真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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馬と女と犬
さ行
/
2018年10月23日
「
馬と女と犬
」(1990/製作:メディアトップ/配給:新東宝映画/監督:佐藤寿保/脚本:夢野史郎/撮影:稲吉雅志/照明:千鳥修司/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/監督助手:吉田国文、他一名/照明助手:岡野敏二/音楽:早川創/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:岸加奈子・佐野和宏・佐々木ゆり・上原絵美・小林節彦・高橋達也)。不得手な時代の情報量以前に、本当にザックザク駆け抜けるクレジットに憤死する。
新東宝よりも先に、国立映画アーカイブの前身・東京国立近代美術館フィルムセンターのロゴで開巻。波打ち際、岸加奈子が打ち上げられる。そこに佐野和宏が現れ、背中から両足首を肩に担ぐ形で岸加奈子を運ぶ、既に水死したものとでも思つてゐるのか。雨風を凌ぐのも怪しいボッロボロの廃屋にて、佐野はキシカナをポラロイドで撮影する。馬の手綱を引いた、全裸の女の後姿にタイトル・イン。明けは双眼鏡を構へた、目元にスリリングな齢を感じさせる女。え、この女が脱ぐの?舞台は「
馬を飼ふ人妻
」(2001/脚本:石川欣/主演:朝吹ケイト)その他で下元哲がよく使つてゐた、コンドミニアム「グランド・ヴィュー・一宮」ぽく映る。「グランド・ヴィュー・一宮」が、1990年当時既に完成してゐたのか否かは確認出来ず。女主人あるいは女王の矢野牧(佐々木)が、下僕の木島伸(小林)と津田晃久(高橋)に木山紀江(上原)を凌辱させる。改めて確認しておくと、ex.上原絵美が、当サイトが結婚したい女優第一位の石川恵美。今作のハードな扱ひでは、穏やかに朗らかな、石川恵美の持ち味は微塵も活かされないけれど。逆に、何時観ても小林節彦はヒャッハーな造形がサマになる。それとこの人は昔から老け顔につき、余程痩せてもゐないと驚かされるほどの若さは感じさせない。WAM的に何某かの食べ物で紀江の体を汚したかと思ふと、御犬様(犬種とか判らん)大登場、紀江は犬にも犯される。意識を取り戻した早川夕子(岸)の前に御馬様を連れ現れた厩務員の右田亮(佐野)は、馬が女王の所有物である旨告げる。自身に向けられた、右田の歪んだ欲望をウッスラ夢の形で認識しつつ、夕子は、過去の記憶を何も覚えてゐなかつた。
配役は猫一匹残らないが、“人間と動物が絡み合ふ王国”だなどと称して、自分よりも若い女にヒステリックな暴虐を振るふ牧を、テラスで木島と津田がアル中女と実も蓋もなく揶揄する件。遠目に車列が見えるのは、海に隔絶された異界といつた風情の、舞台設定的には何気にシリアスな粗相ではあるまいか。
前年の「フィルマゲドンⅢ」に続く、カナザワ映画祭(2007~)の於小倉昭和館地方開催企画第二弾「死と禁忌」で着弾した、佐藤寿保1990年第三作。ペケ街では新東宝最大級のヒットを飛ばしたとか、半公式的に謳はれる一作。因みにこちらは公式のエクセス最大が、浜野佐知1995年第一作「
犬とをばさん
」(脚本:山崎邦紀/主演:辻真亜子)。市場がそんなに獣姦が好きならば、オーピーは今こそ討つて出るべきではないのか。プラスのR15に納まりきらず、元も子もなくなるのかしらん。
兎にも角にも、上原絵美が御犬様で、御馬様は岸加奈子。ザラッと駆け抜けるカットの中女優部が半狂乱に泣き叫ぶ、獣姦シークエンスはよしんば所詮演技に過ぎなくとも、何れも物凄い迫力。当時の度肝を抜かれた観客席が、今なほ決して想像に難くない。“吾、蒼褪めたる馬を見たり”、“その馬に跨る者の名を、死といふ”。お馬さんがゐないと始まらない物語につき、ヨハネ黙示録第6章第8節を持ち出すペダンティックな飛び道具も効果的に、来し方を喪つた夕子を、左右から腕を引つ張り合ふかのやうに右田と牧が取り合ふ、越前不在の大岡裁きの如き展開は走る。正方向に面白い映画がなッかなか浮かばない色物中の色物企画、あるいは下手打ちの鉄砲が積もらせた塵のまゝの堆積物から、遂に佐藤寿保×夢野史郎が一撃必殺のマスターピースを撃ち抜いて、ゐたのこれ?今時35mmフィルム映写でピンクが見られるだけ有難い話にせよ、まあ全篇を通してプリントが坂上二郎ばりに飛び倒す飛び倒す。時計を見るに、ザッと三分は飛んでゐる。繋ぎの画なり百歩譲つて濡れ場はまだしも、台詞を中途で端折られては、ただでさへ雰囲気勝負の奇譚が、雲散霧消も通り越して木端微塵、さつぱり訳が判りやしねえ。通して観たとしても、矢張り判らないのかも知れないけれど。ついでに、プリミティブな修羅場、あるいは三年後も
全く進歩してゐないドミノな死屍累々
には頭を抱へた。刃傷沙汰を満足に描けぬ演出家か脚本家に、拳銃を渡すのはやめた方がいゝ、粗雑なギャグにしか見えない。右田は夕子と、二人して王国を離れようとする。何か思ひだすまでと二の足を踏む夕子に、右田は「思ひだすために出て行くんだ」。佐野和宏の青いエモーションが爆裂する遣り取りを先の尖つた頂点に、佐野とキシカナの絡みは乳尻があらうとなからうと画になる。ここはひとまづ、それでよしとしようぢやないか。より直截には、それでよしとでもしておかないとしやうがない。
それにつけても、「馬と犬と女」。どストレートな公開題が、絵画的なタイトルバック込みで超絶カッコいゝ、何処かTシャツ作らんかいな。
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