真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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陶酔妻 白濁に濡れる柔肌
か行
/
2016年09月26日
「
陶酔妻 白濁に濡れる柔肌
」(2016/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:高橋祐太/撮影・照明:飯岡聖英・海津真也/撮影助手:宮原かおり/照明助手:広瀬寛巳/録音:小林徹哉/助監督:菊島稔章・青木真/編集:酒井編集室/カラリスト:如月生雄/スチール:本田あきら/音楽:與語一平/整音:シネキャビン/機材:《有》アシスト/タイトル:小関裕次郎/協力:はきだめ造形・小川隆史/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:美泉咲・吉川いと・清水五郎・浦町夏鳴・市川裕隆・星野あかり)。
前作
から二作続けて、姓と名の間に何も挿まない無印国沢実、何事か心境の変化でもあつたのか。
こちらも前作から使用の、鮮血飛び散る新ロゴ開巻。富士を遠く望む街景噛ませて、階段を連れ立つて下りる清水五郎と美泉咲と、下から上がつて来る星野あかりとが交錯する。今回何気に、野外でクインクインよく動くカメラが、放つておくとすぐ塞いでしまふ国沢実の映画に、適宜上手いこと風を通してゐる。「人は人の何を愛する?」、姿形なのかそれとも内なる心なのかと美泉咲がモノローグで投げてタイトル・イン。ここで、清水五郎とかいふジョン・ドゥじみた名義の正体が、蓋を開けてみれば発声の確かさで周囲とは一線を画する佐藤良洋。別に改名した形跡も窺へず、瞬間的な変名の由は不明。それとトメに比べて重要度の低い方を先に片付けておくと、荒木太郎2013年第二作「
嫁の寝床 恥知らずな疼き
」で初土俵を踏んだ美泉咲は、荒木太郎次作「
異父姉妹 だらしない下半身
」(愛田奈々とW主演)以来三年ぶりのピンク映画復帰。ツイッターのアカが消滅ではなく凍結されてゐる、愛田奈々も何時か我々の前に文字通り返り咲く日が来るのであらうか。
タイトル明けは総合病院院長の倅である久我拓馬(清水)が、自宅兼のマンションに開業する「久我メンタルクリニック」。国沢実と精神科、如何にもヤバさうな組み合はせにフリーク・アウトが又ぞろが暗黒面に堕ちるのかといつた脊髄反射の危惧は、幸ひにも華麗に回避。妻帯者の担当医に横恋慕するゴスロリ・三沢綾(吉川)に一服盛られた上で、久我は拘束される。その流れでは当然綾が久我に跨る三番手奇襲、吉川いとの、ほどよく柔らかさとしなやかさとを併せ持つ若い肢体が眼福眼福。久我の妻・詩織(美泉)の顔見せ挿んで、事後正しく猟奇的な彼女―古いな、俺も―な綾は、久我を阿部定。帰宅した詩織が異変ならぬ異臭に気がつくと、憐れ、あるいは何と。アベサダれた久我の一物は、綾に調理され食された後だつた。綾を連行する刑事二人組は国沢実と、菊りんではないから青木真?半年後、久我は死亡したドナーから提供された陰茎の移植手術を受ける。術後久我の男性機能は回復どころか寧ろ向上し、元々玉の輿狙ひの結婚で隙間風の吹いてゐた詩織との関係も、即物的に蜜月を取り戻す。そんな雨降つて地固まつたある日、判り易いフラッシュバックに襲はれた久我は、全く面識のない星野あかりの幻影を見る。
配役残り星野あかりは、いい感じの一軒家に住むやさぐれた水商売女・広崎小夜子。前作に於ける権高な選良と、今作に於いては粗野な底辺とを演じ分ける演技の幅を地味に唸らせる市川裕隆は、小夜子の内縁の夫・野田恭一郎。浦町夏鳴は、ムショ帰りのその足で、他愛ない修羅場の末に野田を刺す小夜子の元ヒモ・黒木靖。このくらゐといふかそれだけの役ならば、別に今回珍しく不在の、国沢組
限りなく専属といつていい
村田頼俊で別に構はなかつた気はしないでもない。
前作に引き続き高橋祐太と組んだ、国沢実2016年第一作。チンコに自我を支配された、見て呉れは久我ver.の野田は小夜子の下に帰還。それを詩織が奪還しに行く展開は、久我家パートが良くも悪くも夫婦生活に終始する一方、佐藤良洋と星野あかりが熱と重みのあるドラマを固定する広崎家パートで加速され、裸映画的にも裸の劇映画としても充実する。人は人の何を愛するのか、最終的にメイン・テーマに明確な回答は与へられないといふか、姿形は久我に変れど野田を愛した小夜子に対し、ビリング上はヒロインたる詩織は単に野田の棹に垂涎してゐただけなのではあるまいか。そもそも、詩織にせよ野田の本人認証をモノを通して果たす小夜子にせよ、要は最も肝要なのは棹なのか!?といつたチンコ至上主義には草も生やしかけつつ、再度アベサダれたのち今度はサイバー化した久我と、明白な殺人未遂がどう不問に付されたのかよく判らない詩織の締めの濡れ場。フとした弾みに詩織が久我の中に残る野田の痕跡に慄くカットは、絡みの最中にスパッと捻じ込んだサスペンスが鋭く光る。話の薄さが余計なものを拗らせない方向に働いてゐるのか、高橋祐太とのコンビで国沢実が安定する気配を窺はせる一作。となると、たとへば山﨑邦紀の変幻怪異を平然とバッサバッサ切り捨てる浜野佐知ほどの豪快さを持たない場合、重ねてたとへば小松公典が見境なく仕掛ける情報戦を持て余す竹洞哲也も想起するに、デジテル化した結果十分伸びたにしても依然決して長くはない尺の量産型娯楽映画にとつては、これで案外、暫く名前を見聞きしない岡輝男の軽さなり薄さが、あれはあれで絶妙な匙加減であつたのかも知れない。
最後に、最も重要なのは、裸映画的にも裸の劇映画としても主演女優を喰ふ大活躍を見せる星野あかり。国沢☆実の宿業を感じさせる陰々滅々路線どころか、木端微塵に底の抜けた2007年第一作「
THEレイパー 暴行の餌食
」(脚本:樫原新辰郎=樫原辰郎と共同脚本)。工藤雅典が工藤雅典な「
お掃除女子 至れり、尽くせり
」(2010)に、荒木太郎も常日頃以上だか以下に玉と砕けた2011年第一作「
淑女の裏顔 暴かれた恥唇
」(脚本:西村晋也)。3.11とどうしやうもないといふかしやうもない形で向き合つた、相ッ変らず工藤雅典が工藤雅典な「
夏の愛人 おいしい男の作り方
」(2011)。ひたすらに作品に恵まれなかつた悲運のヒロイン・星野あかりを、二番手ながら国沢実が九年越しで自力救済、当人的には五年ぶりピンク復帰での初日作となつたトピックには映画単体の出来を超えて胸が熱くなつた。
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