真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「倒錯みだれ縄」(昭和60/製作・配給:新東宝映画/監督:北川徹/脚本:北川徹・矢島周平/撮影:倉本和人/照明:石部肇/音楽:坂口博樹/編集:J・K・S編集室/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:竹村祐佳・しのざきさとみ・早乙女宏美・下元史朗)。
 カメラが辿る縄の先には竹村祐佳、しのざきさとみに弄られる。雑誌の分類が微妙に判然としない―別に困らんけど―『ニューレディ』誌編集長の倉橋真理子(しのざき)が、近年パッとしない純愛小説家・山添奇里子(竹村)を責めがてら偽装失踪するやう促す。浜野佐知の如く地も割りかねない勢ひで深く根を張るでなく、舌先で適当に転がす程度のミサンドリーを真理子が投げつつ、いはゆる貝合はせに監督と脚本、撮影までしか表示しない新東宝ビデオのど腐れ仕様クレジット。その他はjmdbで補つた、録音と現像に関してはどうせの精神。冬の並木道を奇里子が歩くロングに、VHS題「三井綾子 倒錯縄責め」でのタイトル・イン。ここで三井綾子といふのが、全部で幾つあるのか恐らく御当人も把握されてはゐまい、しのざきさとみのワン・ノブ・名義。当然三井綾子が頭に来て、竹村祐佳・早乙女宏美・下元史朗と続くVHSビリングに対し、当サイトの記載はポスターに従つた。
 波にザッブザブ洗はれる桟橋と、海つ縁のガソリンスタンド。後々見切れる休業の貼紙で、岬で確定した岬ホテルの主人・河井広志(下元)が、ヨット部の後輩・ケンイチ(不明/演出部?)から結局金も払はずに灯油を買つて帰る、それを“買ふ”とはいはない。河合が冬場は大絶賛閑散期の岬に帰り着くと、玄関口に奇里子が。山添奇里子を知らない河合は一見化粧品のセールスかと見紛ひながらも、季節外れの客に手の平を返す。
 配役残り早乙女宏美は、失踪した奇里子を追ふカメラマン・金井由美子。とはいへ、この女も実は『ニューレディ』誌編集部所属の、即ち真理子の手の者。どころか奇里子と同じく百合畑の一輪、色々マッチポンプにもほどがある。
 小屋で観たのは二本、北川徹(a.k.a.磯村一路)の量産型裸映画ラスト八作の残り六本をex.DMMで埋める最後となる、昭和60年第二作。竹村祐佳―と麻生うさぎ―がゐる岬ホテルに、下元史朗がやつて来る。二作前の「緊縛 鞭と縄」(昭和59)を引つ繰り返した格好の、下元史朗が主の岬に竹村祐佳が現れるアンサー・ピンク。
 寂れたホテル―ないし洋館―と、同性愛の女流作家。この時何でまた北川徹がさういふ組み合はせに傾倒してゐたのか、思ひを馳せるだけの気力も今なほ晴れぬ、平成の暗黒を通過しきらずに潰へる。一応舞台に役者が揃ひはするものの、漫然か粗雑でしかない逐一が、高々小一時間を途方もなく感じさせるのは逆向きの映画の魔術、黒魔術か。奇里子が無賃を偽る件は純粋に尺を空費し、早乙女宏美は一脱ぎ二脱ぎしては、何時の間にかゐなくなつてゐる清々しい三番手ぶり。かと思へば岬を後にした筈の由美子が、奇里子の危機に忽然と飛び込んで来るのにはグルッと一周して驚いた。ヤマキリ先生のマッチポンプ失踪の意義を滔々と説く由美子いはく愛の苦悩だ純真だ、挙句の果てに“このまゝ先生の才能を失はせてしまふ”ことが、“少年少女全ての夢を奪ふに等しい”といふに及んでは、全体何をいつてゐやがるのか、河井以前に見るなり観てゐるこつちが全く以てサッパリ判らない。ラストこそ結構凶悪な帰結に無造作に不時着してみせるにせよ、岬デュオロジー前作に引き続き、下元史朗は生温い造形に翼を捥がれる。次々作「お嬢さんのONANIE」(昭和61/矢島周平と共同脚本/主演;田口あゆみ)で一皮剝けるまで、北川徹が総じてモッサリしてゐた印象を、改める要を今回も認めるには至らなかつた。


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