真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ザ・ブラインドキャット」(1992/製作:ファントム プロダクツ/監督・脚本:小林悟/制作・企画・原作:中山康雄/撮影:柳田友貴/照明:佐久間優/美術:安部衛/録音:山崎新司/編集:金子尚樹/殺陣:二家本辰巳/ガンアドバイザー:BIG SHOT/選曲:ビモス/助監督:青柳一夫/制作担当:最上義昌/撮影助手:宮本章裕/照明助手:織田裕介/編集助手:松木朗/効果:井橋正美/小道具:長田征司/ヘアメイク:田中尚美・太田美香/スチール:佐藤初太郎/タイトル:道川昭/車輌:ランナーズ/監督助手:増野琢磨・杜松蓉子/宣伝担当:鵜野新一《キングレコード》/コーディネーター:岡崎恭子《キングレコード》/協力:ホテルニュー塩原・ニューメグロスタジオ・日本コダック㈱・東映化学・KPニュース社/挿入歌:『薔薇の囁き』作詞:千家和也 作曲:葵まさひこ 編曲:葵まさひこ 唄:中村晃子《キングレコード》/出演:高橋めぐみ・国舞亜矢・片桐竜次・牧冬吉・野口貴史・二家本辰巳・沢まどか・港雄一・山本竜二・白戸正一・石神一・芳田正浩・奈切勝也・池田龍二・丘慎二・塚田亘・熊倉盛揮・石井浩・宮崎基・松岡稜士・所博昭・大滝明利・甲斐純一郎・米沢裕・宮田博一・福永喜一・前田悟・高野ひろき・中島正・浅野桃里/特別出演:淡谷のり子・岡部瑞穂・中村晃子)。
 川の中、一対三で乱闘する大滝明利。ザックリした塩原温泉の遠景に、唐突なタイトル・イン。鳴り始めた歌謡曲のやうな劇伴に即効不安を覚えかけてゐたら、要は主題歌の歌謡曲だつた、イントロぢやねえか。JRバス関東塩原温泉駅に降り立つた、盲目で流しのマッサージ嬢、だなどと如何にもアレしかない設定の宮川霧子(高橋)が、逃げる大滝(大絶賛仮名)と早速ドンピシャのタイミングで交錯する。大滝が兄貴分の中西(不明)と、何某か大きな取引に使ふと思しき―ヌード写真のテレカを加工した―割符を確認する、準備中の喫茶店「キャンドル」に霧子も入店。目が見えないのを看て取り、脊髄で折り返して手を出さうとした二人を、霧子は合気系の長けた体術でサクッと斥ける。退散させた霧子が仕込み杖で三人屠る死闘を回想して曰く、「私はまた、抗争事件に巻き込まれるのかしら」。何が“また”なのだか全ッ然判らないが、兎に角要は女座頭市がヤクザと一戦交へる、本筋に強引か豪快に導入するダイナマイトな独白に震へる。続けて―だから開店前の―キャンドルに現れた、割符を狙つてゐるぽい田宮章子(国舞)を霧子は捕獲。章子から聞いた町の様子が、三年前に地場の組が解散して以来、大組織傘下の東雲興業が進出。売春・麻薬・賭博に闇金と、温泉街を好き放題に荒らしてゐた。とりあへず「CAT美療」―全角は劇中小道具ママ―のチラシを撒いて回る霧子は、章子の口利きで実名登場「ホテルニュー塩原」の専属に納まる運びとなる。
 辿り着ける限りの配役残り、幾らヒット・アンド・アウェイな一幕限りの出演にしても、何がどう転んだコネクションなのか見当もつかない淡谷のり子は、ホテルニュー塩原の女将。女将補佐的な風情で付き従ふ岡部瑞穂が、ニュー塩原の当時リアル女将。流石に淡谷のり子ともなると、リアル女将を従へて些かの遜色もない貫禄がある。小林組刻印の火蓋を切る白戸正一と沢まどかは、女将のドラ息子とそのお目付役。白戸正一といふのが、寡聞にしてこれまで知らなかつたが前年薔薇族での、白都翔一デビュー当初の旧名義。音は変へずに、随分と華々しくなつた。白影役で御馴染の牧冬吉は、霧子の塩原最初の客・平林。東雲が画策する大規模な拳銃密輸入を追ひ塩原に入つた、警視庁特捜部の刑事、てんで役には立たないけれど。片桐竜次が、当然中島もとい中西らも草鞋を脱ぐ東雲興業の、肩書はあくまで社長・西東。野口貴史が代貸で、二家本辰巳は本部づきの針木。