弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

小川和久著「メディアが報じない戦争のリアル」

2022-12-18 13:36:14 | 歴史・社会
メディアが報じない戦争のリアル 日本の「戦争力」を徹底分析
小川和久
上記の本を読みました。忘れないように、印象に残った部分をここに書き残しておきます。
《第1章 「ロシアによるウクライナ侵攻」のリアル》
2014年のクリミア併合時、12万5000人とされたウクライナ軍のうち、使い物になったのは5000人にすぎなかった。
2015年2月に独仏の仲介で「ミンスク2」に調印したものの、反古にされ、戦闘が続いた。
2019年の大統領選挙でゼレンスキー大統領が誕生したが、経済・汚職・紛争問題を解決できず、支持率は70%台から2021年秋には25%まで下落した。失地回復を狙うゼレンスキーはロシアへの強硬姿勢に出て、トルコ製ドローンを東部での親ロ派武装勢力との戦闘に使った。
2021年12月7日にバイデン大統領とプーチン大統領がテレビ電話会談。翌8日には、バイデン大統領が米軍をウクライナに派遣してロシアの軍事侵攻を阻むことについて「検討していない」と発言。11日にも同様の発言。こういう場合は、「集団防衛の義務はないが、アメリカはあらゆる選択肢を検討中」といわなければいけない。

ウクライナ軍は、ロシアによるクリミア併合後、アメリカの軍事顧問団の教育訓練を受け、組織や人事が徹底的にたたき直された。オバマ政権では、既存の武器を有効に使わせる訓練を施した。トランプ政権では、ジャベリン対戦車ミサイル、狙撃銃、弾薬、カメラ、電子防護システム、対砲兵レーダー、衛星画像分析能力、ドローン対策システム、領空監視システム、医療後送用の装備品が供与された。
アメリカテコ入れの結果は、携行式地対空ミサイル「スティンガー」によるKa-52M戦闘ヘリコプターの撃墜、対戦車ミサイル「ジャベリン」やトルコ製の無人機バイラクタルTB2による戦車の撃破などとなって表れた。
キーウ北方に20人いたロシア軍の将官のうち最大5人をウクライナ軍のスナイパーが倒したと報じられた。
仮にウクライナ復興費に10兆円が必要なら、軍事支援をしなかった日本としては、たとえば2兆円くらいは負担してよいのではないか。

《第2章 中国・台湾問題のリアル》
台湾の総兵力は、陸軍10万人、海軍250隻20.5万トン、空軍作戦機520機。海軍と空軍が対艦戦闘能力を突出させている。
中国が台湾を軍事占領しようとしたら、中国側は100万人規模の陸上兵力を投入する必要がある。
ソ連軍をモデルに学んだとき、定員1万3000人の自動車化狙撃師団を、1週間分の燃料・弾薬・食料とともに海上輸送するには、1個師団で25~50万トンの船腹量が必要とされていた。現在の装備で、100万人規模の兵力で計算すると、必要な輸送船の船腹量は5000万トンとなり、中国が保有する商船の船腹量6200万トンの大半を占めてしまう。
中国軍は台湾海峡で航空優勢(制空権)も海上優勢(制海権)も握ることができない。
台湾本島の海岸線1139キロのうち、上陸に適した場所は10%強の120キロほど、14箇所しかない。上陸しようとする中国側は、台湾側に陸海空から攻撃され、壊滅的な損害を被る。
かろうじて上陸できたとしても、予備役200万人が手ぐすね引いて待ち構えている。
中国の“空母キラー”ミサイルについて。移動目標用ミサイルは、目標を常時監視するため、偵察衛星が数十個必要だが、それが中国にはない。米原子力空母はミサイル防衛能力を有する8隻のイージス艦が護衛している。
ペロシ下院議長が台湾を訪問したとき、搭乗機は嘉手納から出撃したF-15戦闘機18機の護衛がつき、原子力空母と強襲揚陸艦を派遣して戦闘機だけで88機が布陣した。
中国の思考や行動の様式。「交渉したいことがあると、中国は武力行使を含む強硬姿勢に出る。ただし、収拾不能な戦争は、絶対に仕掛けない。」「中国は相手が強硬姿勢にたじろがず、逆に立ち向かってくると、正面衝突を避け、時間のかかる遠回りをしてでも目的を遂げようとする。」

