真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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2022年08月11日
「
い・ん・び
」(昭和62/製作:にっかつ撮影所/提供:にっかつ/監督:三河周/脚本:横倉晶郎/プロデューサー:半沢浩/企画:作田貴志/撮影:猪木猛/照明:大内成雄/美術:森田正信/編集:川島章正/録音:福島信雅/選曲:山川潔/色彩計測:猪本雅三/助監督:佐藤敏宏/映像技術:pavic/現像:IMAGICA/製作担当:渡辺康治/出演:小川真実・星ひとみ・麻未ゆうか・加賀恵子・丸山秀也・ミッキー柳井・田中健一・中野千秋・倉岡恭平)。さあて、早速大変だ。監督の三河周以下、脚本の横倉晶郎と撮影の猪木猛に照明も大内成雄、あと美術の森田正信が、それぞれ藤浦敦・斉藤猛・野田悌男・内田勝成・内田欣哉の変名。どいつもこいつも、そんなに後ろめたいのか。気持ちの、酌めなくもないけれど。更に出演者中丸山秀也と、田中健一・中野千秋は本篇クレジットのみ。代りに、ポスターには長沢修二とかいふ正体不明の名前が載る。収拾つかない、ドンキでももう少し整頓されてるぞ。
黒バックに嬌声鳴らして、開巻五秒でチャッチャとタイトル・イン。弁護士の菊池森男(倉岡)と、婚約者・小橋由香(星)のラブホテルでの婚前交渉。倉岡恭平が清々しく法律家には映らないのと同時に、広大な額と一度瞼を開いたが最後、常時目をヒン剝いてゐる二番手のルックスも大いに難あり。そして、よしんば諸々勝手の違ふ撮影に足を引かれたにせよ、藤浦敦が斯くも下手だつたとは認識に遠い、体位の移動がとかくへべれけか落ち着きのない散々な絡み初戦を、タイミングの問題なのかカットを雑に飛ばした顔射で兎に角フィニッシュ。結局、そのぞんざいさが初戦に限らないのはひとまづ兎も角、擦り硝子に紙を貼つゝけただけの「菊池法律事務所」。秘書兼男女の仲にもある、桜庭道子(小川)の誘ひを菊池が断つた画期的なタイミングで、由香が事務所を来訪。藪から棒にフィアンセを紹介された、道子は狐につまゝれる。
配役残り、事務所に菊池を訪ねる多分顧客が、この時何があつたのかギブスで右腕を吊つてゐる藤浦敦。出し抜けな別れ当日、道子が一人酒を呷る、バーに十余名のノンクレ部隊が投入。そのうち、ボックス席にてハプニング感覚でディープキスを交すカップルの、女が井上真愉見ぽく見えたのは気の所為かしら。後述する加賀恵子の相続財産である筈なのに、菊池が何故か自由気儘に管理してゐる億ションの一室。道子を伴つた菊池と、エレベーターの乗降口で擦れ違ふ初老の男は不明。よもや、純然たる単なるその場に居合はせた御仁ではなからうな。丸山秀也は、億ションにて菊池が道子を“接待”するかに思はせ、湯を浴びて来た道子を待ち受ける、菊池とタメの関係なのが謎の凡そ堅気らしからぬ男・フジカワ、中野千秋はフジカワの連れ・南。こゝで、「
中沢慶子 ザ・昂奮
」(昭和63/監督:小路谷秀樹/脚本:山中秀男/主演:中沢慶子)を既に通つてゐるにも関らず、どうして気づかなかつたのか己の不明を恥ぢるほかないが、中野千秋は南城千秋と同一人物。南城千秋での活動が確認出来るのは1989年以降につき、恐らくex.中野千秋で南城千秋(a.k.a.南条千秋)となる格好。ついでに目下、今作を遡る中野千秋出演作はザッと探したところ見当たらない。改めて加賀恵子は、何でか知らんけど菊池に優位を握られる未亡人、木に竹も接がない濡れ場要員。億ションの所有権なんて、別にどうでもいゝ。中盤、一切の意図も動機づけも脈略その他何もかも華麗か豪快にスッ飛ばし、道子は億ション―と称した劇中要はヤリ部屋―を内覧させた、男々を食ふ。田中健一が内覧氏の比較的ジェントルな方で、ミッキー柳井は徒にバイオレントな方。蹴倒すは放り投げるは、ミッキー柳井が道子を乱雑に扱ふ都度、一々入るチープな音効もどうしたものか。別に、全部安くしなくて困らないんだよ。同居人の存在は特に描かれず、一人で住んでゐるとしたら不可思議な麻未ゆうかは、洩れ聞こえる嬌声にマントルを営業してゐるものと勘違ひ、道子に接触を図る億ション隣人・森下。
近年新事実の明かされた「落陽」(1992)を等閑視した場合、二ヶ月前の「
痴漢サギ師 まさぐる指先
」(脚本:池田正一/主演:高樹陽子)が一旦のラストかと思ひきや。改名して茶を濁した、といふか変名祭りで泥水状態のロマンXXがあつたとは。寡聞にして知らなかつた藤浦敦シン・暫定最終作、最早何が真実なのかよく判らない。返す刀で、堀内靖博のロマポ最終第五作「
制服くづし
」(脚本:藤長野火子/主演:岬まどか)を、最初で最後一本きりのロマンXXと思ひ込んでゐた、浅学を極めた当サイトの粗忽な早とちりも崩れる、極めるな。ロマンXXの最初で最後は確かにさうなのだが、同日に封切られた二本きりとなる。
心新たにダブルエックスそのものに関しても振り返つておくと、新興するアダルトビデオの大攻勢を受け起死回生を図つた苦肉の策、あるいは矢尽き刀折れた断末魔。ビデオ撮り・本番撮影といふまんま相手の土俵で討つて出た「ロマンX」、並びに上級の―つもりの―「ロマンXX」レーベルについて。公式サイトに文面が掲載されてゐる当時のプレスを大雑把に意訳すると、映像の過激さに偏重した結果、本義である筈の映画が疎かとなつてしまつたエックスの反省を踏まへ、更にエクストリームな性的描写を、映画的興奮と両立させた上で表出せんと目論んだのがダブルエックス。とかいふ、二兎を追ふどころかまるで火に油を注ぐことしか考へてゐない、蹴躓いたのが切り株ですらなく、地雷であつたかのやうな爆死必至のコンセプト。死人を鞭打つにもほどがある、慈しみといふ言葉を知らんのか。
道子が菊池をヤリ部屋に呼び、待機させてゐた森下に捕食させる。そこに続けてフジカワも招き入れ、最後に由香を誘き寄せ大乱交に突入するクライマックスの構成は、案外普通によく出来てゐる。フジカワと森下に制圧されたかに思へた由香が、実は完全に沈黙してはをらず、昔の女と新しい逆玉がヤリチン弁護士を<
共有するに至る
>、女性上位のパンチラインは突かれた不意も含めそれなりに鮮烈。さうは、いふてもだな。バツ印、もとい“X”の数が一個でも二個でも素人目にはてんで見分けがつかない、ロマネスク・シリーズ(適当な仮称)の本質的な欠陥に、今回この期の間際に及んで漸く到達。とうに、既出の周知にさうゐなくとも。それは何ぞやといふと壮絶なキネコ画質と、そこまでAVに寄せる必要も端からない、80年代を結晶化させた趣すら漂ふ、何処までもダサく途方もなく適当なゴミ劇伴、以前に。そもそも、所詮は画面を覆ひ尽くす巨大なモザイクに有難味の有無から甚だ疑はしい、本番撮影の限りなく逆刃に近い諸刃の剣で一見顕著な男優部の影に隠れ結構女優部も、即ち俳優部が総じて絶望的に弱くなる、壊滅的に酷くなる。お芝居の得手不得手どころか、素立ちさせた状態に於ける面相すら覚束ない始末。倉岡恭平に劣るとも勝らず、丸山秀也もミッキー柳井も、よくいつてAV男優くらゐにしか見えないルーズな画の貧しさは如何ともし難い。寧ろ布地の面積の方がより小さい、さういふ網の如く穴だらけの布陣では歴戦の藤浦敦を以てしても、流石に映画として成立し得てゐまい。
オーラス、エンドマークを従へる形でタイトルが再度入るのが、斬新といへば斬新。
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