真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「中山あい子原作*『未亡人学校』より 濡れて泣く」(昭和52/製作:日活株式会社/監督:藤井克彦/脚本:鹿水晶子/プロデューサー:伊地智啓/撮影:萩原憲治/照明:熊谷秀夫/録音:木村瑛二/美術:林隆/編集:井上治/音楽:高田信/助監督:川崎善広/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作担当者:田中雅夫/出演:宮下順子・絵沢萠子・岡本麗・遠藤征慈・浜口竜哉・五條博・小泉郁之助・山田克朗・岸本まき子・飯田紅子・森みどり・堺美紀子・結城マミ・言間季里子・原田千枝子・橘田良江・斉藤英利・大谷木洋子・佐藤了一・矢藤昌宏・賀川修嗣・宮本博・谷文太・影山英俊)。出演者中堺美紀子と、言間季里子以降は本篇クレジットのみ。クレジットがスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 三輪車の見切れる窓越しに、祭壇を抜く。丸菱商事總務部の矢野忠志(浜口)が、林中にて情婦(結城)と眠剤入りの洋酒で情死。遺された妻・美加(宮下)と、義兄の秀人(山田)にノンクレジットと思しき坊主。一人息子の達也(子役ノンクレ)、義母と義姉のユイ(堺)・芳江(大谷木)。坊主を除いた五人が親族一同、その他弔問客の中に、矢張りノンクレで水本京一がコソッと紛れ込んで来るのが、第一の刺客。第一といふが、第二以後に続くのか、それが続くのね。
 湯船は小さい割に、洗ひ場は小型なら車一台入りさうなほど、無闇にダダッ広い浴室。訪れた月のものに、何となく美加が黄昏てタイトル・イン。後述する洋子もよく首を縦に振つたとある意味感心する、か呆れる、ターちやんは長野の矢野家実家―秀人夫婦に子供はゐない―に引き取られ、美加はといふと籍は抜かぬまゝ、社宅は追ひ出されるゆゑアパートに越し一人きりの新生活。一方、配偶者に内緒で忠志が入つてゐた、三千万の死亡保険金を美加は保険外交員の荒井はる子(絵沢)から渡される。渡した美加を、この人も寡婦のはる子は未亡人サークル「白鳥会」に勧誘、小冊子も手渡す。
 正直いふと、男優部より寧ろ女優部に打ちのめされた、微力の限り辿り着けるだけの配役残り。賀川修嗣は、忠志死亡現場の状況を美加に伝へる刑事。ロングボブの、壮絶な似合はなさに卒倒するかと思つた岡本麗が前述した洋子、引越しの手伝ひにも来る美加の友人。あと地味に衝撃的なのが、今回この人三番手にして、よもやまさかの不脱といふ掟破りの横紙を破る。何も百合を咲かせろとまではいはぬ、汗をかいただとか何だとか、美加に風呂くらゐ借りても罰はあたらなかつたらう。岸本まき子と飯田紅子は、麻雀するのに洋子が美加の新居に呼ぶ、百合と澄子。ソリッドな岸本まき子が、伏兵のポイントゲッター。持参して会ひに行けばいゝとする、洋子の至極御尤もなツッコミも入る長野に送つて貰ふ子供服を、買つての帰り。往来で擦れ違つた美加に、見惚れて振り返る男で静かにされど轟然と小宮山玉樹が飛び込んで来るのが、大物大部屋第二の刺客にして裏の、もしくはグルッと一周して真のハイライト。それでは皆さん御一緒に、コミタマキタ━━━(゚∀゚)━━━!!
 気を取り直して、配役続き。美加がはる子に連れられた、白鳥会のパーティ会場。橘田良江は会員の遠藤、影山英俊がタダの連れの色男。遠藤の連れのミヨシと、頑なに正面を向いて呉れない、タダは判らん。遠藤征慈が白鳥会の会長兼、サラ金「佐渡商会」も経営する佐渡真喜男。群を抜く存在感を発揮する、森みどりは会員の夕美子。五條博は、白鳥会に出入りする朗らかなオカマ・鉄夫。終始キラッキラ弾けさせ続ける、文字通りにこやかな笑顔が堪らない。後日、「ねえ坊や、私半年も処女だつたのよ」。夕美子こと森みどり(a.k.a.小森道子)が爆発的なカット頭の火蓋を切る、白鳥会のブルーフィルム上映会。“坊や”と称される男も正面を拝ませて呉れないものの、恐らく間違ひなく、声色が清水国雄に聞こえるのが刺客2.5、背格好も背反しない。ブルーフィルムで―佐渡商会に借金を抱へる―百合を犯す、犯し屋は多分谷文太。夕美子が永遠に茶を挽く、はる子仕切りの売春マンション。小泉郁之助は百合を買ふ男で、佐藤了一が美加を買ふ男。「オバサン未亡人?」、今となつては考へられない、ぞんざいと紙一重のフランクなメソッドに震撼も禁じ得ない、街で交錯した美加―ちなみに公開当時、公称で宮下順子二十八―に声をかける若い色男は恐らく宮本博。未だ言間季里子を詰めきれないのが、過積載のワン・ノブ・限界であるのは認める。
 円盤のライナーにでも書いてあるのか、タワレコ通販サイトの“本作は「未亡人」といふ設定を定番化させた”なる仰天記述―原文は珍仮名―に引つ繰り返つた藤井克彦昭和52年第一作。プロトゼロとされる、「貸間あり 未亡人下宿」(監督:山本晋也/脚本:原良輔/主演:森美千代)が昭和44年。今作封切り時点で第六作「新未亡人下宿 いろ色教へます」(監督:山本晋也/脚本:中村幻児/主演:大原恵子)まで先行する大定番、あるいは金看板「未亡人下宿」シリーズですら既存の上、いふまでもなく、更に遡る先行作はゴッケゴケ、もといゴッロゴロ転がつてゐる。この辺り、如何にもロマポらしい傲岸さが透けて見えるのか、先に潰えた後追ひの分際で、量産型裸映画が堆く積もらせた盛大な塵の山をナメないで欲しい。それは、兎も角。往時大衆小説で人気を博した中山あい子ものとしては前年、同じく宮下順子主演による「『妻たちの午後は』より 官能の檻」(監督:西村昭五郎/脚本:田中陽造)が第一弾、第二弾で打ち止め。
 白鳥会で男を買はせた女に、マンションで体を売らせる。佐渡が構築したシンプル・イズ・ベストな外道ビジネスモデルに、囚はれる女達の物語。筋金入りのスケコマシである筈の佐渡をも、美加が何時の間にか骨抜きに篭絡してのける。率直なところ、昭和臭いミヤジュンが決して当サイトの琴線に触れはしないデフォルト気味の躓きもあり、主演女優が発揮、してゐる格好の神通力は些かならず理解に遠い。「有難うつていへばいゝのね」、「貴方それはみんな誤解よ」。端正な演出の後押しも借り切れ味鋭く通る、名台詞のひとつやふたつなくもないけれど。謎の不穏音効と、二重写しを濫用する演出も、本筋が覚束ないとなると徒に思はせぶりなばかり。但し、忠志のお骨を握り潰した、美加の右手に被せた紅蓮が焼き場の炎で、しかもそのお棺―即ち大体画面中央の概ねビスタサイズ―に、亡夫が情婦と死んだ、林の中を礼装で歩く美加の姿を叩き込む、驚天動地のクロスオーバーラップには度肝を抜かれた。凄い真似を仕出かしやがるといふか、案外自由な映画だな。反面、選りにも選つて締めの濡れ場に及んでの、入れポン出しポンに連動させる馬鹿ズーム略してバカズーは、誰か止める人間はゐなかつたのか。潤沢に脱ぎ倒す主演女優に対し、横紙を破る三番手に劣るとも勝らず、ビリング頭の絡みに大胆に割り込んで来ては、豪快に駆け抜けて行く二番手の木に竹を接ぎぶりも何気に画期的。裸映画としての体裁が、整つてゐるとは世辞にも認め難い。美加が喪服で、達也に会ひにか迎へにか、それとも別れを告げに来た。ユイ以下三人が呆気にとられる鮮烈なラストは、何故か長閑に茶を濁し攻めきれない印象を残す。


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