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「壺石文」 上 2 片岡寛光の序文 後

(散歩道の白花のノアザミ)

散歩道にたくさん見られる紫の花の中に、一輪だけ白い花があるのを見つけた。真っ白ではなくて、ややピンクがかって見える。

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「壺石文 上」序文の解読を続ける。

去年(こぞ)の夏、駿河の国の故郷をあこがれ出でて、おのが家、訪われしより、ふと思い立ちて、みちのくに(陸奥国)の名立たる所見むとて、書一巻だに持たず、供とする人をも供(ぐ)せず、ただひとり、旅路にありて、と行き、かく行き、さすらえば、狂(ふ)れたる人の様して、一年(ひととせ)余りがほど、かの国にありて、見るにつけ、聞くにつけて、かい記されたるなれば、

大方、その国の手ぶりも見えて、こよなう、今の人のとは、様変わりて、昔人のかいなでにかけらむようなるに、はた、世の中を思い離れたる古えも見え、紫のゆかり訪ねて、跡深うたどり得られたる、筆使いのほども、ほのかならず。はた、まれ/\には、稗田のぬしと、うち物語られし事もやと、思わるゝ事さえ混じりて、今の人とは、様(よう)変りて覚ゆるは、かの聖(ひじり)は名なしとか、唐人の心にもうち会いたる心、むげなるべし。
※ こよなう - この上なく。
※ かいなでに - ありきたりに。とおり一遍に。
※ 紫のゆかり(むらさきのゆかり)- 源氏物語の異称。源氏物語が成立してから間もない時期に書かれた更級日記などに見られる。
※ 稗田のぬし(ひえだのぬし)- 稗田阿礼。「古事記」の編纂者の1人として知られる。
※ 無下なる(むげなる)- まさにその通りである。まぎれもない。


こは、今年の五月ばかり帰り着きぬとて、おのが家、問われし時、見せられしを見るに、掻い撫で(すさ)ながら、いみじき僻事だに無くば、(はし)にても尻にても、一言かい(書き)記してよと、請わるれば、
※ 掻い撫で(かいなで)- 表面をなでただけで、ものの奥深いところを知らないこと。通り一遍。
※ 遊み(すさみ)- 慰みごと。すさび。
※ いみじき - はなはだしい。
※ 僻事(ひがごと)- 事実に合わないこと。まちがい。
※ 端(はし)- 文書のはじめ。


一渉り見もてゆくに、この陸奥(みちのく)には、おのが父翁の、生まれ出で給えりし、故郷にしあれば、いと懐かしう、折々語り出でられし、所々のようなども、うち混じりてあれば、昔の事思い出でて、今更に涙も差し含まれて、おわしゝ時の有様も面影に立てば、その方に付きても、すずろに懐かしう、心も進めれば、
※ 一渉り(ひとわたり)- 全体を通して一度おおざっぱに行うこと。ひととおり。
※ 差し含む(さしぐむ)- 涙がわいてくる。涙ぐむ。
※ すずろに - 何とはなしに。何ということもなく。


(つたな)き言の葉は忘れて、やがて筆取りて、跡つくるさえ、蛙の子のようなるを、怪しき痴れ人の、おこわざとや、見む人嘲り笑わむかし。
※ 痴れ人(しれびと)- 愚かな人。
※ おこわざ - 愚かな技。ばかげた手並み。

               片岡の寛光
※ 片岡寛光(かたおかひろみつ)- 江戸時代後期の国学者・歌人。江戸神田佐久間町の名主。号は郁子園(むべぞの)・桂満(かつらまろ)・蔦垣内(つたのかきつ)など。
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「壺石文」 上 1 片岡寛光の序文 前

(散歩道のオオツルボ)

夕方、突然暗くなって雷鳴が轟いた。いきなりのかみなりに驚き、ムサシの散歩を途中で切り上げた。ムサシも気付いたのか、おしっこを纏めて出して、一緒に駆け足で家に戻った。どうやら、日本列島をV字型寒気と呼ばれる寒気が高速で過ぎったようだ。地表と上空の温度差が40℃を遙かに超えて、不安定な天候となったようだ。

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本日より、服部菅雄著の旅日記「壺石文 上」の解読を始める。最初の部分は、菅雄の江戸在住の、国学の友人、片岡寛光の序文である。

