真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女教師 汚れた噂」(昭和54/製作:日活株式会社/監督:加藤彰/脚本:いどあきお/プロデューサー:岡田裕/撮影:森勝/照明:新川真/録音:木村瑛二/美術:渡辺平八郎/編集:井上治/音楽:高田信/助監督:浅田真男/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作担当者:服部紹男/出演:宮井えりな・深沢ゆみ⦅新人⦆・吉川遊土・山谷初男・椎谷建治・山田克朗・高橋明・八代康二・木島一郎・織田俊彦・五條博・大熊英之・大平忠行・中平哲仟・佐藤了一・南條マキ・影山英俊・田中加奈子・木下隆康・牧村秀幸・新井真一)。出演者中、大平忠行以降は本篇クレジットのみ。では、あるのだけれど。
 水溜りに揺れる「ホテル 智恵」のネオン、改めて看板を狭い路地から抜いて、木島一郎と寝た宮井えりなが身を起こす。身支度を始めた城南学園教師・西片志麻(宮井)に、「男はかうしておくと何となく気が休まるんだよ」とキジイチは三万円支払ふ。ペットの哭く、雨上がりの往来。大掛かりなターンテーブルで車輛の向きを変へる、転車台が画になるバスの停留所。始発を待つベンチで座り合はせた手塚良平(椎谷)を、志麻は戯れに三万で買ふ。二つ目の濡れ場を垂直に抜く俯瞰から、オーバーラップした教室にタイトル・イン。主演女優の、ハクいロングを撮ることに全てを賭けたか如き、やさぐれたハードボイルドがアバンから敢然と火を噴く。
 尤もタイトルバックも校舎のそこかしこ、であるとはいへ。劇中城南学園は春休み期間、授業風景はおろか、制服を着た生徒一人出て来はしない。後述する坂口が理科準備室に入り浸るのもあり、ふんだんに学校が舞台となりこそすれ、一年空いた「女教師」シリーズ次作「女教師 汚れた放課後」(昭和56/監督:根岸吉太郎/脚本:田中陽造/主演:風祭ゆき)に準ずるなかなかの変化球。閑話、休題。城南学園二年生の小形燎子(深沢)が、彼氏・神坂浩(大熊)を観に行つたアイスホッケー部が練習するリンクに、恐らく二連戦を戦つたまゝの志麻も現れる。「パックを西片のアソコにぶち込むつもりでやるんだよ!」、如何にも昭和らしいぞんざいさで発破をかける、キャプテン(新井)に喰つてかゝつた浩が弾みで壁面に激突。頭から突つ込んだにしては、何故か肋骨を骨折する。
 配役残り、浩が担ぎ込まれた病院に駆けつける五條博は、アイスホッケー部の顧問か神坂の担任・松木。南條マキは燎子の母でフランス料理店を営む忍、山田克朗が、娘いはく“お母さん目当てに来るお客さん”の滝村。山谷初男が件の理科教師・坂口、八代康二は校長の久保。吉川遊土は、田舎でたばこ屋とバー「白ゆり」を営む志麻の叔母。絶妙ならしさを爆裂させる影山英俊が、目下叔母と一緒に暮らす新しいバーテン・宮田。即ち今なほ変らない、男を取つ替へ引つ替へする叔母の姿を、子役(田中)が目撃する幼少期の回想。一人目氏は識別能はないが、二人目の郵便配達は多分、声色と体格から粟津號ではなからうか。織田俊彦は、ディスコで志麻と出会ふ行きずりのワンナイラバー。高橋明は志麻の実兄、地主か何かなのか矢鱈凄い屋敷に住んでゐる。そ、して。叔母が急死した霊安室、その場にもう一人居合はせる白衣にも辿り着けないが「御面倒おかけ致しました」の台詞が一言与へられる、吉川遊土の弟で水木京一が悄然と項垂れてゐるのが地味に最大の衝撃。枝葉を賑やかす、常連脇役部しか見てねえのかよ。最後に中平哲仟が、志麻の三万円で行けるところまでといふ、漠然とした客に小躍りするタクシー運転手。まさかの粟津號なり、水京がクレジットの狭間から電撃の奇襲作戦で飛び込んで来る反面、木下隆康や牧村秀幸―何れかはフランス料理店の給仕人?―は兎も角、大平忠行と佐藤了一が何処に出てゐたのかどうしても判らない、あんな濃い面相の人等なのに。
 VHS(初版1999年)のジャケで堂々と“ロマンポルノ版「ミスター・グッドバーを探せ」!!”―探してでないのは原文ママ―を謳つてゐるのが微笑ましい、加藤彰昭和54年第一作は全九作からなる「女教師」シリーズ第三作。同じく加藤彰の昭和51年第二作「女教師 童貞狩り」(脚本:鹿水晶子主演:渡辺外久子=渡辺とく子)が、作品群に数へられない点にふとした疑問も覚えつつ、何のことはない、田中登の第一作(昭和52)に先んじてゐるだけの単純極まりない理由であつた。
 男漁りがてら売春する志麻を描いた、作者不詳の謎エロ劇画『女教師 花芯のわなゝき』。コピーと悪い噂が送られて来た久保の手許を始め、校内に出回る。松木も交へた校長との面談で明らかとなる、前任校で志麻が起こしたスーサイド未遂。「どうしたの、こんなもん飲んでるの」とあのオダトシに軽く心配させるほどの、志麻のヤバげな常用薬、どのオダトシだ。諸々思はせぶりな火種が散々振り撒かれ、はするどころかな話ですらなく。各種イントロには窺へる志麻が、叔母と繋がつた淫蕩な血を畏れてゐる、とかいふ。一番手前の外堀を埋める埋めない以前に、満足に触れさへしない実は割と壮絶な有様では、義母もとい偽母の死後衝撃的か無造作な事実と直面する志麻以前に、映画自体が糸の切れた凧。『花芯のわなゝき』の確かにアッと驚かされる作者の正体以外には、広げた風呂敷を逆の意味で見事に全て畳みもせず放置。最終的には終始足元の心許ないヒロインに対し、中盤猛追しかけるのがピンクでは前年から活動してゐた二番手。猛追しかける、ものの。大概拗れ倒した浩と、燎子が何となくV字仲直りしてのける茶の濁しぶりでは、ビリングを逆立させる鮮烈には果てしなく遠い。山初が妙に尺を食ふグロテスク云々も結局さしたる実を結ぶでなく、本筋に含みばかり持たせた中では、寧ろ木に接いだ竹と紙一重。さうなると漫然と沈降しておかしくない映画を轟然ととサルベージするのが、全篇通して連べ撃ちされ続ける、ラメには見えないがビニールなのかテッカテカな素材の、正直教職らしくはない華美なロングコートで、宮井えりながカッコよく漂泊する超絶ショットの弾幕。哲仟が旧臭い無駄口を垂れ流す、オーラスは蛇に足を描き足し気味の一方、矢張り冗長な長講釈で志麻から要は自失の体験を尋ねられた手塚は、たゞ一言「うん、あるよ」。難渋な禅問答に対してのある意味最適解なのかも知れない、キレのある不愛想さが正方向のハイライト。


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