閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

しゃべる犬

2019-07-13 17:21:52 | 日々

いつも猫ばっかりなので、たまには犬の話をしましょう。

山の中に地物の野菜などを扱う売店があって、ときどき魚を買いに行く。
なぜか山の中なのに、町なかのスーパーより新鮮な魚があるのだ。
レジの前に立つと、どこからか声が聞こえる。
ラジオかと思ったら、そうではなく、そこに置かれた茶色い犬のぬいぐるみが声を出しているのだった。
耳を近づけると、「なでてほしい」というようなことを言っている。アニメの小さい男の子の声、女性の声優さんが無理して子どもっぽくしゃべっている声だ。
よしよし、と頭をなでてやると、それに反応するわけではなく、「ボクね、お熱出ちゃったの」とか、脈絡のないことを次々と言う。
「どこかのおばあさんが飼ってたみたいでねェ」と店番の人。
「飼ってた…」
飼えなくなった理由はいくつか想像できる。聞けば話が長くなりそうだから聞かないことにする。
本人または家族が、不要になったけれど、こういうものだから捨てるにも捨てられず、というわけで、ここで貰い手を待っているらしい。
しゃべる人形は、わたしが子どもの頃にもあった。いくつかのせりふを機械的に繰り返すだけで、みんな最初は珍しがったけれど、すぐ飽きた。遊びが限定されて面白くないのだ。
あれから半世紀もたったのに、まだこのレベルなのかと、すこし意外に思う。せりふのレパートリーは飛躍的に増え、学習能力もあるという。でも、相変わらずランダムに発言するだけだ。人の話を聞かない。ずーっとしゃべらせておけば同じせりふが回ってくるのだろう。会話は成り立たない。
子どもの玩具かと思ったら、ヒーリングパートナーなどと称して、おもに独り暮らしの高齢者を対象にした商品であるらしい。
はたしてこれで人は癒されるだろうか。生き物に似た姿形のものが、一方的にしゃべっていて、話しかけても答えてくれない。わたしだったらかえって寂しくなるだろう。ラジオのほうがましかもしれない。
(実際に飼って、楽しく癒されているよという方がおられたら申し訳ありません。あくまでも個人的な感想です)
しゃべらなくてもいいから、話しかければだまって聞いてくれる、聞くふりだけでもしてくれる人形があったら、そのほうがいいのでは…と考えたけれど、どっちにしても、機械で人間を癒せると思うのは、メーカーの幻想なんじゃないかと思う。
たぶん、まだ、いまのところは。

(「いまのところは」っていうのは、いま森博嗣のWシリーズを読んでいるからです)

 

もうひとつ、犬の話。

車で走っていて、前の車があまりにも遅いので、右に出て追い越した。
Mが運転して、わたしは助手席に乗っている。
追い越すとき、左を見たら、運転席に犬がいた。茶色い犬だ。
垂れた耳が風にひらひらなびいて、機嫌よく笑ったような口をしていたので、思わずこっちも笑った。
「運転席に犬がいた」
「運転席に?」
「うん」
言ってから、何かおかしいと気づく。運転席側の窓のすぐ内側に犬が見えたのだ。ということは…えーと…運転手はどこに?
加速して追い越すときにちらっと見たのだから、せいぜい3秒くらいの間だ。むこうの車は、時速40キロ以下のノロノロ走行だったので、すでにはるか後方で、ミラーにも映らない。左ハンドルの外車ではない、どこにでもある国産の軽ワゴンだった。後部に高齢者マークが貼ってあった。
運転をする人ならわかると思うけど、ハンドルを握る右手の、さらに右側にはあまりスペースがないから、そこに犬を乗せるのは難しいし、無理して乗せると右ひじがぶつかって運転しにくく、とても変な姿勢になるはずだ。
あ…膝にのせて、右手で抱っこして、片手運転? だからノロノロだったのかな。
「運転してたの、どんな人だった?」とMが聞く。
「いやー、わかんない。犬しか見なかった」

運転席に犬が乗っていた、という話を、そういえば、むかし書いたのでした。
真っ赤なぴかぴかのスポーツカーでね。
かっこいいシャツを着て、サングラスをかけた犬が、ちょっと片手をあげて、
「やあ、どうも。おさきにしつれい」
ブロロロン。
風みたいにさーっと追い越していっちゃった。
渡辺有一さんがごきげんな絵を描いてくださって、自分でもかなり気に入っていた本だけど、27年前といえば、犬はまだ庭の犬小屋でつないで飼うのがふつうだったから、そういう設定になっている。いまだったら動物愛護団体におこられてしまいそうなのでした。

ラッキーのひみつ
竹下文子・作
渡辺有一・絵
偕成社 1992年

 


本日のにゃんこ

夜、ちょっと涼しかったので、ここで寝ている。
このキャリーケースに入れられると、行き先はろくなところではないんだけど、それはそのとき限りで忘れてしまうのか、扉をはずしてあるから平気なのか、見るたびに違う子が入って寝ている。
でも、そのうち飽きるらしくて、誰も入らなくなるので、そうなったら押入れに片づけてしまい、何か月かして出すと、またよく入る。
害獣駆除の箱罠を仕掛ける猟師さんも、似たようなことを言っていたっけ。

 

これは、コマがうちに来たとき。
1500グラムほどだったので、同じキャリーがずいぶん広くみえる。
いまや体重は3倍以上になり、くしゃみも出なくなりましたよ。

 

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