真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ノーパン尼寺 熟れた茂み」(1998『不浄下半身 尼寺の情事2』の2008年旧作改題版/制作:ファイブウェイズ/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:飯島幸夫/撮影:図書紀芳/照明:渡波洋行/録音:中村幸雄/音楽:藤本淳/助監督:堀禎一/編集:北沢幸雄/監督助手:斉藤克康・城定秀夫/撮影助手:小松高史・大嶋良教/照明助手:藤森玄一郎/ヘアーメイク:野原ゆう子/スチール:佐藤初太郎/ネガ編集:酒井正次/タイトル:道川昭/録音所:シネキャビン/車輌:小林車輌/現像:東映化学/出演:佐々木基子・七月もみじ・里見瑤子・池田一視・竹本泰史・銀治・田中あつし・大橋寛征・杉本まこと・乱孝寿《友情出演》)。出演者中、乱孝寿の友情出演特記は本篇クレジットのみ。
 山間、入浴中の女。カメラが尻から徐々にティルトアップして女の体を舐めると、女は何とツルッツルに剃髪してゐた。プロデューサーの飯島幸夫(=北沢幸雄)に、俳優部から一人だけ佐々木基子がクレジットされてタイトル・イン。
 身寄りがなく、佐賀慈恵(乱)が庵主を務める尼寺・如意法院に弟・利男(田中)と育てられた山辺暁子(佐々木)は、成人後教師の職に就く。ところが暁子は教へ子の藤野孝明(池田)と過ちを犯し、ともに学校に居場所をなくす。心中を決意した二人は睡眠剤を飲むが、藤野だけが命を落とし、暁子は死に損なふ。暁子は俗世を捨て、慈恵の下で尼僧・慈光として出家する。
 覚悟のハイライトとして流石の決定力を有する剃髪シークエンスも鮮やかに、豊かな黒髪を実際に剃り落とし頭を丸めてみせた、佐々木基子の見上げた女優魂は下手な洒落ではなく光るのだが。配役残り杉本まことは、同宗派の寺院から度々如意法院を訪れる高僧・鷲尾竣栄。権勢と色の欲も露な俗物で、寺の中で100ミリロングのラークを吹かせば酒も飲み、慈光に対しても劣情を憚らぬ視線を注いでは、挙句に呼びつけたコンパニオンの唐沢順子(里見)を抱く。短躯がある意味小坊主にフィットする銀治は、竣栄の弟子・鹿島竣仁。仏の道に反した竣栄に対し、秘かに蔑視を通り越した激しい憎悪を燃やす。杉本まことと銀治も、頭を丸めてゐる。内藤やす子の「弟よ」を地で行くつもりか利男は、都会に出てチンピラに身を落としてゐた。一人前になるつもりでヤクザ(大橋)を弾いた利男は、人を殺めた罪に苛まれ得度した姉を頼る。ピンク界の小泉今日子こと―耳心>甘酸つぱい―七月もみじは、体中につけられた痣も憐れに如意法院に救ひを求める染川碧。安い暴力男ぶりがハマリ過ぎで、ついつい余計なことも考へさせられる竹本泰史は、碧のDV夫・明平。碧を返せと如意法院に怒鳴り込んだ明平に対し、いふまでもなく慈恵も慈光も、碧を守り通すつもりではあつた。然れども慈光が目を離した隙に、碧は明平を追ひ如意法院を飛び出してしまふ。暴力を受けながらも、依然明平に依存する碧の弱さに対し、少なくとも今の慈光にはどうすることも出来なかつた。
 あはよくばお察し頂けようか、北沢幸雄の丹念な演出は忽せにしたカットひとつなくドラマを紡いで行くが、如何せん登場人物と、イベントとが多過ぎる。佐々木基子の坊主頭には有無をいはさぬ説得力が漲るものの、作劇の軸足は定まらず、暁子時代のエピソードは兎も角、何時まで経つても肝心の慈光に焦点が合はない。寺内で尼僧を手篭めにする坊主を描いてみせた踏み込みも買へはする反面、自らの業を乗り越えるにせよ未だその渦中で逡巡するに止まるにせよ、主人公が次々と起こる出来事に翻弄されるばかりでは、そもそも着地すらまゝならない。意欲が表面的にはある程度以上の形を成してゐるとはいへ、少し引いて全体を改めて眺めてみるならば、物語がまるで纏まつてはゐない。総尺六十分前後といふ、ピンク映画のレギュレーションが頭にない大ベテラン北沢幸雄ではよもやなからうが、失敗作と断じるのは些か酷としても、盛り込まれ過ぎた意匠なり意欲が空回つた印象は拭ひ難い。

 とかいふ残念な一本ではあれ、恐ろしいことに、全く同時期に「濡れた女教師 罪深き性愛」なるタイトルでリリースされた今作Vシネ版の尺が何と七十五分!そちらの方は憚りながら未見ではあるが、さうなると十五分長い分、Vシネ版では今作最大のウイーク・ポイントが回避されてあるのか、あるいは濡れ場が水増しされただけで、矢張り物語が主人公たる筈の慈光には収束しないじまひであるのか。何れにせよ、北沢幸雄の当時既に二十年を数へるキャリアを鑑みるに、ピンクとしての配分、あるいは設計ミスがあくまでミスである点に関しては変りあるまい。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 濃密セックス... バタフライ・... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。