goo

「天明年中叓」を読む 10

(散歩道のヒャクニチソウ)

よく見ると、花の中央に小さな五弁の花がサークル状に八輪、咲いているように見える。これは何だろう。

********************

「天明年中叓」の解読を続ける。「主殿頭に申渡す趣」の項のつづき。

もっとも、それ以前より権勢(けんせい)相募(つの)り、誠に天下の御政務、その身壱人に帰(き)し候にしたがい、惣じて御倹約と申す名目(みょうもく)を立て、御膳部(ぜんぶ)よりはじめ、御召物(めしもの)、その外一切の御用残らず、代金のみに相かかわり、自然と麁薄(そはく)へ相成り、これなどは誠に以って冥加(みょうが)、恐ろしき儀に候。
※ 権勢(けんせい)➜ 権力を握っていて威勢のいいこと。
※ 名目(みょうもく)➜ 表向きの理由。口実。めいもく。
※ 膳部(ぜんぶ)➜ 膳にのせて出す料理。食膳。
※ 麁薄(そはく)➜ 粗末なこと。
※ 冥加(みょうが)➜ 違約や悪事をしたら神仏の加護が尽きても仕方ないという意で用いる自誓の言葉。


さて、倹約(けんやく)と申すは、聖人の大徳(だいとく)にて、至って宜事(ぎじ)に候えども、上たる御壱人、または親身(しんみ)たる者の上にて、とかく君親(くんしん)たる人の行い候義にて、臣子(しんし)たるものより、君親たる人のために行い候道にてはこれ無く、その上誠に倹約と申す仕方にこれ無き吝嗇(りんしょく)の筋に候えば、下々より、自然と上をうらみ奉り候様に成り行き候。
※ 大徳(だいとく)➜ 偉大な徳。りっぱな徳。
※ 宜事(ぎじ)➜ 宜しきこと。
※ 親身(しんみ)➜ 肉親のように心づかいをすること。
※ 君親(くんしん)➜ 主君と親。
※ 臣子(しんし)➜ 主君や親に仕える身分の者のこと。
※ 吝嗇(りんしょく)➜ ひどく物惜しみをすること。けち。


この段、文盲(もんもう)故と存じ候。倹(けん)と吝(りん)と表裏にて候儀、相分らず、御政害(せいがい)この上なき事に候。それゆえ、追従(ついしょう)の諸役人、吝嗇の筋を倹約と心得違い、下々痛みに成り候ても、上へ御利益(りやく)付き候えば、姦智(かんち)の者どもまで、近年、吝嗇の処より立身いたし、諸太夫(だいぶ)へ至り候人、間々(まま)これ有り候。
※ 文盲(もんもう)➜ 文字の読み書きができないこと。
※ 政害(せいがい)➜ まつりごとの害。
※ 追従(ついしょう)➜ 他人の気に入るような言動をすること。こびへつらうこと。
※ 姦智(かんち)➜ 奸智。悪賢い知恵。悪知恵。
※ 太夫(だいぶ)➜ 江戸時代、大名の家老職に当る者を指して呼ぶ。


読書:「帰還」 堂場瞬一 著
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )