真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「欲望といふ名の痴漢電車」(1990/企画・製作:メディアトップ/配給:新東宝映画/監督:鈴木ハル/脚本:井元史郎・鈴木ハル/撮影:長田勇市《JSC》/照明:長田達也/撮影助手:宮田幸司/照明助手:渡辺嘉/音楽:梅田浩一/助監督:井元史郎/編集:酒井正次/スチール:正木晋/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:小川真実・俵ひとみ・青木くるみ・麻生勅可・松本竹二郎・香園寺忍・長谷川いづみ・中山久美子・北村琴・章文英・山本洋江・江藤保徳/友情出演:上野淳)。出演者中、栄えるのではない章文英は本篇クレジットまま。
 痒いところに手の届かない開巻―結果論からいふと、全篇届かせ続けない―を、仕方がないのでそのままトレースすると、「さあ今日も頑張るよ」、「うん」と駅ホームへの階段を上がる、白鳥佳子(小川)と妹分の道子(俵)。何が楽しいのか、マジックハンドを駆使する痴漢師や溜息つく北島(麻生)を挿んで、歴史的にカッコいい公開題であるにも関らず、テローンとした勿体ないタイトル・イン。予習段階では麻生勍司の誤りかとも邪推したものだが、麻生勅可でそのままクレジットされる。
 話が全く見えないまま祝杯を挙げる佳子と道子の仮住まひに、佳子を執拗に追跡し求婚しようとする北島が押しかけ、佳子は間一髪脱出する。サングラスで顔は殆ど見せないマジックハンド痴漢師(何しに出て来たのか疑問な上野淳)と、尻を触りながら女を捜してゐるらしき北島の併走を噛ませて、裸も見せずに道子はニューカレドニアに行つてしまつた為、佳子はセーラ服姿のノリコ(青木)と行動開始。品定め担当のノリコが98点といふ高得点をつけた、オダ(江藤)に接近する。十分弱経過して漸く、佳子が男に痴漢させ、その隙に相方が男から掏るといふ稼業が明らかとなる。一体何処に電話をかけたらそんなことを教へて貰へるのか、掏つた財布の中の学生証から実家が五億の資産持ちであることを知つた佳子が、嬉々とオダに接近を図る一方、北島は車内で劇中三人目の痴漢師・竹ちやん(松本)と意気投合。顔だけが判らず、手だけが―尻の感触を―覚えてゐるとかいふ、北島の惚れた女探しに竹ちやんも参加する。情報が北島の触覚しかないのに、竹ちやんが如何にして手を貸すつもりなのかは知らんけど。
 香園寺忍は、佳子宅に突入する北島が、エレベーターで乗り合はせる女。長谷川いづみから山本洋江までは、車内被痴漢と乗客要員。スタッフ動員か、他に男客も若干名。香園寺忍が、車内にも紛れ込んでゐるのかどうかは未確認。乗客要員として確かに、中村京子が2カット見切れる。消去法で名前を潰して行くと、北村琴か山本洋江の何れかが中村京子の変名なのであらうか。正直、この辺りの見知らぬ名前には手も足も出ないけれど、ひとつひとつ詰めて行くしかない。ピンクを観始めた、最初の頃―当方因みに当時ネット、環境も習慣もなし―からさうだつたぢやないか。このなかみつせいじといふ人と杉本まことといふ人、凄く似てるなあ、そんな牧歌的な地点から歩いて来たんだ。
 早い者勝ちなのか皆一度は思ひつけど、重さなりハードルの高さに二の足を踏んだのか。歴史的にカッコいいタイトルに釣られ何時か観たい見ようと思つてゐた、鈴木敬晴の鈴木ハル名義最終第三作。ここでjmdb頼りに改めて鈴木敬晴の略歴を整理してみると、若松プロ製作の「レープゾーン 犯しの履歴書」(昭和54)で磯村一路・福岡芳穂と三人一緒にデビュー後、十年置いて二年間に鈴木ハル名義で三作。更に三ヶ月間を空け名義を鈴木敬晴に戻し十作の、監督作は都合十三と三分の一。鈴木ハル一人立ちデビュー作「昼塗らす人妻」(1989/主演:川奈忍/“濡らす”の誤字?)は見当たらないものの、鈴木敬晴の十作は全て(未見残り七本)DMMの中にある、ぼちぼち拾つて行くか。今作本体に話を戻すと、全篇隈なくツッコミ処の割には、ピクリとも面白くないある意味不思議な一作。主人公の立ち位置が暫く判然としない、別の意味で順調に躓く必要な情報を明確に欠落させる序盤からあちこち、といふかあれもこれも雲を掴まされるのだが、逆の意味で特筆すべきなのが肝心の電車痴漢。基本女の尻を触る男の手元しか映さない上、北島に上野淳なり竹ちやんと画面内に二人の痴漢師が連動するカットが多用されるゆゑ、一体誰が誰に痴漢してゐるのか全く判らない、こんな要領を得ない痴漢電車初めて見た。尻の感触しか知らない筈なのに、北島はどうやつて佳子の名前と、挙句に住所にまで辿り着いたのか。ノリコと組んでアタッシュケース男(不明)を狙つた佳子は、竹ちやんに痴漢されたノリコが機能停止に陥りつつ、車内で児玉商事と取引するアタッシュから一枚のフロッピーディスクを掏る。そのフロッピーの中には、発売前のゲームソフトのプログラムが入つてゐた。加へて、佳子は北島と鉢合はせ、ビアンのノリコが逆筆卸の相手に竹ちやんを選んだことから四人は狭い世間の中で合流。終盤やつとこさ動き始める本筋はいいとして、アタッシュは何でまた、アタッシュケース一杯の金が動くやうな取引を満員電車の車中なんかでしてるのよ。北島・ミーツ・佳子の件は、火にガソリンを注ぐ。チョロ負かせたオダが佳子に求婚したその時、横断歩道の向かう側には北島が。擦れ違ひざまに尻を撫でた北島が、「佳子さん!」だなどといふのは何なんだそのへべれけなシークエンスはよ!中途半端にフロッピーを巡るドラマを盛り込んだ末に、最後の女の裸は四十七分、二人風呂でマッタリするノリコと竹ちやん。即ち、締めの濡れ場を盛り込み損ねた以前に、そもそも俵ひとみが脱ぎさへしてゐない。百歩譲つて劇映画としてはまだしも、裸映画としてすら木端微塵。ツッコミ処があまりにも多過ぎて、全体どれが致命傷なのか途方に暮れる始末。画期的なタイトルの秀逸さに反比例するかのやうな、直截にいふと名前負けした、大概仕出かした痴漢電車の大迷作である。


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