球節の腱性の軟腫(滑液の増量)という意味なのだろう。
程度が軽いと、球節の関節液増量と紛らわしかったりするが、
ここまで腫れると、関節液ではなく腱鞘液であることは明瞭。
(それでも、「安易に」針を刺してみたり、切開しようとする「獣医師」が居るが、それはしばしば悲劇で、笑い話ではない)
今は超音波診断装置が手軽に使えるので、診断は容易になったかもし れない。
液がどこの腔にあって、腱鞘が肥厚していないか、フィブリンが出ていないか、癒着がないか、などを観察することができる。
球節には輪状靭帯と呼ばれる線維性の組織が周囲を取り巻いている。
そのため、腱鞘の腫脹は、球節の上(近位)と下(遠位)でポヨポヨと触る。
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外科的治療には輪状靭帯切断術という手術方法がある。
輪状靭帯が屈腱鞘を締め付けることで痛みが出るなら、切開してしまおうという方法。
しかし、たいていの場合、輪状靭帯が拘縮したのではなく、屈腱腱鞘炎で腱鞘群(深屈腱、浅屈腱、腱鞘、腱鞘液)が腫れていることが、この障害の本態であることが問題。
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手術方法はいくつも報告されている。
もっとも古典的なのは、皮膚を8cmほど切って、その下の輪状靭帯を見ながら切開する。
皮膚を大きく切開しないで、球節近位の穿刺切開から器具を挿入して切る方法もある。
いずれにしても、腱鞘を切開してしまう方法と、腱鞘は切開しない方法がある。
関節鏡を腱鞘に挿入して、内側から輪状靭帯まで切開する腱鞘鏡手技も報告されている。
これは、当然腱鞘も切開することになる。
腱鞘鏡を使う利点は、小さい傷で広い範囲の切開が可能なこと、腱鞘内部の観察(腱の損傷、腱鞘内の癒着、結合織・フィブリンなどの凝固物)が可能なこと、そして必要なら腱鞘内の処置が可能なこと。
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というわけで、手術するかしないか、どういう方法で手術するかは、いつも難しい判断になる。
外科手術については
Mannual of Equine Field Surgery(野外での手術だよ!)
Diagnostic and Surgical Arthroscopy in the Horse
などに載っている。
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夜、乳母として働いている重種馬の疝痛。
痛みはボケてきていたが、状態は悪い。
結腸捻転で、結腸全体の色調は極端にひどくはないが、粘膜はすでに壊死していた。
小腸、盲腸、小結腸もチアノーゼ。ショックを起こしているようだった。
結腸の内容を排泄させ、小腸の内容も盲腸へ推送し、改善するのを期待したが駄目だった。
希望はほとんどないと思いながら最後まで手術したが、覚醒室で死んだ。
夜中2時。
体重がサラブレッドの1.5倍あると、結腸や小腸の重さも1.5倍あるようだ(当たり前?)。
きょうは背筋痛。
(それなのに遅くなってたいへん失礼いたしました…!)
この手術について、自分でも忘れていました(!)がフロリダ大学セミナーで希望して標本で見せていただいたことがあるようです(!)
見ていたかぎりでは容易そうに感じたようですが、
それは健康な足の標本だったからで、実際の患肢ではかってが違っていたかもしれません。
まさにこの写真の状態でしたが、腫れの大きさはよりひどかったように思います。
障害馬でもこのようなよりひどい状態を見たことがあります、
軟腫がもう硬くなってしまっていました。
乗馬では一般に球腱軟腫は気にしなくてもいいといわれますが、
ハコウの症状が出るかどうかの線引きはどこにあるのか、ということも興味深いです。
やはり小回転運動をすることや、年齢が高いことが影響するのでしょうか、
競走馬でも見られるのでしょうか?
軽度のもの、一過性のものは、競走馬、育成馬でも診ますが、ひどいものや、ずっと治らないものは少ないです。
手術はそれほど難しくないと思いますが、効果があるかどうか判断するのが難しいところですね。