《第3章 日米同盟のリアル》
アメリカにとっての日米同盟の重要性については、『小川和久著「日本の戦争力」 2011-10-13』で紹介したとおり。
日本にある米軍基地の防空を担当しているのは、航空自衛隊の地対空ミサイルと要撃戦闘機であり、陸上自衛隊の地対空ミサイルであり、海上自衛隊のイージス艦などミサイル護衛艦だ。
守るべき空域あたりの地対空ミサイルと要撃戦闘機の数と性能は、イスラエル・アメリカに次いで日本は世界第3位という評価もある。
秋田県と山口県に設置予定だったイージス・アショアについて、計画が白紙撤回された。その代替として「イージス・システム搭載艦」2隻の導入が決定された。しかし稼働までは10年からの期間が必要。そこで、米海軍が持つイージス艦を常時2隻借り受けるのだ。これを東北地方と中国地方の日本海沖に1隻ずつ展開する。日本政府が強く要望すれば、アメリカが受け入れることは間違いない。

「敵基地攻撃能力」について。呼び方は「打撃力」で統一すべきだ。
北朝鮮からの攻撃については、北朝鮮が日本に向けて弾道ミサイルを発射する可能性はほとんどない。日本列島は77箇所の米軍基地を置くアメリカの拠点だから、日本への攻撃があれば、韓国と日本から猛烈な反撃が行われ、北朝鮮は壊滅的な損害を被る。
日本が保有すべき反撃能力について小川氏は、アメリカのトマホーク級の巡航ミサイルを保有することを提案してきた。日本に侵攻を試みる敵を洋上で撃破する「スタンドオフ兵器」としても使える点で柔軟性がある。日本が保有するトマホークの数は500発とする。米軍艦艇が保有していたトマホーク発射筒4本からなる装置を搭載すれば、垂直発射装置はいらない。海自の護衛艦47隻と潜水艦21隻(改修が必要)がトマホークを8発ずつ搭載すれば合計544発。
最初は米海軍が保有するトマホークを融通してもらい、(配備の)時間短縮を図る。同時に国産の巡航ミサイルの開発を進めれば、短時間で反撃力の整備が進む。さらに陸上自衛隊に地上発射型を順次配備する。(最終的に合計で1000発か?)

サイバーセキュリティについて。小川氏の提案で総務省が住民基本台帳ネットワークシステム調査委員会を2002年に設けた。委員としてアメリカのネットワーク・セキュリティの実情を調査したところ、日本はアメリカから20年、韓国にも10年遅れていることがわかった。
直後に、ハッカー出身のアメリカ人専門家に侵入テストを依頼したところ、日本のセキュリティ会社が合格点を付けたシステムはすべて簡単に侵入できた。

《終章 日本の未来を切り開くために》
要人警護を担当する日本警察のセキュリティポリス(SP)とアメリカのシークレットサービス(SS)の決定的な違いは、特殊部隊としての訓練による反射神経の差だと思う。

外国の要人と日本で食事をするとき、席次を決めるのは要人側の警護担当者であり、その警護担当者が襲撃者撃退に最適な上座に座る。一方日本の警察のSPは、奥に座った要人と向かい合わせの席に座る。暴漢が入ってくるかも知れない方向に背を向ける。
--以上、列記終わり----------------------

上記の本は、2022年10月に初版が発行されています。
現在、日本の防衛の方針について閣議決定がなされたところです。新聞で報道されるその内容を見ると、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」については、小川氏がこの本の中で提案していた内容そのままで受け入れられているようです。即ち、当面はアメリカのトマホークを500発装備し、同時に国産の巡航ミサイルを開発し、完成の暁には合計で1000発を装備する、という内容です。
ただし、装備の仕方が小川氏の提案通りかどうかはわかりません。小川氏は、水上艦艇については「米軍艦艇が保有していたトマホーク発射筒4本からなる装置を搭載すれば、垂直発射装置はいらない。」としていますが、これと同じかどうか。潜水艦について小川氏は「潜水艦21隻(改修が必要)がトマホークを8発ずつ搭載」としていますが、既存艦の改修程度で済ませるのか、それとも別に巡航ミサイル専用の潜水艦を建造するのかどうか。

これからも、小川氏の発言には注目していきたいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする