真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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自己紹介
福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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続・股がり天使 旅立ちの朝勃ち
竹洞哲也
/
2023年10月09日
「
続・股がり天使 旅立ちの朝勃ち
」(2022/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:坂元啓二/録音:山口勉/編集:竹洞哲也/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:赤羽一真/監督助手:神森仁斗/制作応援:山本宗介/撮影助手:原伸也・田中彩野/録音助手:西田壮汰/スチール:須藤未悠/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:ロケットワイフ/出演:友田彩也香・高橋りほ・星あめり・辰巳ゆい・工藤翔子・細川佳央・伊神忠聡・森羅万象・バクザン・モリマサ・巌屋拳児)。
橋上の夜道、“シャボン玉 壊れて消えて”。泡風呂「ロケットワイフ」(吉原)の劇中呼称は店長・木津公平(巌屋拳児=岩谷健司)が、下手の横好きを自認する川柳を中七まで詠んだ上で、フレーム左袖に捌けてのタイトル・イン。
これといふほどの物語もないゆゑ、サクッと配役残り。タイトル明けが濡れ場初戦、主演女優が猛然と飛び込んで来る火蓋の切り具合は清々しい。友田彩也香がロケットワイフのナンバーワン嬢・かおり、本名は南条いつき。そして、前回はクレジットに名前だけ載せ、本篇中には確か出て来ない一種の汚名を返上。満を持し姿を現すモリマサは、常連客の萬田良介。工藤翔子は女番頭格の寺本洋子、元泡姫。ビリングを一歩下がつた高橋りほと、星あめりはパイセン面するのが割とおこがましい十分新人のメイこと東田舞花と、こちらはピッカピカかズッブズブの新人・ジム、戸籍名は大野美佐。RGM-79みたいな源氏名は、昼間のOL仕事にちなむ。何は、ともあれ。美佐のパッドがリムと一体型の、スクエアとウェリントンの境界線を軽やかに綱渡る、黒縁のセルフレームが空前絶後にエクストリーム。辰巳ゆいは店を去つた北川梢、ロケワイ時代はなおみ。伊神忠聡は常連客の萬田良介、風俗通ひを再開してゐる点を見るに、困窮状態を目出度く脱した模様。バクザンはいつきが度々帰途の足を止める、ストリートミュージシャンの概ねヒムセルフ。投げ銭ついでに買つて聴く形で、アルバム『ゴミ箱』(2008)も見切れる。細川佳央はいつきの彼氏・月山尚文、海外での自給自足生活とか割と漠然とした夢に向かひ、本業のホワイトカラー以外に、会社には無断のバイトも入れ金を貯める好青年。森羅万象は、置物の狸よろしく人外な広大さの陰嚢を誇る一見客?登場は一幕きり。後述する、破天荒な荒業でデフォルトの限界ないし劣勢を挽回どころか、盛大なスペクタクルを巻き起こす必殺のクロスカウンターを放つた富士山富男はまだしも、端から律に阻まれ映す訳にも行かないモチーフを、中途半端に持ち込むのも些か如何なものか。
二ヶ月前に封切られた前篇「
股がり天使 火照りの桃源郷
」(主演:高橋りほ)と二本撮りしたにさうゐない、竹洞哲也2022年第三作。最後メイとジムがそれぞれ相手する、瞬間的かつ背中しか見せない二人が若干怪しくもあれ、ダイエットした麻原彰晃のやうな赤羽一真ら、その他客要員は今回投入されない。しかも他人作で、この期にも及ぶ国沢実は兎も角、従業員とカスタマー両面イケる、井尻鯛辺りがゐて呉れると地味ながら画が俄然締まるのだけれど。