縣居大人の某の日記、明阿弥陀佛の伊香保の日記などは、時に同じうせざりし事なれば言わず。おのれ、初冠してより、知る人の中に、旅の日記、かい(書き)記されたる文、これかれあり。そは、本居翁の、すが(菅)笠の日記、季鷹縣主の不二の日記、芳宜園織錦の二種のにき(日記)など、皆な知る人の記されたるにて、めでたき巻々なれど、ようように十日、廿日のほどなれば、いみじう飽かぬ心地なむせらるゝ。
※ 縣居(あがたい)- 賀茂真淵の号。
※ 大人(うし)- 学者や師匠を敬っていう語。先生。たいじん。
※ 明阿弥陀佛(みょうあみだぶつ)- 山岡浚明(やまおかまつあけ)の号。江戸時代中期の国学者。幕臣。宝暦9年、賀茂真淵に入門。古典の考証にすぐれ,「類聚名物考」「武蔵志料」を編集した。
※ 初冠(ういこうむり)- 元服して、初めて冠を着けること。
※ 季鷹縣主(すえたかあがたぬし)- 賀茂季鷹。江戸後期の国学者・歌人。京都の人。本姓は山本。上賀茂神社の神官。著「万葉集類句」など。
※ 芳宜園(はぎぞの)- 加藤千蔭(かとうちかげ)。江戸中期の歌人・国学者。江戸の人。町奉行所吟味方を務めながら、賀茂真淵に学び、村田春海とともに江戸派の総帥とよばれた。
※ 織錦(にしきごり)- 村田春海(むらたはるみ)。江戸時代中期から後期にかけての国学者・歌人。号は織錦斎(にしごりのや)。賀茂真淵門下で県居学派四天王のひとり。
※ いみじう - 大変。立派な。
※ 飽かぬ(あかぬ)- 物足りない。


また近きころ、おのがむき/\、何くれの日記とて、刷り巻などにも、ものするは、真(まこと)にうち見る先々にて、記しゝ物にはあらず。皆な帰り着きて後、何やかやと、書ども取り出して、なやましきまで穿ち探りつゝ、物知りぶりて、人靡(なび)かせむの心をもとにて、書き(すく)たるものにしあれば、雅びたる心は失せて、いとこちたく、うるさく、要せぬはなか/\に、拙(つたな)きはらわた(腸)の悪しう香の尽きたるさえ、つと見えすぎて、見る目のみが鼻だにえ耐えぬ心地せらるゝも、時代の移ろいなれば、いみじき功名にこそ。
※ 竦める(すくめる)- 萎縮させる。
※ こちたし - 煩わしい。うるさい。
※ 要せぬ(ようせぬ)- 必要としない。


これは、さる方の冴えまくりて、(さか)しら立ち、問わば答えむと構え、求めたる際(きわ)にはあらず。いかで、おのが名、輝かさむと穿ち求めたる類いにもとらず。
※ 賢しら立つ(さかしらだつ)- 利口そうに振る舞う。物知りぶる。
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「亜米利加応接書」 14 (解読終り)

(五月晴れの茶畑)

まだ4月だが、五月晴れと言ってよい今日の茶畑。いま束の間の、一年で一番美しい季節である。間もなく茶刈が始まれば、この黄緑色はたちまち失われてしまう。

きょうで、「亜米利加応接書」を読み終る。当時、日本を取り巻く列強諸国が、群れ成す狼のように見える。中でもイギリスは、民主主義の御手本のように思われているが、阿片戦争で参戦と軍艦派遣を決めたのは、その民主主義だったことも事実である。イギリスは、さらに、第二次世界大戦で二枚舌を使い、今も続く中東紛争の火種を残したことも知られている。

次には、江戸時代の島田宿の国学者、服部菅雄の著した「壺石文」という、陸奥(みちのく)の旅日記を読むことにした。服部菅雄の短冊の解読を頼まれて、解読したものの、全く見当はずれの解読になってしまった反省から、国学者の書いた書物を解読することにした。大変に難しいことは承知しているが、旅日記ならまだ読みやすいだろうと判断して、これを選んだ。事前に読み進めているが、思いの外、面白い。

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「亜米利加応接書」の解読を続ける。

一 余事にはこれ無く、唐国戦争故、遅れに及び候事に候。さもこれ無くば、疾(はや)くに参り候事にこれ有るべく候。

一 唐国戦争相止み候わば、直様(すぐさま)参り候段、聊か相違これ無く候。

一 格別上智の者の申し候には、今般唐国の戦い、永くは相堪え候儀、迚(とて)も出来申すまじきよし。左候えば、程なく御当地へ参り申すべく候。
※ 上智(じょうち)- すぐれた知恵。また、すぐれた知恵をもつ人。

一 憚(はばか)りながら、御手前様、御同列様、談判の上、その節の御取り扱い方など、御作定成し置かれ候様存じ奉り候。私考候処にては、交易条約御取り結びの外は、御取り扱い方これ有りまじくと存じ奉り候。

一 少し模様相替り候。交易条約は早速にも、御治定相成り候事と存じ奉り候。

一 私名前にて、東方に罷り在り候、英吉利、仏蘭西の高官へ、書状差し遣わし、日本政府に於いて、交易条約御取り結び相成り、なお外国へも一般に御免許相成り候筈の趣、申し達し候わば、五十艘の蒸気船も、一艘または二、三艘にて、事済み候様相成り申すべく候。

一 今日は、大統領の存じ寄り、並び兼ねて申し立て置き候、英国政府の内存など、内々申し上げ候儀に御座候。
※ 内存(ないぞん)- 心の内で思うこと。内々の所存。

一 今日は、私一世中の幸いの日に御座候。

一 今日申し上げ候趣、御取り用い相成り、日本安全の御媒(なかだち)に相成り候わば、この上無き幸いの儀に御座候。

一 右の趣、得と御勘考成し下され、御同列様へも御申し伝え、御談判遊ばれ候様、仕りたく候。

一 唯今申し上げ候趣は、世界中の誠にて、一切取飾りなど御座なく候。

右の通り申し立て候事。


(解読おわり)

読書:「ニッポン硬貨の謎」北村 薫 著
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「亜米利加応接書」 13

(散歩道のコデマリ)

「亜米利加応接書」も読み終った。このブログでは明日で終る。次に何を読むかは、すでに決まっていて、読み進んでいるが、それは明日書くことにしよう。

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「亜米利加応接書」の解読を続ける。

一 大統領の願いには、西洋各国と、もし確執などこれ有る節は、格別大切の取扱、媒(なかだち)に立ち置かれ候様、兼ねて申し唱え、心掛け罷り在り候。
※ 確執(かくしつ)- 互いに自分の意見を強く主張して譲らないこと。また、そのために生じる不和。

一 先ず亜墨利加国と条約御結び成され候わば、外国にも右を踰(こ)え望み候儀は、決してこれ有りまじく、右の(かど)、則ち、媒(なかだち)に相立ち候印に御座候。
※ 廉(かど)- 理由として取り上げる事柄。箇条。ふし。点。

一 私儀、日本へ渡来致し候節、香港において、英吉利の総督、ションボウリシクに面会致し候処、日本よりの使節、申し付けられ候由、内々咄し聞き候。その後、御国へ参り候てより、書簡四通差し越し申し候。
※ ションボウリシク - 第四代香港総督、ジョン・バウリング。英国の政治経済学者、旅行家、翻訳家、政治家。

一 勿論、右面会は私に出会いの儀に御座候。右差し越し候書簡中、日本政府へ係わり候事、認めこれ有り候。

一 右の内、日本渡来の節は、日本人のこれまで見及ばず候程、軍船を率い、江戸表へ罷り出で、御談判仕り候心得の由、御座候。

一 江戸より外に罷り越すべき処、これ無きよし、申し越し候。

一 右願いの(第)一はミニストル(公使)、アゲンド(領事)の官人を、都府に留め置き候儀、第二には日本数ヶ所に英船参り、自国の品を(おぎの)候通り、勝手次第に日本の品物を買い調え候様致したき心願にこれ有り、もし右の心願成就致さず候わば、直ちに干戈に及び候心組みのよし。もっとも唐国の争戦にて渡来致し候期(ご)、遅延致し候由、申し越し候。
※ 賖る(おぎのる)- 代金をあと払いにして買う。掛け買いをする。

一 最前、同人の見込みにては、当三月、江戸へ参り候筈にこれ有り候。全て唐国の戦争故、延引に及び候事と存じ奉り候。

一 仏蘭西も同様に付、参り候節は、一同に罷り越すべく候。

一 当時(現在)の処にては、最前より船相殖(ふ)え候事にてこれ有るべく候。

一 終りの書翰に申し越し候趣にては、蒸気船ばかり五拾艘余に至るべき候よし。
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「亜米利加応接書」 12

(庭のピンクのツツジ)

ツツジとサツキは見分けがつきにくい。3月から5月の早く咲くのがツツジ、5月から7月の遅く咲くのがサツキだというから、昨日の花はツツジに名前を変えた。とは言っても、花の時期は重なっているし、見分けるのが中々難しい。

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「亜米利加応接書」の解読を続ける。

一 右租税の法、種々これ有り候えども、先ず他邦より輸入致し候ものに税より、十分成るものはこれ無く候。

一 交易の格別尊き義は、繰り返し申し上ぐべく候。

一 国々の懇切は交易より、と申し上げ候は、交易致し候えば、漸々睦ましく相成り候儀に御座候。

一 私儀、日本へ参り掛け、シャムへ罷り越し、条約相結び申し候。その後、右振り合い(バランス)を以って、同国(シャム)仏蘭西と条約相結び申し候。右亜米利加、佛蘭西と条約相結び候趣意、兼ねて英吉利、シャムを奪い候心組み、見候故、その横領を防ぎ候ための儀に御座候。
※ シャム - タイ王国の旧名。
※ 心組み(こころぐみ)- かねてからの心の用意。心積もり。心構え。


一 東印度は只今一円、英吉利の所領と相成り候えども、元来は数ヶ国に分かれ居り候処、何れも西洋と条約取り結ばざる故、遂に英国に一統致され候。右英国より切られ候砌(みぎり)、条約相結び候与国、相助け候ものこれ無き故、容易に改め取られ申し候。
※ 一統(いっとう)- 一つにまとめて治めること。統一。
※ 与国(よこく)- 互いに助け合う約束を結んだ間柄の国。味方の国。同盟国。


一 他邦と条約取り結ばず、一本立ちの国の損なる儀、諸方おいて、右より別して心付け申し候。

一 故に、日本に於いても、東印の振り合いを心得にて、勘考これ有り候様、存じ奉り候。

一 日本も交易御開き相成り候わば、御国の船印、諸州の港にて見知り候様、相成り申すべく候。

一 高山に格別眼力宜しき人登り、見候わば、亜米利加州の鯨漁船数艘、日本国の周(まわ)りに寄り合い、鯨漁致し候儀、相見申すべく候。自国致し難き業にもこれ無き処、絶(た)って問わず、他国の者にのみ利を得られ候段、笑止の事に御座候。

一 大統領より、亜米利加にて心得候儀は、何にても御伝え申し候様、申し付け候。

一 軍船、蒸気船、その外何様の軍器にても、御入用の品、御持ち渡し候様致すべく、海軍の士官、陸軍の士官、歩軍の士官、幾百人なりとも、御用候わば差し出し申し候。
※ 歩軍(ほぐん)- 歩兵。
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「亜米利加応接書」 11

(庭の白のツツジ)

近所から、手摘みの新茶を頂く。早速頂いた。夕飯の時、おかずが焼肉では、お茶を味わうには適さなかった。明日、しっかりと入れて、味わってみよう。

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「亜米利加応接書」の解読を続ける。

一 ポルトガル人、イスパニヤ人など、日本へ参り候者、自己の儀にて、政府の申し付けにてはこれ無く候。

一 その頃、罷り越し候ものは、商売を致し、宗門を勧め、その上、干戈を以って日本を横領致し候内存にて、参り候儀と存じ候。
※ 内存(ないぞん)- 心の内で思うこと。内々の所存。

一 右参り候ものは、廉直のものにこれ無く、反逆を致し候見込みの者故、その人物も推し知られ申し候。然る処、幸い当時は右様のものこれ無く候。
※ 廉直(れんちょく)- 心が清らかで私欲がなく、正直なこと。
※ 当時(とうじ)- 現在。いま。(ここで「当時」はハリスの演説時点の「現在」を指す)


一 当時(現在)は右様のもの相尽き、世界一統、(ぼく)致したくと、何れも心掛け、罷り在り申し候。
※ 睦す(ぼくす)- 人々が仲よく寄り合う。仲よくする。

一 当時(現在)の風習は、一方の潤沢は一方に移し、何地(いずち)も平等に相成り候様、致し候事に御座候。

一 仮令(たとえ)ば、英国にて凶作打ち続き、食物に困り候えば、豊かなる国より商売を休め、その食物運び遣わし候様の風儀に御座候。
※ 風儀(ふうぎ)- 風習。しきたり。ならわし。

