿諛(あゆ)を以って附け込み、追々工智(こうち)をめぐらし、近年、薦挙(せんきょ)近辺の権家(けんか)は、皆々その方親族の者ばかりにて、その方召仕いの妾(めかけ)を願望の計事(はかりごと)となし、度々登城仕り、殊に数日逗留、その節も莫太(ばくだい)金帛(きんぱく)相送り、内外の親睦をつくろい置挙き候儀、人口(じんこう)もかえりみず致し方に候。
※ 天然(てんねん)➜ うまれつき。天性。
※ 物好(ものずき)➜ 物好み。特別な物事を好むこと。珍しい物事や風流、趣味などに心を用いること。
※ 殷冨(いんぷ)➜ 栄えて豊かなこと。
※ 阿諛(あゆ)➜ 顔色を見て、相手の気に入るようにふるまうこと。追従(ついしょう)。
※ 工智(こうち)➜ 巧智。たくみな知恵のこと。
※ 薦挙(せんきょ)➜ 人を推薦して役職に就かせること。推挙。
※ 権家(けんか)➜ 権勢のある家。権門。勢家。
※ 金帛(きんぱく)➜ 金と絹。金銭と布帛(ふはく)。
※ 人口(じんこう)➜ 世人の口の端(は)。世間のうわさ。


その上、忰(せがれ)事は、御奉公の年功(ねんこう)もこれ無き処、所々工智をもって、若年寄に経(へ)上り候。これ又、才徳(さいとく)これ有るもの、余無き義事に候えども、闇愚(あんぐ)生質(しょうしつ)にて、親の権威をかりて、諸家の金銀、宝物をむさぼり集め、既に佐野某(それがし)のために、枉死(おうし)を遂げ候ほどの悪行跡、恥辱この上無き事に候処、その節も、就服恐懼(きょうく)の顔色少しも無く、公然たるる勤め方、言語に絶する、甚だ以って、人情に遠き様子に候。
※ 年功(ねんこう)➜ 長年その事に携わって積んだ経験。
※ 才徳(さいとく)➜ 才知と徳行。
※ 闇愚(あんぐ)➜ おろかで道理がわからないこと。暗愚。
※ 生質(しょうしつ)➜ 生まれつきのたち。もって生まれた気質。
※ 枉死(おうし)➜ 災いにあったり殺害されたりして死ぬこと。非業の死。
※ 恐懼(きょうく)➜ おそれかしこまること。

(「主殿頭に申渡す趣」の項、つづく)
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