かおると月山の物語が起動する以前の序盤を殊に、結構寸暇を惜み回想の乱打も厭はず放り込んで来る、女の裸濃度が決して低くはない、二三番手の薄さに目を瞑れば。尤も、ほゞ全ての絡みを少なくともどちらかがイクかヌクまで描ききる、完遂率の他を圧倒する高さは論を俟たず素晴らしいものの、腰から下に張られた下賤な琴線をメキメキ激弾きするくらゐ、一戦一戦が充実してゐる訳でも別にない。総じて淡白なのは、相も変らない通常運行。質的に平板な裸映画に劣るとも勝らず、大したドラマも土台存在しない空白を、俳優部と演出部双方の非力にも足を引かれる、元々妙味に乏しい高々無駄口が埋められる筈もなく。素といふ意味で裸の劇映画的にも例によつてツッコミの余地も欠いた、詰まらなくすらない最早虚無感をも漂ふ散々なザマ。一言で片づけると、度外れた大通り越して大概巨根を、デジタルの力技で合成したなかみつせいじの顔面で処理する。前作に於いて火を噴いた、呵々大笑の飛び道具・富士山富男がゐない分、パワーダウンするばかりではなからうか。これは何も竹洞哲也に限つた話でもないのだが、ネットで公開されてゐる霞より薄い予告に目を通し、脊髄で折り返した悪寒に近い予感がまんまと的中。そこは、当たらない方がよかつたかな。寧ろ二部作の構成として、なかみつせいじと森羅万象をスイッチする選択肢は採り得なかつたのか。その際「火照りの桃源郷」を要は捨てる、結果を強ひられたにせよ。・・・・いや、待て待て。この面子の中で、なかみつせいじを介錯するに足るコメディエンヌは辰巳ゆいを措いてほかにない、とすると。なおみ不在の状態で幕を開ける、「旅立ちの朝勃ち」に富士山は連れて来れないのか。
今作固有の事情にも目を向けると、一般映画版ではもう少し満足に手数を費やしてあるのか、裏方で復帰する以前の洋子が、木津に何某か大事な手術の費用を無心する件は、説明不足の木に接ぎ損なふ竹。大した見せ場も与へられず、勿体ないレベルの確かな発声を半ば持て余す星あめりと比べた場合に、尚更際立つのが高橋りほの心許なさ。たゞでさへ他愛ない会話劇を、前回主役の二番手が火に力不足を注いで壮絶にバクザン、もとい爆散してゐやがるのを再確認した。萬田がジムの、普段使ひの黒縁セルフレームに日常性を見出す云々の遣り取りに至つては言語道断。お眼鏡とそれをかける当人とを秤にかけて、美佐を、より言葉を尽すなら所詮生身の人間を選ばねばならぬ理由が何処にある。メガネこそ美の本質、地上に輝く究極の宝玉であると、何故貴様等は大人しく認められん。誰に向かつて激昂してゐるのか、赤い彗星構文で。
うらゝうらゝ、メガネを愛で始めるとどうにも止まらない、先に進む。一般職を辞し風俗一本に絞つた、ジム改め二代目かおるがメガネを外してしまふ点まで含め、度し難いメガネ軽視がそれでも恐ろしいことに、谷底ではないんだな、これが。“シャボン玉 壊れて消えずに 飛んで行け”。アバンを一応回収しはする、木津会心の一句に乗せて。ロケワイで奮闘するメイとex.ジムに、事実上寿退職した月山と新しい人生を歩み始めるいつき。ぞんざいに吹き散らかしたシャボン玉で三本柱を適当に彩る、屁のやうなシークエンスが雲散霧消するラストは逆の意味で見事にチェックメイト。この映画の、敗北を確信した。かれこれ、今年からだともう一回り昔か、森山茂雄2011。何一つ変らず、誰一人救はれない世界。地獄に一番近い此岸を、
ペテン師の呉れた魔法の道具で、ヒロインの心が穏やかに包み込む
。陰鬱なロードムービーが行き着いた果てで起きた、森山茂雄が起こした鮮烈な奇跡を、当サイトは未だ忘れてゐない。即ち、掉尾を飾るプロップに、シャボン玉を使ふのは如何せん負け戦なのではあるまいか。竹洞哲也だからどうかうでなく、流石に相手が悪い。
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