「 秋の祈 」
秋は喨々と空に鳴り
空は水色、鳥が飛び
魂いななき
清浄の水こころに流れ
こころ眼をあけ
童子となる
多端粉雑の過去は眼の前に横たわり
血脈をわれに送る
秋の日を浴びてわれは静かにありとある此を見る
地中の営みをみずから祝福し
わが一生の道程を胸せまって思いながめ
奮然としていのる
いのる言葉を知らず
涙いでて
光にうたれ
木の葉の散りしくを見
獣のキキとして奔るを見
飛ぶ雲と風に吹かれるを庭前の草とを見
かくの如き因果歴々の律を見て
こころは強い恩愛を感じ
又止みがたい責めを思い
堪えがたく
よろこびとさびしさとおそろしさとに跪く
いのる言葉を知らず
ただわれは空を仰いでいのる
空は水色
秋は喨々と空に鳴る
(高村光太郎)