真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「レイプ秘書 監禁飼育」(1993『白昼レイプ 監禁秘書室』の1998年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:石部肇/音楽:新映像音楽/効果:協立音響/編集:井上和夫/助監督:近藤英総/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:幸あすか・佐伯麗子・朝比奈樹里・牧村耕二・木下雅之・羽田勝博)。出演者中牧村耕二が、ポスターには牧村耕治。
 走るスティックを適宜ギターが追ふ、矢鱈とカッコいい劇伴鳴る中、カレンダー的には三連休中の理研南販秘書室に悲鳴が木霊する。営業所所長の杉田(牧村)が、秘書の西條るり子(幸)をレイプする。派手に飛ぶカットに目を疑つてみたりもしつつ、あれを見ろと杉田がるり子に促すモニターに映し出されたのは、パケ写的な幸あすかのヌード写真に続いて、今し方の映像が流れる本篇ママで“西條るり子犯しの淫らな痴態全記録”。1993年当時に、杉田は会社にどんなシステムを構築してやがつたんだよ!といふツッコミ処も兎も角、木に接いだ竹を微塵も厭はぬ唐突か闇雲なモチーフの放り込みやうは、如何にもタマルミックではある。要は、単なる旦那譲りに過ぎぬのかも知れないが。杉田はるり子を三日間犯し倒す腹で、幸あすかの右肩に実際に彫られてゐる蝶の刺青は、愛人関係にある御曹司の常務に入れられたとかいふ設定。杉田が半身のるり子をグイと正対させるのに合はせて、花冠が何かよく判らん書類の上に飛んでタイトル・イン。闇雲なものは下手にしつかり見せる癖に、枝葉ともいへ状況の描写に必要な小道具をどうしてちやんと映さないのか。
 配役残り、事の中途で杉田が移行した手マンの、更に中途で適当に画を繋いで渋谷駅。佐伯麗子と、革のジャケットがカッチョいい羽田勝博が落ち合ふ。ハチ公の足の間から遠くの全然何でもない雑踏にピントを送るカットは、全体何がしたかつたのか。タマルミの巨大な不条理に、撮影部も呑み込まれてしまつたのであらうか。朝比奈樹里は杉田の細君・アイコ?で、木下雅之が、件の御曹司常務。都合二度濡れ場を展開しながら、何処の誰だか欠片たりとて説明しないまゝ尺は勝手に進む佐伯麗子と羽勝が、営業所の事務員多分河合と、その彼氏で元社員の青木と判明するのは、差しかゝるどころか終盤に首まで浸かつた五十分前。仮に、純粋に全篇マクガフィンのみで映画を撮り上げたならば、こんな感じになるのかな。
 日々の糧を食む為の雑業の多忙ぶりに癇癪を起こし、オッ始めてみた珠瑠美殲滅戦も、DMMに残す弾はあと三本となつた1993年第一作。小屋に未見のタマキューが飛び込んで来る奇跡が、今後再び起こることがあるものやらないものやら、やらやら。
 るり子を監禁飼育―何と瞬着で手の平をソファーに固定!―する一方、「一応女房の方にも乗つてやるか」とド外道の杉田が一時帰宅。アイコもアイコで夫婦交換に味を占めるやうな女で、一筋縄では行かない夫婦生活を繰り広げるのを、羽勝と佐伯麗子の第二戦挿んで何と二往復する中盤、映画の底は見事なまでに完全に抜ける。何がしたいのかとかどうする気なんだといつた、疑問を持つた方が負け。珠瑠美の絶対不敗ぶりに改めて圧倒されながらも、超絶の三本柱に支へられ、裸映画としては文句なく安定する。といふか、どうせ物語らしい物語も存在しないのだから、タマキューこそ三十分に短縮してリリースするに最適な素材にも思へる、何時の時代の話してるんだよ。如何にザックザク切つたとて、恐らくでさへなく、出来栄えが対して変りはしまい。プリミティブな意味で予測不能な展開は、理不尽な終盤に突入。のうのうとバレてのけるが、拘束を“劇薬角化皮質溶液ケラチナミン”で強制解除したるり子を、よもやまさか自宅に招いた杉田曰く、ビデオを返して欲しくば、巴戦で嫁を満足させろ。どうすれば斯様な途方もない方便が成立し得るのか、何か人智を超えた大いなる存在に、到底辿り着き難い深遠な謎を投げかけられでもしてゐるかのやうな気がして来た。この亭主にして、この女房あり。“世界一の動物ショー”と称して金魚をるり子の蛤に捻じ込むアイコも、「これは熱帯魚ぢやないのよ、さぞ中で苦しがつて暴れるでせうよ」、熱帯魚ぢやなくても暴れる。便意を訴へたゆゑ仕方なく手洗ひに入れたるり子が、なッかなか出て来ないのにしびれを切らせ、杉田夫婦は不自然か無防備極まりなくも劇中三度目の夫婦生活。この二人、何だかんだ普通にお盛んではある。それはさて措き、その隙に手洗ひから脱け出したるり子は、杉田のビデオで杉田夫婦の営みを撮影しての、ヒットならぬショット・アンド・アウェイ。待てよと不意を突かれた牧村耕二のストップモーションに叩き込まれるENDには、この際完敗を認めるほかはない。完璧、何かもう完璧、タマキューはこれで完璧。正確にいふと、タマキューはこれでカ・ン・ペ・キ、錯乱してんのか。

 一点―だけ―もしかすると正方向に興味深いのが、瞬着で手の平を固定したるり子を、杉田は剃毛、したかと思へば。剃つたばかりの、本当に剃つた即座の土手に付け髭を貼り悦に入る屈折した倒錯性は、性転換した末のパートナーが、男かと思へばビアンの女だなどといふ、アニキとアネキの間を取つてアヌキ・ウォシャウスキーにも通ずるものがあると思ふ。正しくな、グルッと一周した感。


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