西部劇と懐かしのカントリー&ウェスタン日記

現代とはかけ離れたOld Countryの世界ですがずっと続けていきます。興味のある方は時々のぞいてみて下さい。

救急医療・・・想い出のABCD - 1

2010年08月17日 | 医療の仕事

想い出のABCD( 救急医療 )

正直のところ自分のブログに仕事のことは載せたくない、好きなことだけで通したいという思いがあります・・・・・でも、ひょっとしたことから忘れない想い出があって やっぱりこれだけは書いてすっきりさせておきたいということが沢山あって・・・・・そんなことを幾つか。 
なおABCDというのは救急医療現場で初めに対処する内容の順番を指しています。A(Airway=気道確保)、B(Breath=呼吸)、C(Circulation=循環系の確保)、D(Drug=薬使用)です

私の医師としてのスタートは救急医療だった。 T病院での最初の5年程はハードな毎日で、ありとあらゆる救急患者に出くわしました。「 やらないといつまでも出来ないぞ、集中して慎重にやれば出来るんだ 」 が口癖の脳外科医M先生からはホントに多くの事を学びました。 初めて独り立ちで当直をした時の緊張感は忘れられない・・・・・何の音も救急車のサイレンの音に聞こえて一睡もできなかった思い出。 いくつかの病院で経験した当直の夜に起こった忘れられない想い出がいくつか有ります。

(1)鹿児島市のT病院に勤めてまだ駆け出しの頃、8.6水害時に日豊本線竜ヶ水駅近くで起こった土石流に巻き込まれて運ばれてきたKさん。全身血の気が無く泥や草木が付着した見るも無惨なバラバラの左下腿、即切断と決まり 麻酔の話をした時 Kさんは私の目をジッと見て 「 先生このまま永久に目が覚めないってことないよね。」と云われた。「 大丈夫です 」 と答えたものの、輸血も無くAmputa(切断術)をして怖いほど不安だったあの時の私、緊張感でいっぱいだった。 幸い元気になられました。

(2)意識不明で入院中のSさんは意識回復した途端3階から飛び降り自殺をはかった。 運ばれて気管内挿管しようと頭を持った時まるで小石のつまった袋を握る感覚に思わずゾッとして身を引いた。頭骨が粉々に割れていたのです・・・・・無駄と解かっていてもABC( 救急医療の基本 )だけはやれ-と教えられていた私は無我夢中でした。今思うとそれは家族への配慮(やれるだけのことはやった)という意味があったのだと思っています。

(3)佐賀のI病院に勤めていた頃、雨の明け方バイク事故の大学生T君が運ばれてきました。ヘルメットをしたままでピクリともしない。救急隊の話では溝にはまり込んでいたという。ダメだとは思ったけれど、家族が来るまでは・・・・・と心肺蘇生を行ないました。 死亡診断に 「 頚椎骨折 」 と書いたものの、除去するのに苦労するほどの全面覆いのヘルメットで呼吸が出来なかったのではないか・・・・・と今でも思うのです。 駆けつけた母親が動かないT君に「 KちゃんKちゃん・・・」 と おそらく赤ん坊の頃から呼んでいたであろう名前を消え入りそうな声で何度も呼び続けていました・・・・・いたたまれない気持ちだった私。1週間ほどして母親から対応に感謝する旨の丁重な手紙を頂いた・・・・・。

(4)ある夜、近くの小児科の先生が1才くらいの喘息の幼児を運んでこられた。既に全身蒼白で無呼吸でした。一応挿管して酸素投与するも小児の血管確保は難しく、鎖骨下に針を刺して輸液ルートをとり 指3本で心マッサージをしました。とてもかわいい男の子で、全てが終わった時 「 僕ぅー! 長く生きられなかったね 」 とそっと声をかけました。何とも悲しい気持ちだったあの時。

(5)高速道路整備中に突っ込んできたトラックにはねられたS青年。搬送時には腹部が裂けて腸が露出し絶命していた・・・・・看護婦さんと2人で腸を押し込んで縫うだけのむなしい作業。交通事故の悲惨さを思い知らされる出来事でした。
あまりの外傷や骨折の多さに整形外科医としてやっていこうと決断したきっかけでもありました。

悲しい想い出が多かったのですが色々な事を学びました。
それぞれの場にあっても家族にも取り乱すような人は全くなく、古くからの日本人の死生観が生きている・・・・・と感じたのもこの頃でした。同時に、こうしたことの連続では自分も参ってしまう-と感じて 野球をしたり、お酒を飲んだり映画や音楽を楽しんだりして気分転換をはかる努力をしたのもこの頃でした。 今はその頃の元気はないけれど、体力の続く限りはこの終わりのない仕事を続けていこう

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