一 交易と申し候えば、品物に限り候様相聞け候えども、新規発明の義など、互いに通じ合い、国益に致し候も、また交易の一端に御座候。

一 諸州を勝手に交易致し候えば、その国の者、世界中の義を悉く心得候様、相成り申し候。

一 農作は国中第一の業に候えども、国内の者、悉く農作致し候様には相成り申さず、その内には職人も、産業致し候ものも有り、互いに助け合い候儀にこれ有り候。

一 国々にては、他国の方、細工も奇麗にて、價(あたい)も安き品も数多(あまた)御座候。

一 国用より多く出来致し候品は、外国へ相渡し、その国にこれ無き産物は、他邦より運び入れ候儀にこれ有り候。

一 それ故、諸国と交易を致し候えば、造り出し候品も多く相成り、かつは、外国の品も自由に得候儀も出来致し候。

一 自国に製(つく)り申さざる品々も、容易に得られ候は、交易にこれ有り候。

一 交易は互いの弁(便)利のため、懇切に意より致し候こと故、交易を致し候えば、戦争を避け候様、自然相成り申し候。

一 もっとも他邦より産物運び入れ候節は、その租税必ず差し出し申し候。亜米利加にては、右租税を以って、国内の費用を償い、なお余りは、年々宝蔵に納め置き候事に御座候。
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「亜米利加応接書」 10

(散歩道のアザミの花)

ご近所から、手摘みのお茶の葉を頂き、夕食に天ぷらにしていただいた。今年もお茶の季節の到来である。今年はかなり生育が遅れているというが、今日はいよいよ新茶の初取引で、手摘み、手揉みで仕上げた「さえみどり」に、御祝儀で、キロ108万円の値が付いたと、夕刊に出ていた。過去最高値だという。機械もみで、八十八夜に語呂合わせで、8万8千円は判るが、108万円は何の語呂合わせだろうか。煩悩の数?
(夕刊によると、どうやら、茶寿の108歳に合わせたようだ)

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「亜米利加応接書」の解読を続ける。

一 殊にこの度、御開港御差し許し相成り候とも、一時に御開きと申す儀にはこれ無く候。漸々(ぜんぜん)時を追い、御開き相成り候様、致し候わば、御都合然るべきと存じ奉り候。

一 英国と条約御結びに候わば、必ず右様には相成り申すまじく、大統領も申し居り候。

一 なお、阿片の儀は合衆国の条約へ聢(しか)と御据え置かれ候わば、英国にて削り申すべく存じ候とも、相叶い申すまじく候。

一 国々より条約の為、使節差し越し候とも、世界第一の合衆国の使節と、かくの如く御取り極め相成り候旨、仰せ聞けられ候わば、決してその上かれこれは申すまじく候。

一 合衆国大統領は、別段飛び放れ候願いは仕らず、合衆国民人不過及なき平等の儀、御許しの程を、願い居り候事に御座候。
※ 民人(みんじん)- 国民。
※ 不過及なき - 正しくは「過不及なき(かふきゅうなき)」。適度である。ちょうどよい。


一 二百年前、ポルトガル人、イスパニヤ人、御放逐相成り候頃と、只今とは、外国の風習、大いに異り申し、その頃は、宗門の事を皆な願い居り申し候。
※ 放逐(ほうちく)- その場所や組織から追い払うこと。追放。

一 亜墨利加にては、宗旨などは皆な人々の望み候にまかせ、それこれ禁じ、または勧め候様の事、更にこれ無く候間、何を信仰致し候とも、人々心次第に御座候。

一 西洋にては、一方の宗門を外の宗に改め候ものこれ有り候とも、干戈を用い候様の儀は、当時決してこれ無く、その人の好みに任せ候儀に御座候。

一 当時(現在)欧羅巴にては、信仰致し候基本を見出し申し候。右は銘々心より信じ候故、その心に任せ候より外、致し方これ無しに決着致し申し候。

一 これを禁じ候も、また勧め候儀も致さず候。

一 宗門種々にこれ有り候えども、詰りは人を善く致し候趣意に付、かれを誹り、これを誉め、己れが門に引き入れ候は、宜しからざる人の所為にこれ有り候。
※ 所為(しょい)- しわざ。振る舞い。

一 亜米利加にては、仏の堂も、耶蘇の堂も、一様に並び居り、一目に見渡せ候様致しこれ有り、宗門に付、一人も邪心を抱え候ものこれ無く、銘々安らかに今日を送り申し候。
※ 耶蘇(やそ)- キリスト教。
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「亜米利加応接書」 9

(庭のシンビジウムの鉢)

元はどなたかから頂いたものなのだろうが、今では記憶も失われている。我が家で20年近く、花を咲かせ続けているシンビジウムである。

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「亜米利加応接書」の解読を続ける。

一 日本は誠に天幸にて、戦争の辛苦は書史にて御覧成さるべく候までにて、遂に、実地を御覧相成り候儀、これ無き段、重畳の事に御座候。
※ 書史(しょし)- 書物。書籍。
※ 重畳(ちょうじょう)- この上もなく満足なこと。大変喜ばしいこと。


一 大統領心願も、日本人をして、戦争を史録にて見及び、実地御熟覧これ無き様致したくとの事に御座候。

一 英吉利、仏蘭亜西、両国に候わば、無論仮令一国に候ても、御国と格別掛隔て居り申さず候わば、疾(はや)くに戦争相起り候事にこれ有るべく、全く掛け隔て候故、只今以って、その沙汰これ無きの趣に御座候。

一 戦争の終りは、何れ条約取り結び申さず候ては、相成り難き事に候。

一 大統領の願いは、戦争に至らず、互いに敬礼を尽くし候、条約相結び候様、致したきとの儀に御座候。

一 西洋近来、名高き惣提督の語に、格別の勝利を得候戦いよりは、つまらぬ無事の方、冝しき旨にこれ有り候。

一 大統領の心得にては、合衆国と堅固の条約御結び成られ候わば、必ず外国も右を規則と致し、御心配の儀などは、向後、決してこれ有るまじく存じ奉り候。

一 大統領儀、御国の誉れを落さず、敬礼を尽くし、条約取り結び、御混雑これ無き様、心掛け居り申し候。
※ 敬礼(けいれい)- 敬意を表して礼をすること。
※ 混雑(こんざつ)- もめごとがあること。ごたごたすること。また、いざこざ。


一 合衆国政府の別府として、罷り越し候船も筒もこれ無く、私と条約御取り結びに相成り候わば、御誉れを落し候儀はこれ有るまじく存じ奉り候。

一 壱人へ条約御結び成され候と、品川沖へ五十艘の軍船引連れ参り候ものと条約相成り候とは、格別の相違に御座候。

一 今般、大統領より私差し越し候は、懇切の意より起り候儀にて、隔意これ有り候ての事にはこれ無く、外国より使節など差し越し候とは、訳違い申し候。右などの儀、得と御推考下さるべく候。
※ 懇切(こんせつ)- 細かいところまで心が行き届いて親切なこと。
※ 隔意(かくい)- 心にへだたりのある思い。打ち解けない心。遠慮。


読書:「刑事の絆 警視庁追跡捜査係」堂場瞬一 著
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「亜米利加応接書」 8

(裏の畑のミズナの花)

ご近所から頂いたミズナを、裏の畑に植えていたもので、食べ残して忘れていた分が、気付いたら花盛りであった。これはこれで、結構きれいである。

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「亜米利加応接書」の解読を続ける。

一 壱度(ひとたび)阿片を用い候えば、終身止(や)め候儀相成らざる段、英人も能く弁(わきま)え居り候故、日本へも壱度弘め置きたくとの心底に御座候。
※ 心底(しんてい)- 心の奥底。

