アメリカ西部史上最も大きな事件と思われるカスター将軍(実際は中佐)率いるアメリカ陸軍第7騎兵連隊が1876(明治9)年6月25日モンタナ州リトル・ビッグ・ホーン河近郊の平原において大酋長シッティング・ブル、クレイジー・ホース率いるインディアン連合軍によって全滅させられた事件を扱った本(317頁)です。
著者のWilliam O. Taylorは実際にこのインディアン討伐戦に従軍し、カスターが攻撃前に連隊を3分割した(カスター将軍の本隊、リーノウ少佐の別働隊、ベンティーン大尉の別働隊)うちのリーノウ少佐隊に所属してリトル・ビツグホーン河で戦った一等兵でした。生き残った彼が自身のつらい体験を通じて自分がアメリカの歴史で重大な事件の一つに関わっていたことを悟るようになり、その戦いに従軍した人達からの情報や他の多くの資料をもとに数年かけてこれまで判らなかった事実や意見を盛り込んだ戦いの完全な記録として1917(大正6)年原題の原稿を書き上げたものだそうです。しかし、原稿は未発表のまま70年近く時を経て, 原稿の重要性に気付いたグレッグ・マーチン(この本の編者)が1995(平成7)年に買い取り、本として出版されるに到ったというわけです。以下目次
(第1章) その発端 (第2章) 出動 (第3章) 手がかり発見 (第4章) リーノウの攻撃 (第5章) 断崖に孤立して (第6章) テリー、包囲を解く (第7章)カスターの進撃 (第8章) カスターの埋葬 (第9章) 戦いの経過 (第10章) モンタナ部隊 (第11章) クロウ族の斥候の物語 (第12章)後日談
ある将軍が語った「死んだインディアンだけがよいインディアンだ」といった当時の白人側から見た傲慢な考え方に対して、著者はインディアンに対しても公平な理解を示しており、その勇気、叡智に敬意を払っているようなところが本の中に何箇所もみられます。追い詰められたインディアン側から見ればこの戦いが家族を守るためのそれこそ死に物狂いの戦いであった・・・・ことに理解を示しているのです。
戦いの前からカスターをはじめ士官、兵士の好戦的な自信過剰に加え カスターがインデアンの人数を過小評価していたことが敗北の2大要因になった・・・・と言い切っています(実際に戦闘に参加した者の生の声といっていいんでしょう)。
後年語ったインディアン達からの対カスター戦についての証言や酋長達のその後の運命も載っており興味深いものです。当時23才だったある若い戦士は 「兵隊達が我々を殺そうとし、子供達や妻をひどい目にあわせようとしたので戦うしかなかった・・・・だから私はあの日その者達のために戦って死ぬことに何のためらいも無かった」 と語ったとのこと。
詳細な記録に基づく内容なのでこの方面に興味のある人にはオススメなんですが地図が載せてないので状況が文章だけでは理解できないのが難点。写真も豊富です。ちなみに、表紙の写真はカスター将軍、酋長シッティング・ブル、矢は著者がカスター隊の兵隊達の埋葬の時にある兵士に刺さっていた3本のうち2本を持ち帰ったうちの1本だそうです。
さて、この事件を扱った西部劇は沢山あるんですが、いまのところ見れるのは500円DVDの「壮烈第七騎兵隊」だけかな・・・・と思います