真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「うぶ肌の愛人」(2000/製作:小林プロダクション/配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:山瀬よいこ/撮影:飯岡聖英/照明:ICE&T/編集:井上和夫/美術:飛鷹純/助監督:竹洞哲也/スチール:佐藤初太郎/監督助手:加藤義一/撮影助手:堂前徹之・板倉陽子/タイトル:長谷川プロ/録音:シネキャビン/現像:東映科学《株》/協力:新宿セーラーズ 03-5273-8799/撮影協力:劇団華/出演:吉沢綾・夏目麻美・須賀美ゆり・南けい子・根本ひろみ・宮本妙織・山田和美・小野有美・島貫孝子・小澤ひとみ・及川亜希子・松永由佳子・剣幸志・中村総司・柏原秀隆・高木信弘・坂入正三・港雄一)。出演者中吉沢綾がポスターには吉澤綾で、宮本妙織から高木信弘までは本篇クレジットのみ。
 机の下、男の足が女の和服の裾を乱してタイトル・イン。裸映画的に小洒落た開巻ではありつつ、悪くないのはここまで。そこまでなのかよ、勝負つくの早過ぎるだろ。渋く煙草を傾ける男は会社社長の横井ヨウジ(港)で、派手なネイルが和装に似合はない女は、十六年関係の続く愛人のサトミ(夏目)。横井の娘の菜香子が、実の母親よりもサトミに懐いてゐる外堀を埋めた上で、横井はサトミに、妻のユキエから離縁を切り出された本題をぶつける。明けた先はまさかの、多分加藤義一の選曲によるデスメタルが爆音で鳴るビアンバー。菜香子(吉沢)はカウンターから見初めたボックス席のキヨコ(須賀美)と、手洗ひにて情を交す。事後、菜香子とは懇意のバーテンダー(根本)に菜香子がバイである旨を聞いた、真性ビアンのキヨコは匙を投げる。ところで菜香子の両刀設定には、主演女優の絡みの回数を自然に、あるいは自堕落に増やす以外の意味は特にない。
 闇雲に膨大な俳優部、配役残り宮本妙織から松永由佳子までがビアンバー要員。剣幸志から高木信弘までは、サトミが横井に持たせて貰つた居酒屋の客要員。特定出来たのは、サトミの店から最後に捌ける剣幸志のみ。南けい子が編集長の職につくユキエで、何か怪我でもしたのか左頬に大きな絆創膏の目立つ坂入正三が、ユキエの間男で出入りのカメラマン。
 どういつた縁なのかものの弾みか、前作薔薇族「炎馬の如く」に続いてライターの山瀬よいこを脚本に迎へたピンク限定で小林悟2000年第三作。謎の大量動員に面喰ふのは、ピンクの観方が卦体な当サイトの勝手にしても、展開自体もある意味順調に迷走、逆の意味だ。レース越しの被写体にソフトフォーカスかと見紛ふほどのハイキーな照明を当てるとなると、飯岡聖英がまるで坂本太と下元哲を足して二で割つたやうな画面で撮りあげる菜香子とサトミが出し抜けに大輪を咲き誇らせる百合が、普通に見てゐて完ッ全にクライマックスにしか見えないテンションにも関らず、尺をまだ二十分残しやがるんだな、これが。以降実はサトミの兄でもあつた予想外か藪蛇な劇中世間の狭さを炸裂させるサカショーに、何故か菜香子が籠絡される最早蛇だか百足だか判らなくなる一幕を経て、改めて締めを担ふのはサトミと松井。締りなんぞしないのは、この期にいふまでもあるまいが。ことここに至つて露呈する今作の致命傷は、恐らく山瀬よいこが少なくとも十全に表現出来てはゐない、父娘双方向に対するサトミの複雑な心境を、どうせといふか畢竟とでもいふか、小林悟も小林悟でてんで理解してをらず、となると当然、見るなり観てゐるこちらにも伝はる訳がない。ないまゝに、最終的には濡れ場で作劇を放り投げるのが何時もの大御大仕事。この時期の映画となると故福岡オークラで観てゐておかしくはない筈なのだが、欠片も残つてゐなかつたのか、全く以て初見の印象。それとも、素直に寝てたのか。


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