一 合衆国大統領、日本の為に阿片を、戦争より危(あや)踏み居り申し候。

一 戦争の費えは、時を立ち候えば、補い方もこれ有り。もし阿片を呑み覚え候えば、年を重ね候とも取り返し相成り難く候。

一 それ故、阿片交易は格別大切に、御心付け成さるべく様、大統領も申し居り候。

一 条約成され候わば、阿片の禁を聢(しか)と御立て成され候様、大統領申し聞け候。

一 若し、亜米利加人、阿片持ち渡り候わば、日本御役人にて御焼き捨て成さり候とも、如何様成され候とも、御取り計い成さるべく候。

一 亜米利加人上陸、阿片持ち越し、呑み弘め候義などこれ有り候わば、阿片御取り上げ、御焼き捨ての上、過料御取り立て相成り、苦しからず候。

一 大統領これを誓い申し上げ候。日本も外国同様、港御開き、商売御始め、アゲント(領事)御迎え置かれ候わば、御安全の事と存じ奉り候。

一 日本、数百年、戦争これ無きは、天幸と存じ奉り候。
※ 天幸(てんこう)- 天の与えた幸福。天の恵み。

一 余り久しく治平打ち続き候えば、却ってその国の為に相成らざる候事も御座候。
※ 治平(ちへい)- 世の中が治まっていて平穏なこと。太平。

一 治年相続き候えば、武事相怠り、調練など行き届き兼ね申し候。

一 大統領考え候には、日本人は世界中の英雄と存じ候。英雄は戦いの節に臨み候ては、格別貴きものに御座候えども、勇は術の為に制せられ候もの
故、勇のみにて、術これ無く候ては、実は貴(たっと)び候義には、参り難きものに御座候。

一 戦争には蒸気船、その外、軍器宜しき物、第一に御座候。
※ 軍器(ぐんき)- 兵器。

一 仮令(たとい)英国と合戦成させられ候とも、英国にては左までの事には有るまじく候えども、御国にては御損失夥しき事と存じ奉り候。

一 海岸唯(ただ)一方に候とも、その難儀を受け候儀は、申し尽し難き事にこれ有るべく候。
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「亜米利加応接書」 7

(散歩道のオヘビイチゴ)

午前中、女房が出掛けていて、昼はパスタにする。今までそのまま茹でていたが、半分に折って鍋に入れたところ、随分扱いやすくなった。しかも食べるにも楽なことに気付いた。これからは茹でる前に必ず半分に折ることにしよう。

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「亜米利加応接書」の解読を続ける。

一 三十年前は、広東近辺に一ヶ所に限り、その他は亜片は一切用い申さず候。

一 当時は諸方にて相用い、その人数、百万余にも相成り申すべく、その費え夥しき事に御座候。

一 二ヶ年前、一ヶ年阿片多葉粉(たばこ)に費え候高、二千五百万両と相聞え申し候。

一 五ヶ年の費用、年平均に致し候えば、三千万両程に相成り申し候。

一 唐国の害はこの一方のみにこれ無く候。

一 阿片を用い候えば、躰を弱く致し候事、外の毒より厳しく御座候。

一 阿片を用い候えば、富家も貧に相成り、才気これ有り候ものも、精神疲れ、物事相考え候儀、相成り申さず、終には何れも同様、道路に倒れ臥し候様相成り、右貧困より盗賊などの悪事を仕出し、死を顧(かえりみ)ざる働き致し候もの、少なからず候。

一 年々千人ばかりずつ、亜片の為に悪事を仕出し、刑罪に逃れ申し候。
※ 刑罪(けいざい)- つみ。また、刑罰。

一 乍去(さりながら)、悪事は次第に弘がり、亜片も弥(いよいよ)盛んに行われ申し候。

一 当時、唐国帝の叔父も亜片を呑み候て、死去致し候。

一 右様、夥しき亜片残らず、英国所領の東印度中、産出致し候。

一 右の通り、唐国の害には相成り候えども、英国にては利益のため、その害を厭わず、少しも禁じ申さず候。

一 それ故、英吉利と唐国との条約にも、阿片と申す字を、約書中に入れ候も、厳しく断り申し候。

一 唐国にて、右の通り禁じ置き候えども、英国にては利益を得候こと故、右阿片を乗せ候船は、石火矢など堅固に備え付け候て、蜜(密)かに売商致し申し候。
※ 石火矢(いしびや)- 近世初期に西洋から伝来した大砲のこと。大砲の古名。

一 右様、石火矢など堅固に備え居り候故、唐国の厳禁を犯し候段、唐国の役人も心付け居り候えども、手を下し候儀相成り難く、港口安全碇泊致させ、心ならずも奸商致させ申し候。
※ 奸商(かんしょう)- 不正な手段を用いて利益を得ようとする悪賢い商人。悪徳商人。

一 英人は日本にても唐国同様、阿片を好み候ものこれ有るべくと、持ち渡し売り弘めたく、心願と相見え申し候。
※ 心願(しんがん)- 神仏に、心の中で願をかけること。また、心からの願い。
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