真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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欲情夫人 恥づかしい性癖
か行
/
2009年10月05日
「
四十路の人妻 性愛性交
」(2000『欲情夫人 恥づかしい性癖』の2009年旧作改題版/製作:IIZUMI Production提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》・業沖球太/製作:北沢幸雄/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:北沢幸雄/助監督:城定秀夫/監督助手:江利川信也/撮影助手:池宮直弘/照明助手:藤森玄一郎/応援:増野琢磨/ヘアー・メイク:角田みゆき/スチール:佐藤初太郎/ネガ編集:酒井正次/選曲:藤本淳/タイトル:道川昭/録音スタジオ:シネキャビン/現像:東映化学/効果:東京スクリーンサービス/協力:HOTEL Cone《一宮御坂》/出演:上原めぐみ・林由美香・葉月螢・千葉誠樹・伊藤猛・岡田謙一郎・飯島大介)。
山間の町、元ホステスの芝草美津子(上原)が営林署に勤める実直な夫・敏夫(岡田)と結婚して一年。下戸の敏夫と、美津子の馴れ初めは不明。当初は玉の輿を羨ましがられもしたが、日々の退屈と、セックスまで淡白な夫とに鬱積した不満を募らせる美津子は、偶然ブティックで声をかけられた、結婚前まで勤めてゐた酒田晴美(林)のスナックで再び働き始めることに。当然敏夫は難色を示すが、美津子に押し切られる、さういふ夫婦だつた。美津子は先輩ホステス・谷川順子(葉月)の上客を奪ふ形で、小西健三(千葉)とイイ仲に。順子と派手に激突し客の前で大喧嘩を仕出かした美津子は晴美の店を衝動的に辞めつつ、健三との関係は更に深めて行く、のを通り越して深みに嵌る。次第に敏夫の存在が邪魔になつて来た二人は、健三の兄・俊次(伊藤)が会社を潰し金に激しく困つてゐたのにも火に油を注がれ、保険金と資産目当ての、敏夫殺害を計画する。恐ろしくどうでもいい些末な疑問ではあるが、健三に俊次といふことは、その上に更に長兄がゐるのであらうか。男版の濡れ場要員ともいへる飯島大介は、スナック常連客、兼晴美とは男女の仲にもある大山義治。
水商売の女が、情夫と共謀し夫の保険金殺人を企てる。確か当時、全く同じやうなプロットの実際の事件があつたのだ。振り返つてみるかと戯れにググッてはみたのだが、その後起きた中州のスナック元ママの事件に埋もれ、まるで要領を得なかつた。といふか、ほかにも類似の事件が多過ぎる。その所為か開巻には珍しく、今作は現実に起こつた事件に即してゐるものではあるが、よく似てはゐてもあくまで事件そのものではなく、作家のイマジネーションによつて生み出されたフィクションである旨を言明するクレジットが差し挿まれる。とはいへ、これが満足な判読に困難を覚えるほど暗い。あるいはこれは単なる、プリントの状態の問題なのであらうか。他の場面に、画面の中で何が起こつてゐるのか判らないまでに暗い箇所は特に見当たらなかつたのだが。さて措き、さういふいはゆる犯罪実録ピンクといふ趣向は、北沢幸雄の事件の展開をベタ足で追つて行くやうな頑丈な演出。人が変つたとでもしか思へない千葉幸男の山の冬と人の心の、冷たさと荒廃とを色濃く刻み込むソリッドな撮影。加へて充実した俳優部にも恵まれ、個人的には画期的に疲弊した身ながら、一時たりとてまんじりともせずに引き込ませて観させる。俊次の初登場、健三を訪ね晴美の店を訪れるものの、金がないゆゑ勧められた席にも着かず弟を店外へと連れ出すカットなどゾクゾクする。といふ訳で、そのまゝの勢ひで重低音がバクチクするダークな傑作、と行きたいところではあつたのだが。美津子が晴美の店に出戻つてから約一月後のラブホテルの室内、二人でカップラーメンを啜るしみつたれた姿が果てしなくリアルな、美津子と健三が終に保険金目当ての敏夫殺しを思ひ立つ件が、デフォルトで尺は概ね六十分と規定されてゐるピンク映画にあつて、四十分も経過した地点である点に立つたフラグが、果たして呉れなくとも構はない成就を果たす。最終的な事の顛末を、矢張り暗くてよく読めないクレジット―挙句に、字数も少々不親切に多い―に委ねるといふ形で丸投げするオーラスは、竜頭蛇尾といふ一刀両断も免れ得まい。一方さうはいつても、それならば敏夫殺害には全方位的に一切関らない、晴美と大山の一戦などカットしてしまへと片付けられるのかといふと、これが林由美香の濡れ場がどうのかうのいふ以前に、何気ない遣り取りであつたとしても、林由美香と飯島大介が単に普通の会話を交してゐるだけで困つたことに素晴らしくサマになるのだ。そのため、無下に切ればいいではないかといふのも些かならず忍びない。さうなると、初めから一時間に納まるお話ではなかつたのではないか、といふ実も蓋もない結論にも落ち着きかけるが、振り返つてみるならば、
北沢幸雄の尺の目測誤り
といふと、何も今作に始まつた例(ためし)ではないともいへる。何れにせよ、両作とも力作は力作である点に変りはない辺りが、なほ一層の玉に瑕。
ところで、兎にも角にも。昭和55年生まれといふ公称―これを真に受けるならば、2000年当時二十歳―は仮に些かサバ読みにしても、幾ら何でもどう見たところで、今作の上原めぐみは二十代にしか見えない。一体全体何処の明後日から、新題に際して四十路は転がつて来たのか。
偉さうな開巻クレジット< これから始まる物語は実際の事件に似てゐるからといつてそのものではない。あくまでも作家のイマジネーションによつて語られるものである。従つてフィクションだ。
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