真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「馬と女と犬」(1990/製作:メディアトップ/配給:新東宝映画/監督:佐藤寿保/脚本:夢野史郎/撮影:稲吉雅志/照明:千鳥修司/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/監督助手:吉田国文、他一名/照明助手:岡野敏二/音楽:早川創/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:岸加奈子・佐野和宏・佐々木ゆり・上原絵美・小林節彦・高橋達也)。不得手な時代の情報量以前に、本当にザックザク駆け抜けるクレジットに憤死する。
 新東宝よりも先に、国立映画アーカイブの前身・東京国立近代美術館フィルムセンターのロゴで開巻。波打ち際、岸加奈子が打ち上げられる。そこに佐野和宏が現れ、背中から両足首を肩に担ぐ形で岸加奈子を運ぶ、既に水死したものとでも思つてゐるのか。雨風を凌ぐのも怪しいボッロボロの廃屋にて、佐野はキシカナをポラロイドで撮影する。馬の手綱を引いた、全裸の女の後姿にタイトル・イン。明けは双眼鏡を構へた、目元にスリリングな齢を感じさせる女。え、この女が脱ぐの?舞台は「馬を飼ふ人妻」(2001/脚本:石川欣/主演:朝吹ケイト)その他で下元哲がよく使つてゐた、コンドミニアム「グランド・ヴィュー・一宮」ぽく映る。「グランド・ヴィュー・一宮」が、1990年当時既に完成してゐたのか否かは確認出来ず。女主人あるいは女王の矢野牧(佐々木)が、下僕の木島伸(小林)と津田晃久(高橋)に木山紀江(上原)を凌辱させる。改めて確認しておくと、ex.上原絵美が、当サイトが結婚したい女優第一位の石川恵美。今作のハードな扱ひでは、穏やかに朗らかな、石川恵美の持ち味は微塵も活かされないけれど。逆に、何時観ても小林節彦はヒャッハーな造形がサマになる。それとこの人は昔から老け顔につき、余程痩せてもゐないと驚かされるほどの若さは感じさせない。WAM的に何某かの食べ物で紀江の体を汚したかと思ふと、御犬様(犬種とか判らん)大登場、紀江は犬にも犯される。意識を取り戻した早川夕子(岸)の前に御馬様を連れ現れた厩務員の右田亮(佐野)は、馬が女王の所有物である旨告げる。自身に向けられた、右田の歪んだ欲望をウッスラ夢の形で認識しつつ、夕子は、過去の記憶を何も覚えてゐなかつた。
 配役は猫一匹残らないが、“人間と動物が絡み合ふ王国”だなどと称して、自分よりも若い女にヒステリックな暴虐を振るふ牧を、テラスで木島と津田がアル中女と実も蓋もなく揶揄する件。遠目に車列が見えるのは、海に隔絶された異界といつた風情の、舞台設定的には何気にシリアスな粗相ではあるまいか。
 前年の「フィルマゲドンⅢ」に続く、カナザワ映画祭(2007~)の於小倉昭和館地方開催企画第二弾「死と禁忌」で着弾した、佐藤寿保1990年第三作。ペケ街では新東宝最大級のヒットを飛ばしたとか、半公式的に謳はれる一作。因みにこちらは公式のエクセス最大が、浜野佐知1995年第一作「犬とをばさん」(脚本:山崎邦紀/主演:辻真亜子)。市場がそんなに獣姦が好きならば、オーピーは今こそ討つて出るべきではないのか。プラスのR15に納まりきらず、元も子もなくなるのかしらん。
 兎にも角にも、上原絵美が御犬様で、御馬様は岸加奈子。ザラッと駆け抜けるカットの中女優部が半狂乱に泣き叫ぶ、獣姦シークエンスはよしんば所詮演技に過ぎなくとも、何れも物凄い迫力。当時の度肝を抜かれた観客席が、今なほ決して想像に難くない。“吾、蒼褪めたる馬を見たり”、“その馬に跨る者の名を、死といふ”。お馬さんがゐないと始まらない物語につき、ヨハネ黙示録第6章第8節を持ち出すペダンティックな飛び道具も効果的に、来し方を喪つた夕子を、左右から腕を引つ張り合ふかのやうに右田と牧が取り合ふ、越前不在の大岡裁きの如き展開は走る。正方向に面白い映画がなッかなか浮かばない色物中の色物企画、あるいは下手打ちの鉄砲が積もらせた塵のまゝの堆積物から、遂に佐藤寿保×夢野史郎が一撃必殺のマスターピースを撃ち抜いて、ゐたのこれ?今時35mmフィルム映写でピンクが見られるだけ有難い話にせよ、まあ全篇を通してプリントが坂上二郎ばりに飛び倒す飛び倒す。時計を見るに、ザッと三分は飛んでゐる。繋ぎの画なり百歩譲つて濡れ場はまだしも、台詞を中途で端折られては、ただでさへ雰囲気勝負の奇譚が、雲散霧消も通り越して木端微塵、さつぱり訳が判りやしねえ。通して観たとしても、矢張り判らないのかも知れないけれど。ついでに、プリミティブな修羅場、あるいは三年後も全く進歩してゐないドミノな死屍累々には頭を抱へた。刃傷沙汰を満足に描けぬ演出家か脚本家に、拳銃を渡すのはやめた方がいゝ、粗雑なギャグにしか見えない。右田は夕子と、二人して王国を離れようとする。何か思ひだすまでと二の足を踏む夕子に、右田は「思ひだすために出て行くんだ」。佐野和宏の青いエモーションが爆裂する遣り取りを先の尖つた頂点に、佐野とキシカナの絡みは乳尻があらうとなからうと画になる。ここはひとまづ、それでよしとしようぢやないか。より直截には、それでよしとでもしておかないとしやうがない。

 それにつけても、「馬と犬と女」。どストレートな公開題が、絵画的なタイトルバック込みで超絶カッコいゝ、何処かTシャツ作らんかいな。


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