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Marvell, "The Gallery"

アンドリュー・マーヴェル (1621-78)
「画廊」

I.
クローラ、来て、わたしの心を見て、それが
よくできているかどうか、聞かせてほしい。
それは、いくつかの部屋からなる
ひとつの画廊のよう。
いろいろな人が描かれた豪華な
アラス織の掛け物ははずしてあって、
そんな装飾のかわりに、
君の絵だけがわたしの心のなかにある。

II.
この絵の君は、冷酷な
殺人者のように描かれている。
わたしたちの心に対して、たくさんの
君の残酷な恋の道具を実験している。
それはまさに切れ味抜群、
暴君の秘密の部屋を飾る拷問道具以上のもの。
なかでも、もっとも強力に痛めつけるのが、
黒い瞳、赤い唇、そしてカールした髪。

III.
でも、裏の絵も見て。そこでは、君は
夜明けの女神アウローラのように描かれている。
東のほうでうとうと寝ていて、
乳白の太ももをまっすぐつき出している。
朝の合唱隊が歌い、
マナが降り、バラもはじけるように咲いている。
君の足下では、恋人同士の鳩が、
無垢な愛を成就している。

IV.
また別の絵では、君は魔法使いのよう。
君に恋した男の霊から安らぎを奪い、悩ませている。
そして、うす暗い明りの下、狂ったようにわめく、
彼の腹を開き、内臓を見ながら。
ぞっとするほど注意深く占っているのだ、
自分がいつまで美しくいられるのか。
そして(結果を見て)その内臓を投げ捨てる。
飢えたハゲタカたちの餌として。

V.
でも、その裏の絵では、君は
真珠貝の舟に乗って浮かぶウェヌスのよう。
まわりのものをすべて静まらせるカワセミたちが、
空と海のあいだを飛んでいる。
波がうねってやってくるのは、
竜涎香をたくさん運んでくるときだけ。
風が吹くのは、
そのいい香りを運ぶためだけ。

VI.
これらや、ほかにも
千もの君の絵が、わたしの心の画廊にある。
君が思いつき、演じるすべての姿を描く絵が。
わたしを幸せにしてくれる君も、わたしを苦しめる君も。
君はひとりなのに、わたしのなかにはたくさんの君がいて、
まるで、わたしのなかに君の植民地があるよう。
ホワイト・ホールやマントヴァ所蔵のものより、
ずっといいコレクションが、わたしのなかにあるよう。

VII.
でも、これらやほかのすべてのものより、
わたしは入口に飾ってある絵が好き。
その絵のなかで、君は同じポーズ、同じ表情を
してる。わたしの心を最初に奪ったときと。
やさしい羊飼いの少女、髪は
ゆるやかに、風にはためいていて。
緑の丘から花を摘んで、
頭に飾ったり、胸に抱いたりしていて。

* * *

Andrew Marvell
"The Gallery"

I.
Clora come view my Soul, and tell
Whether I have contriv'd it well.
Now all its several lodgings lye
Compos'd into one Gallery;
And the great Arras-hangings, made
Of various Faces, by are laid;
That, for all furniture, you'l find
Only your Picture in my Mind.
(1-8)

II.
Here Thou art painted in the Dress
Of an Inhumane Murtheress;
Examining upon our Hearts
Thy fertile Shop of cruel Arts:
Engines more keen than ever yet
Adorned Tyrants Cabinet;
Of which the most tormenting are
Black Eyes, red Lips, and curled Hair.
(9-16)

III.
But, on the other side, th' art drawn
Like to Aurora in the Dawn;
When in the East she slumb'ring lyes,
And stretches out her milky Thighs;
While all the morning Quire does sing,
And Manna falls, and Roses spring;
And, at thy Feet, the wooing Doves
Sit perfecting their harmless Loves.
(17-24)

IV.
Like an Enchantress here thou show'st,
Vexing thy restless Lover's Ghost;
And, by a Light obscure, dost rave
Over his Entrails, in the Cave;
Divining thence, with horrid Care,
How long thou shalt continue fair;
And (when inform'd) them throw'st away,
To be the greedy Vultur's prey.
(25-32)

V.
But, against that, thou sit'st a float
Like Venus in her pearly Boat.
The Halcyons, calming all that's nigh,
Betwixt the Air and Water fly.
Or, if some rowling Wave appears,
A Mass of Ambergris it bears.
Nor blows more Wind than what may well
Convoy the Perfume to the Smell.
(33-40)

