風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「裸の華」

2021-01-04 | 読書

桜木紫乃さんの作品はハードボイルドだと思う。
ハードボイルドというと
クールでニヒルな男性主人公のイメージだが
桜木さんの作品に出てくるのはクールな女性たち。
陰鬱な北海道の冬が舞台で、
どこか人生を諦めたような女たちの物語が多かった。
しかし本作は、クールな女性が主人公という部分は変わらず
それでいて心のうちに熱いものを抱えている。
もともと桜木さんの作品のファンだが
本作を読んで、更にファン度が高くなった気がする。

20代前半の頃、職場の先輩に引っ張られて
1度だけストリップを見に行った。
本作でいうところの「温泉ストリップ」だ。
言いようのない場末感とむき出しの欲望の中で
無表情に踊る女たちがなんか哀しかった記憶がある。
その時のイメージは、単に裸を見せる場。
早く宿に帰りたくて仕方なかった。
ところがこの作品を読んで
その奥深さと踊りへの情熱を初めて知った。

以前勤めていた会社で
浅草のストリッパーたちの写真集を作ったことがある。
その時の踊り子たちの美しい動きや表情が
かつて行ったことのあるストリップのそれとは大違いで
びっくりしたことを思い出した。
本物の踊り子たちは技や表現のみならず
もしかしたら人生の深淵を知るプロなのかも知れない。
それを感じ取れなかった当時の私は
文字通り、まだまだ小僧だった。

桜木さんに言わせると
小説家は笑いながら文章で恥ずかしいところを見せる職業。
その覚悟を持たないと小説などかけないのだろう。
そういう意味で、私はいまだに小僧のままだ。
解説の村山由佳さんが最後にひと言書いた1行が印象に残る。
「作家・桜木紫乃は、稀代の名ストリッパーだ」

「裸の華」桜木紫乃:著 集英社文庫
コメント
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