真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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性器の大実験 発電しびれ腰
山﨑邦紀
/
2017年12月24日
「
性器の大実験 発電しびれ腰
」(2017/制作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影:小山田勝治/撮影助手:伊藤尚輝/照明:ガッツ/録音:山口勉・廣木邦人/助監督:小関裕次郎・江尻大/編集:有馬潜/音楽:中空龍/整音・音響効果:若林大記/録音スタジオ:シンクワイヤ/ポスター撮影:MAYA/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:バイブ☆マイスター 桃子・pop life department m's・LOVE PIECE CLUB・SSI JAPAN・Sex Toys Wild One since 1991・VIBE BAR WILD ONE/出演:東凛・西内るな・酒井あずさ・山本宗介・永井聖二・細川佳央)。照明のガッツは、守利賢一の変名、しかしEJDがKSUの下につくのには軽く驚いた。
抜けるやうな青空を背負つた送電鉄塔、からカメラが下パンすると、麓には赤い革のジャケットが映える東凛。海星(ひとで、ではなくしてうみほし/東凛)が鉄塔に向かつて「あなたは私のライバルよ」と宣言するや耳慣れぬテクノ起動、アカヒトデの画像にタイトル・イン。同じ主演女優が、前作では
東京タワーと結婚
してゐたにも関らず、鉄塔に“あなた”と呼びかけるのはまだしも今回は好敵手。擦れ合ふ連続と正反対の非連続とがパチパチ散らす火花に、観れば観るほど面白い、量産型娯楽映画の神髄を見ゆる。
“さよなら、男根。チンコなんて、もう要らない”を謳ひバイブ☆マイスターとして活動する海星が、旗印を偽らず自らバイブでオナニー。首には安普請の銀のベルトが巻かれ、傍らには随時点灯する三基並んだプラズマボールと、電気ケトル。事後、海星は自力で淹れたコーヒーを愉しむ。“初めに睾丸ありき”なる形而上学を標榜するマスキュリズム団体、「睾丸系男子ボールズ本舗」。代表のボールズ(細川)の下に、結婚十年の配偶者から未だ夫婦生活でエクスタシーに達したことがない旨を告白され、ショックを受けた鮭尾(永井)が相談に訪れる。一方、鮭尾の妻である香魚子(西内)は香魚子で、海星のカウンセリングを受ける。男と女の腐れ縁的にドサ回りを続ける、海星の先輩で歌手の海月(酒井)と、そのマネージャーのメバル(山本)も海星の前に。最終的には獄死した、師匠からも嫌はれたフロイト一門異端の精神分析学者、ヴィルヘルム・ライヒ(1897~1957)。緊張→荷電→放出→弛緩のプロセスで、性的絶頂に際し体内で発生した電気が体外に放出される。ライヒが唱へた「オルガスムの法則」に基づいた、オナニーによる文字通りの自家発電で日常生活に使ふ電力を賄ひ、究極的には脱原発の大志をも目論む海星は、香魚子らとの出会ひなり再会を通して男女のセックスによる発電量にグルッと一周して注目、ボールズに接触を図る。ところでヒトデが正真正銘全篇を貫く主モチーフたる所以は、雌雄同体あるいは卵だけによる単為生殖、更には分離した分体の再生と、ひとつの個体だけで増殖し得るヒトデの特性に向けられた海星の羨望。さういふ芸当もヒトデくらゐだから出来るんだよといふ無粋なツッコミは、控へるべきだ。
1995年第一作「
痴漢電車 覗いて嗅ぐ!
」(山崎邦紀名義/主演:石原ゆり)、翌1996年第一作「痴漢電車 痴女丸出し」(山崎邦紀名義/主演:白石奈津子/未見)に、1998年第一作「
痴漢電車 おさはり多発恥帯
」(主演:篠原さゆり)。年末封切りの次作「痴漢電車 変態の夢と現実」(主演:東凛)で二十年ぶり!四度目となる、大蔵伝統の栄えある正月痴漢電車を射止めた山﨑邦紀の2017年第一作。因みに山﨑邦紀は痴漢電車自体、「おさはり多発恥帯」以来。といふか山﨑邦紀どころか、実は浜野佐知も1996年ピンク第三作「
痴漢電車 貝いぢり
」(脚本:山崎邦紀/主演:永尾和生)を最後に痴漢電車から離れてゐるゆゑ、旦々舎単位で二十年ぶりの痴漢電車となる、
松岡誠のデビュー作
を等閑視するならば。
オーピーとの手打ち以降ノリッノリで快走する山﨑邦紀が、1996年ピンク第三作「
性感治療 いぢり泣く
」(山崎邦紀名義/主演:永尾和生)を原典に、大好きなライヒ大先生―今だとライヒ役に太三で、映画にも出せさうな気がする―のオルゴン理論を華麗に援用した脱原発ピンクに挑むとあつては、俄然期待も膨らむ、ところではあつたのだけれど。またしても肩に余計な力が入つてか、“当時”仕損じた2012年第一作の放射能ピンク「
人妻の恥臭 ぬめる股ぐら
」(坂口安吾『白痴』+『風博士』を翻案/主演:大城かえで)のリベンジはならず。オルガスム発電なる奇想中の奇想まではいいとして、問題がその奇想を十全に通さうとするあまり―ボー本のキン冷法に関しても―説明過多に陥り、これで尺がフィルム時代の60分であつたならば全体がキュッと締まる望みがまだ繋がれてゐたのかも知れないものの、如何せんテンポが悪い。原発の返す刀で、海星が改めてチンコに決別するラストは、東凛の爽快な突破力も借り形になつてゐなくもないにせよ、そもそも事そこに至る展開そのものも薄く、終始マッタリと間延びした印象が兎にも角にも禁じ難い。重ねて、あるいは加へて。序盤早々火に油を注いで露呈する致命傷が、野村貴浩の歯を治した代償に、華を地味な一般人レベルにまで抜いたが如き永井聖二。ただでさへ最小限の頭数に開いた大穴は否応なく、我等がナオヒーローこと平川直大がゐて呉れたらといふのは、ファン心理の牽強付会に止(とど)まるものでは必ずしもあるまい。そんな中でも見所は、多彩な提供元に支へられた、濡れ場を彩るジョイトイの数々。海星が香魚子に施す、Happyプッチンプリン大の容器を乳房に被せた上で、乳輪ごと吸ひ上げた乳首を四個の極小ローターで責める器具が、実際にスイッチを入れた途端アンアン大声で喘ぎ始めるほど気持ちいいのか否かは兎も角、画的に実にどエロくて素晴らしい。
更にもう一吹き、蛇足気味の野暮を。海星が実用化にまで漕ぎつけたオルガスム発電について再度整理すると、性的絶頂の際放出された電気はそれだけでは微弱ゆゑ、日常生活に供するには“増幅器”―劇中用語ママ―でアンプする要があるのだが、ところでその増幅器とやらは、熱力第一法則には反してゐないのか?といふ脊髄で折り返した素人考へが、最大のネックではある。
更に更にもう一吹き、今度は蛇足ではなく、2018年のピンク映画を左右しかねない重大特報である。二十九日公開の「痴漢電車 変態の夢と現実」に於いて、何と岡輝男が「
露出願望 見られたい人妻
」(2014/脚本・監督:国沢☆実/主演:あいださくら)以来の電撃大復帰を遂げる。横浜の映画館―ジャック&ベティ辺りか―で偶々ミーツした浜野佐知が声をかけ、出演が決定したとのこと。そんな・・・まるで、まるで映画のシークエンスみたいな話ぢやないか!
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