風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「ラブレス」

2013-12-06 | 読書
すごい小説だ。
圧倒的な迫力と主人公の生きる力。
400頁そこそこのそれほど厚い本ではないのに
分冊ものの大冊を読んだぐらいの重厚感を感じた。
時代や運命に翻弄された
ひとりの女性の人生を描く大河小説。
主人公だけではない。
その周囲の人々(ほとんど女性)の人生や思いも
横糸として丹念に織り込まれている。
「ほとんど女性」と書いたが
男性、女性の愛の昇華がとても美しい。
その人の人生が幸せだったかどうかというのは
死ぬ間際にならないとわからないと言うが
百合江の人生は間違いではなかったし、
結果的に幸せだったのではないか。
少なくとも宗太郎の最後のひと言で
オセロゲームのように全ての駒が
一斉に幸せに変わったのではないかと思う。

「ホテルローヤル」で今年直木賞を受賞し
一躍有名になった売れた作家であるが
本作も直木賞候補、大藪春彦賞候補、吉川英治文学賞候補、
そして最終的に今年島清恋愛文学賞を受賞している。
メジャーデビューは2007年なのでまだ6年。
その間上記の他にもいくつかの受賞作や候補作がある。
すごい作家が出てきたものだ。
こんな作品を読んでしまったら、
「もの書きになりたい」などという
自分のささやかな夢(過去の)など吹っ飛んでしまう。
降参。

どんな老人にも若い頃はある。
幼少時代、少年少女の多感な時代、波乱の青年期、
少し落ち着いて生活した成年期を過ごしてきた上で
人生の締めくくりとも言うべき老年期を過ごす。
ひとりひとりに、他人にはわからない思い出がある。
喜び、怒り、哀しみ、楽しんだそれらの記憶とともに
老人たちは生きている。
心の中は少年少女時代、青年時代と変わらないはずだ。
ただ、加齢とともに様々なものを捨ててくる。
最後まで変わらないのはそれらの思い出だけだろう。
そして最後はそれらの思い出を持ったままで
人生を終えていく。誰もが。
そんなことを考えると
自分のこれまでの思い出をそっと抱きしめたくなる。
本作の主人公百合江も晩年はそうだったはずだ。
真っ直ぐに前を向いて生きてきた里美だって
そんな由江の姿を見、自分の年齢を鑑みて
思うところがあったのだと思う。
人間って、なんだか哀しくておもしろい。
そして女性の生きる強さには敵わないと改めて感じる。

この作家も、しばらく追いかけてみよう。

「ラブレス」桜木紫乃:著 新潮文庫
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする