真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「すけべ母娘 どつちも好きもの」(1996『ドすけべ三昧 母娘喰ひ』の2006年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:岡輝男/企画:中田新太郎/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/協力:獅子プロ/出演:青井みずき・扇まや・杉原みさお・頂哲夫・平岡きみたけ・杉本まこと)。助監督―始めスチールその他―のクレジットが本篇には元々ない反面、jmdbは何故か榎本敏郎にしてゐる。
 原色系のケミカルな色合の液体が、フラスコの中でポコポコ煙を吹く研究室。脊髄で折り返した印象としては、あたかも通り越しまんまナベシネマ。劇伴の矢継ぎ早に起動した、情報量を絞り込んだクレジットがザクッと駆け抜ける。裸電球から舐めていはゆる瓶底眼鏡、と杉原みさお。飯島エミリ(杉原)が見守る通称ハカセくん(平岡)の今回の発明が、飲んだ人間が最初に目を合はせた者と人格が入れ替る薬。底の抜けたトンデモぶりに関しては一旦さて措き、薬物が煮詰まるまで二三十分、その間新しい体位の研究とか求めて来るハカセくんを、エミリが平手でツッコんでタイトル・イン。時間の目安に結構アバウトな幅があるといふのも、何気に随分な話、簡単レシピぢやないんだから。
 特に珍奇な姿勢の探求も為されない一戦経て、あと一手の新薬調合を勝手に完成させたエミリは、コーラ瓶に移し持ち出す。どうせその瓶も、洗つてさへゐないよね。一方、設定的には高校の夏休み時期の津田スタ。母子家庭の広瀬家、母親のジュンコ(扇)がテレフォンセックスに耽つてゐるのは、次なるお相手のゴロー氏にはジュンコから名指しで電話をかける、地味に謎システムのパート。娘のアイリ(青井みずき/a.k.a.相沢知美/a.k.a.会澤ともみ)が奔放な母に呆れがてら、自分で支度して食事を摂る。ところに、アイリが初恋をときめかせる、アイカワ君との交際の進捗を任されたエミリが来宅。木に竹を接ぎ気味にキャッキャウフフするアイリとエミリが二階のアイリ自室に上がつた隙に、適当に見せびらかす以外、実際何の目的で持つて来たのかよく判らない珍薬を、ジュンコが飲んでしまふ。そのことを察知したエミリの制止も間に合はず、ジュンコとアイリが目を合はせ、イッケイケの母親と、案外晩熟の娘、好対照な母娘の主体が交換される。、
 配役残りチューバッカTの頂哲夫が、件のアイカワカズヤ。野球部で甲子園に行く、アルプススタンドだけど。テレセ一人目の声も兼務する杉本まことは、ジュンコの不倫相手・江沢陽一。岡輝男の脚本に大人気なくツッコんでおくと、幾ら提出すればまづ受理されよう万全に書式が揃つてゐたとて、確定的な決意の表明といふなら兎も角、離婚届自体は1mmの証明にもなり得ないぞ。
 残弾数、ゼロ。終にex.DMMの中に未見作のなくなつた、深町章1996年第三作。それはさて措きちな、みに。当時の深町章が前回は林田ちなみ(a.k.a.本城未織/ex.新島えりか)の主演で、二本どすけべが続いた格好。どすけべついでに―我ながら凄い序でではある―1991年第六作「人妻VS風俗ギャル ザ・性感帯」(脚本:周知安=片岡修二/主演:橋本杏子)の、2010年旧作改題版「どすけべサラリーマン 開花篇」に続き、1994年第二作「痴漢電車OL篇 車内恋愛」(脚本:周知安/主演:西野奈々美)と1990年第二作「欲しがる女5人 昂奮」(脚本:周知安/主演:橋本杏子)が、気づくと2020年にどすけべサラリーマンのそれぞれ「快楽処世篇」と、「肉体遍歴篇」で新版公開されてゐる。無論、各々元作は全く別個の映画―そもそも公開順からグッチャグチャ―で、そんな天衣無縫さが、実に清々しい。
 閑話、休題。山中恒風にいふとあたしがおかあさんで、おかあさんがあたし。薬品をしかも片方のみが服用する以外、一切の機器すら使はない。原理の皆目不明な、箍の外れた超化学が少しでなく不思議なSFピンク。完全なる心身二元論に立脚してゐる点に関しても、一言触れておきたい。事態は木端微塵にトッ散らかつたまゝ、アイリの器に入つたジュンコが、エミリの整へた手筈に則りアイカワ君に会ひに行く。一方、家にゐるのがジュンコの器に入つたアイリであるとも知らず、今の配偶者とは本気で別れる腹の、江沢が広瀬家を訪れる、そら知らんはな。アイリとジュンコ、各々の恋路が直交の十字火花を散らす思ひのほかウェルメイドな中盤が、すべたの母親、もといすれた母親があつさり娘の破瓜を散らしてのける、ある意味岡輝男らしいブルータルな無造作に、爆散されるものかと頭を抱へさせられた。とこ、ろが。江沢には明かしてゐた秘密をパワー系の軸に、霧散しかけた始終の求心力を猛回復。母娘の和解を超えた関係の深化に、暫し女の裸もお留守にまどろこしく尺を喰ふのは仕方ないともいへ、変則的なスワッピングの果て、辿り着く大団円は満更でもない見事な仕上り。かと、思ひきや。実は確かに玄関先に置かれたまゝのコーラが改めて火を噴く、更に一捻りには完全に油断してゐて驚いた。江沢と目を合はせるカットに於ける、アイカワ君こと頂哲夫の間抜け面が絶品。要は再度ハカセくんに御登場願へば済む話にせよ、綺麗な展開が綺麗にオチる、大人の量産型娯楽映画ながらジュブナイル調の佳篇。尤も、百円オチの他愛なさは、矢張りオカテル。

 岡輝男脚本作に触れるのも思ひのほか久し振りで、有楽閉館に際し見せた篤実を、何とはなしに思ひだした。


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