因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

東京演劇アンサンブル『彼女たちの断片』

2022-03-26 | 舞台
*石原燃作 小森明子演出 公式サイトはこちら 渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール 27日終了 石原燃作品観劇のblog記事はこちら→(1,2,3,4,5,6,7)2014年以降の上演は見逃しており、手術以外の中絶方法「中絶薬」をめぐる女性たちの一夜を描いた今回の舞台はぜひにと春の嵐のなか、足を運んだ。

 大学生多部真紀(20歳/仙石貴久江)は交際相手とのあいだの子どもを身ごもってしまった。相談を受けた友だちの天野みちる(20歳/永野愛理)は、母の天野ゆき(44歳/原口久美子)の仕事のパートナーである広告デザイナーの静谷晶(44歳/洪美玉)とその母でフランス語翻訳家の静谷葉子(70歳/志賀澤子)を頼り、母子が暮らす一軒家に寝泊まりして、海外の支援団体から取り寄せた「中絶薬」を服用する方法を選ぶ。家族に内緒にしていたが、母のゆきが心配して駆けつける。ゆきと晶の後輩デザイナーの高崎涼(35歳/山﨑智子)が親身になって若いふたり手助けしたり、葉子の長年の友人である水越まゆみ(52歳/奈須弘子)も訪れたりなど、家族、友だち、仕事のパートナーなど、さまざまな繋がりを持つ女性たちが引き寄せられ、語り合う。2021年秋の物語である。

 妊娠や中絶をめぐる「人間の命」を考えるとき、決まって思い出すのがNHKドラマ10「透明なゆりかご」(安達奈緒子脚本)である。このブログの観劇記録『泰山木の木の下で』(小山祐士作 劇団民藝 2019年12月)、『ああ母さん、あなたに申しましょう』(山谷典子作 Ring-Bong lavo 2020年8月)の中にも引用しており、自分にとって一種の「みちしるべ」のような作品だ。

 今回の舞台で、3人めの子を身籠ったときに「子どもはふたりでいい」という夫に従って中絶し、その後も妊娠と中絶を繰り返したというまゆみの告白の場面では、『透明なゆりかご』で、おもに経済的な理由から、夫婦で話し合い、 納得した上で3人めの子どもを産まない選択をした女性の混乱と苦悩を描いた回が即座に思い出された。

 さらに今年放送の同じくドラマ10「恋せぬふたり」ではアロマンティック・アセクシャルの男女を軸に、周囲の人々の交流が描かれている。今回の舞台には、若いながらいつも状況を客観的に捉え、さまざまな事情を抱えた先輩たちへの敬意を忘れず、しかし聞きにくくても聞きたいことは率直に尋ねる(例:まゆみの夫が避妊に協力したか)天野みちるがアセクシャルだ。
 
 年齢や職業、未婚既婚、子どもの有る無しなどの違いはあれ、それまで生きてきた年月分の物語があり、自分が子どもを身ごもるからだを持った女性であることへの思いがある。奇しくも集うことになった夜、これまで言えなかった過去の体験や自身のセクシュアリティについて、さらに中絶を巡る社会の有りよう、この国の歴史まで、劇作家の熱意や志が強く伝わる。

 それだけに非常に情報量が多く、ともすれば登場人物の台詞が「解説」や「説明」に聞こえがちであったり、人物の設定の中に、やや唐突に感じられる箇所があったり、休憩無しの2時間10分のうちに小さな躓きや違和感が重なっていく。

 長方形の木枠や少し歪んだ球体を使ったり、大きな白い紙を女性たちが雑魚寝する寝具に見立てる一方で、食事の場面ではまゆみが差し入れするタッパー、皿や箸を使って実際に料理を食べたりなど、抽象と具象が入り混じる作りは不自然ではない。だが晶が白い紙を持って踊る場面はその意図をはかりかね、踊りが終わって、その紙をタオルかシーツを畳むかのような日常的な所作へのつながりに違和感があった。それぞれ登場人物の個性に合わせた衣裳であったが、真紀については、髪をかなり目立つグリーンに染めていることや、妙に子どもっぽい服装も、それが彼女の個性とは受け止めにくい印象だ。

 志の高い意欲作であると思うのだが、躓きや違和感が多く、内容そのものについて考えることができなかったのが残念だ。実を言えば、「わたしのからだはわたしのもの」、「中絶は女性の権利」という本作のテーマについても100%賛同しかねるところがあり、それこそが自分と本作をつなぐ大切なことであることは覚えておきたい。
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