そして矢張りこの人がゐないと、小林悟の映画は始まらない。中途半端なビリングは解せぬ港雄一が章子の祖父で、四年前の昏倒以来、床に臥せるシンジロウ。一年後に解散した、田宮一家の十代目。浅野桃里は、白戸正一が入れ揚げるキャバレーのホステス・テルちやん。実は中西の情婦とかいふ、類型的な関係性が清々しい。奈切勝也は博打で負け東雲に三千万の借金をこさへる、シンジロウに対する呼称がお爺ちやんの割に、兄貴かと思ひきや章子からは叔父さんとか呼ばれる釈然としない親族。石神一と芳田正浩は、終盤東雲が田宮家に乗り込み、章子が囚はれて以降大活躍する東雲要員。ピンク部・ストリーム・アタックのトリを務める山本竜二が、一度は針木に屈し拘束された霧子と、サシの絡みも敢行する黒沢か黒澤。満を持してといふか何といふか、兎も角途方もないデウス・エクス・マキナぶりを爆裂させる中村晃子は、未確認飛行物体みたいな帽子を被つた片桐警視。
 ほかの記載が見当たらないjmdbを鵜呑みにするならば、大御大・小林悟最初で最後のVシネ、変名とかもう知らん。案外素手の格闘も普通にこなし、得物は仕込み杖に加へ暗器も駆使するだけでなく、果てはデリンジャー的な小型拳銃まで携行する霧子の、非常識に高い戦闘力の所以なりバックグラウンドに半カットたりとて触れることもないまゝに、粛々と、あるいは―概ね―テンプレ通りに進行する湯煙エロティック・バイオレンス。興味深いのが高橋めぐみの女座頭市が、綾瀬はるかには及ばない程度にサマになる。ダッチワイフ顔の最大の元凶たる、見る者を不安にさせる病的に表情のない目をサングラスで隠すと、まあまあの美人で通らなくもない。大浴場に於いての立回りで明らかな如く、どうやらスタントダブルも使はずに、体もそこそこそれなりに動く。そしてピンクゴッド・小林悟を連れて来ておいて、女の裸的に手ぶらで帰す訳がない、筈。割符以外の初オッパイは、二十四分漸く浸かる、主演女優の風呂まで待たせる。その後も浅野桃里と白都翔一による濡れ場らしい濡れ場がありつつも、超絶スタイルの国舞亜矢を全体何処まで温存する気なのかと、さんざやきもきさせ倒しての終盤。やつとこさ石神一と芳田正浩が抜群のコンビネーションでヒン剥いた!と歓喜させたのも束の間、難解な画角で頑なにTKB―剝かれる際、瞬間的に見切れてはゐる―は回避するのかと、一旦落胆させておいて。遂に解禁、しはしたものの。折角なのでそこは、ねちねち執拗に揉み込むショットが、どうしても欲しかつた心は大いに残す。無論、小林悟ならではのフリーダム通り越してブルータルなツッコミ処は満載を超えた過積載。霧子の明々白々な銃刀法違反は歯牙にもかけられず、元々半死半生のシンジロウはおろか、章子をもが何時の間にか命を落としてゐたりする無体な展開には、虚無に片足突つ込んだドライなビートが吹き荒れる。ドスを抜いた針木がシンジロウをサクッと刺す、無造作なカットに吃驚したのが方向の正否は問はないベクトルの最大値。挙句最終的には、中村晃子が美味しいところを全部カッ浚ふといふか、より直截には卓袱台を床板ごと引つ繰り返す。ついでに、デリンジャーが走つて逃げる相手に当たるどころか届くのか?そもそも小林悟が招聘された企画の経緯自体謎といへば謎な、出鱈目なおかずばかりの幕の内弁当を思はせる一作。人様に臆面か性懲りもなく勧められるくらゐ面白くもないが、途中で見るのをやめてしまふのを我慢するほどでもない。世評はこつちの方が高い、続篇の「妖闘地帯 KIRIKO」(1994/製作:ジャパンホームビデオ/監督:宮坂武志/脚本:宮坂武志・内藤忠司・中村雅/主演:高橋めぐみ)も今作同様素のDMMに入つてゐるゆゑ、何時か遠く時の輪の接する辺りで、気が向いたら見てみよう。


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