VI.
These Pictures and a thousand more,
Of Thee, my Gallery dost store;
In all the Forms thou can'st invent
Either to please me, or torment:
For thou alone to people me,
Art grown a num'rous Colony;
And a Collection choicer far
Then or White-hall's, or Mantua's were.
(41-48)

VII.
But, of these Pictures and the rest,
That at the Entrance likes me best:
Where the same Posture, and the Look
Remains, with which I first was took.
A tender Shepherdess, whose Hair
Hangs loosely playing in the Air,
Transplanting Flow'rs from the green Hill,
To crown her Head, and Bosome fill.
(49-56)

* * *

3 lodgings
借りた部屋(OED 3a, 5b)。

7 furniture
掛け物、装飾用の織りもの、布地(OED 4d)。

9-24
表裏両面に、正反対のイメージで「君」の肖像画が
描かれている。

12 Shop
店にあるもの(OED 2c, 1906からの例しかないが)。

13 Engine
道具(OED 4)。戦いのための道具(OEd 5a)。
拷問道具(OED 5b)。

14 Cabinet
私室、寝室(OED 3)。
ギャラリー、美術館(のような部屋)(OED 4)。
宝物、秘密のものなどの入れもの(OED 5)。

20
(たぶん)夜明けの光がまっすぐさして来ているようす。

21 the morning Quire
(たぶん)鳥たち。

22-23
バラはアプロディーテー/ウェヌスの花。
鳩も彼女の鳥。

つまり、このスタンザの絵では、「君」が、夜明けの女神
アウローラと愛と美の女神アプロディーテー/ウェヌスを
重ねたようなイメージで描かれている、ということ。

24 Sit
なんらかの状態で、そのままで、いる(OED 7)。
鳥が止まっている、飛んでいない(OED 10a)。

24 perfect[ing]
成就する、達成する(OED 1)。
このOED 1にあるように、= consummate,
つまり、この鳩たちは、恋愛を成就する行為として
ことに及んでいる。

ちなみに、だんだん減ってきてはいたが、16-17世紀の
イギリスでは、最低限二人だけで誓いのことばをいい、
その後に行為に及べば、それは正式な結婚であった。
(聖職者たちはこのような結婚を批判し、教会での結婚を
推進していたが。)

シェイクスピアの『尺には尺を』、Ingram, Church Courts,
Sex and Marriage in England, 1570-1640
(1987) など参照。

25-40
ここでも表裏両面に、正反対のイメージで
「君」の肖像画が描かれている。

25-32
「君」を古代ギリシャの預言者として描いた絵の描写。
グロで恐ろしい絵。

古代ギリシャでは、いけにえの動物を殺し、開いて内臓の
ようすを見て、また焼いてその様子を見て、占いを
おこなった。John Potter, Archaeologia Graeca:
Or the Antiquities of Greece, new ed.
(1813), vol. 1, pp. 365-72.
http://books.google.co.jp/books?id=cIjUAAAAMAAJ

26
「君」に恋する男性をいけにえの動物のように殺し、
その死体を使って上記の占いをしているから。

28 Cave
空洞、空っぽの場所(OED 2)。ここではおなかのこと。

33-34
ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」など参照。


http://www.ibiblio.org/wm/paint/auth/botticelli/botticelli.venus.jpg

35 Halcyons
古代より、冬至の頃に海を静まらせ、そこに浮かぶ巣で
ヒナを育てるとされた鳥。ギリシャ神話のアルキュオーン。

38 Ambergris
アンバーグリス、竜涎香(りゅうぜんこう)(香料の原料)。


By Peter Kaminski
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ambergris.jpg

これを扱っているこんな会社もある。
http://www.ambergris.co.nz/

40 the Perfume
ここでは竜涎香の香り。

43 invent
思いつく(OED 1)。あみ出す(OED 2a)。
フィクションとしてつくる(OED 2c)。

47-48
構文は、And [thou] were [= would be] a Collection
choicer far Then or White-hall's, or Mantua's.

48 White-hall
16-17世紀のイギリス王の宮殿。

48 Mantua
イタリアの地名。そこの公爵ゴンザーガ家は
芸術を擁護、推進していた(らしい)。

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・・・・・・を喜ばせる(OED v.1, 1)。

* * *

英文テクストは、Miscellaneous Poems by Andrew
Marvell, Esq. (1681, Wing M872) より。

* * *

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