真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「団鬼六 美教師地獄責め」(昭和60/製作:にっかつ撮影所?/提供:にっかつ/監督:瀬川正仁⦅第一回監督作品⦆/脚本:佐伯俊道/原作:団鬼六/プロデューサー:奥村幸士/企画:小松裕司/宣伝:羽田利一/撮影:水野尾信正/照明:木村誠作/録音:細井正次/美術:金田克美/編集:奥原好幸/選曲:林大輔/助監督:池田賢一/色彩計測:青柳勝義/緊縛指導:浦戸宏/擬斗:高瀬将嗣/製作担当者:作田貴志/現像:東洋現像所/出演:真咲乱・志麻いづみ・水野さおり・高山成夫・野坂隆広・福山聖一郎・名和宏・益富信孝)。出演者中、真咲乱にポスターでは括弧新人特記。提供に関しては、事実上エクセス。あと往時のポスターは、小妻要の責め絵。
 乳撫鉄道、もとい秩父鉄道浦山口駅に、長物背負つた顔面の濃い真咲乱が降り立ち、髪型のおかしな志麻いづみが出迎へる。岡崎冴子(志麻)の何某か含みを持たせた招聘に応じる形で、サドマゾならぬ剣道の女王として名を馳せた、国語教師の早乙女法子(真咲)は山間の女子高に赴任。くねくね進む車を、空から捉へた贅沢な俯瞰にクレジット起動、トンネルの出口に向かふ、車載カットにタイトル・イン。山道を塞いだステーションワゴンから、VANのジャケットの若林(高山)。黄ジャンパーの佐川(多分福山聖一郎)に、革ジャンの大木(心許ない消去法で野坂隆広)、不良三人組が現れ二人を襲撃。木刀を抜いた法子が大木と佐川を二対一でも撃退する一方、冴子は若林にある程度犯される。幾ら時と場合と相手次第にせよ、心得のある人間が、若林の顔を突くのは如何なものかと思へなくもない。
 配役残り、事もなげに投入される教室小隊を経て、名和宏と益富信孝は『葉隠』を採り上げる法子の授業を参観する、理事長の田野倉聡とその車椅子を押す、用務員の森田。益富信孝の本質を汚い佐藤浩市に看做すのが、今回新たに辿り着いた視座。漠然と顔の曲つた水野さおりは、田野倉の孫娘・美紀、ちなみに両親は死去。その他職員室分隊と法子から指南を受ける道場班のほか、上野淳から一切の華なり外連を脱色したかのやうな、正体不明の途轍もなく変哲のない遺影は、水難事故から法子を救ひ溺死した、冴子の婚約者・タカシ。それをいつては話がゼロから始まらないともいへ、結構派手な因縁を抱へる人間の招きを、そもそも法子は何故受けたのか。
 実際さういふ御仁がどのくらゐ存在するのか知らないが、監協と日本ペンクラブ両方所属してゐる瀬川正仁のデビュー作。尤も監督作は昭和末期の三本のみで事実上打ち止め、以降はテレビ―のノンフィクション―畑や日本大学芸術学部でない方の日芸(2013年閉校)レッスンプロ、近年の活動は文筆業がメインの御様子。一方、1000ミリバストを謳つた―末代と同義の―四代目“SMの女王”たる、真咲乱にとつても戴冠作。二番手に従へた志麻いづみとの共演となると、三代目・高倉美貴の前後を正規にはナンバリングされぬまゝ繋いだ、新旧女王が並び立つ格好となる。ついでといつては何だが、ザッと探してみたところ水野さおりにも実は、今作を遡るフィルモグラフィが見当たらない。ポスター・本クレとも、新人特記は施されてゐないけれど何か先行作があるのかな?
 美教師が地獄のやうな責めを受ける、煌びやかなほどあるいは、潔くそれだけの物語。最初に法子が生物準備室で昏倒するのが、よもやまさか驚愕の開巻十分。その際には仕掛けの早い映画だな!と軽くでなく度肝を抜かれつつ、幸いにも、当日一泊する冴子宅の古民家と、全裸防具がエロくてエモいエローショナルな、剣道場の一幕を挿む流石に早とちり。にしても学校から帰宅した美紀が、何をトチ狂ふたか西洋甲冑に入れられてゐる法子と熱い接吻を交す。藪蛇な意匠が火を噴く素頓狂なラストから窺ふに、結局その後終ぞ囚はれてゐると思しき法子が、田野倉邸の敷居を跨ぐのが尺の折り返し間際。以降主演女優をひらすらに甚振つて甚振つて甚振り抜く、腹の据わりぶりが実に清々しい。お胸を平手で打たれては「痛ーい」、背に熱ロウを落とされては「熱ーい」。濡れ場に突入すると硬さが抜ける、何気なセンスのよさを真咲乱が滲ませ、タカシ絡みの復讐心に燃える冴子が、法子にブチ込んだイチジクが実に六本。万歳大開脚の体勢―観音様はビデオカメラで隠す―で座らされた法子が、首まで浸かる水槽。お約束の苦悶を一時愉しませた末、遂に法子が決壊するや広がる茶濁水と連動させ、ポロポロポローンと美しいハーブを鳴らす、壮絶なスペクタクルは素の劇映画的にもグルッと一周して感動的。論を俟つまでもなく、俯せの状態で豊かに潰れ、縄で縛り込まれれば悩ましく零れる、爆乳は極上の眼福。人間性なんてホワイエか、家で見てゐるならベランダにでも置いて来てしまへ。品性下劣な琴線をエクストリームに激弾きする、轟音の裸映画。日活の公式サイトによるとどうやら瀬川正仁自身の着想らしい、葉隠の精神を百合で超克する。意欲的な主題か盛大な大風呂敷は、花を咲かせるビリング頭と三番手の、已むを得ない覚束なさにも足を引かれ後ろから撃たれ、木に竹すら接かず事実上完放置。随分藪から棒でもあれドラマティックに失墜した森田も、絶妙に鮮烈には死に損なふ。終盤の失速も否み難い反面、法子を地獄に堕とし燃え尽きた冴子が、浦山口を離れる印象的なロングは、首の皮一枚映画を救ふ。

 道場パート、気づくと途中暫しゐなくなる佐川が、ハイサイドライトから引きで狙ふ、若林曰く“剣道の女王レイプ現場の生撮りビデオ”を回してゐた、とかいふ。案外実直な作劇上の論理性と、佐川の闇雲な情熱には畏れ入つた。往時の機材で、そんな遠くから満足に撮れたのか否かは知らん。


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