弁理士の日々

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森嶋通夫氏と小宮隆太郎氏

2022-11-13 09:48:00 | 歴史・社会
小宮隆太郎氏が死去 戦後を代表する経済学者
2022年11月11日 日経新聞
『戦後日本の経済学界、経済論壇をリードし続けた経済学者で、文化勲章を受章した東京大学名誉教授の小宮隆太郎(こみや・りゅうたろう)氏が10月31日午前9時52分、老衰のため東京都内の自宅で死去した。93歳だった。
1952年東大経済学部卒業。その後、米ハーバード大に留学。ノーベル経済学賞を受賞するワシリー・レオンチェフ教授に師事した。』

小宮先生の話題について、私は最近偶然に、別のところで目にしました。

副島隆彦氏と佐藤優氏の対談をまとめた下記書籍の中に、経済学者の森嶋通夫氏の名前が出てきました。
欧米の謀略を打ち破り よみがえるロシア帝国
副島隆彦、佐藤優
この書籍での副島氏の下記発言です。
1884年、ロンドンで「フェビアン・ソサエティ」が設立され、ここからロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)という大学が生まれました。このLSEには、今でもヨーロッパ中の一番頭の良い左翼学生と左翼学生が集まっています。副島氏の先生の小室直樹の先生である経済学者の森嶋通夫も長くLSEの教授をしていた、とのことです。

森嶋通夫氏の名前を久しぶりに聞きました。私の記憶に間違いはなく、下記書籍の著者でした。
なぜ日本は没落するか
森嶋通夫
1999年発行で、私は発行当時に読んでいると思います。書棚の奥から引っ張り出し、再読してみました。

まずは小宮隆太郎先生との関係について
1998年、シドニーで日本の将来はどうなるかについての会議が開かれました。その会議で、森嶋通夫氏と小宮隆太郎氏が登壇しました。
森嶋氏の講演の内容は、日本の現状の解析から日本が今後没落するだろう、との趣旨です。
一方で、小宮氏の論文には森嶋氏の論文の反対のことが書かれていると思ったので、彼の論文は事前に読みませんでした。しかし念には念を入れろと思い直して、森嶋氏の奥さんに読んでもらいました。
「小宮さんの各論は貴方からいつも聞いている話と殆どかわらないわよ。だから非常に陰鬱な日本の将来が予想される筈なのに、それが急転直下楽観論で終わっているの。だから結論部分は、あなた自身が読んでみるべきだわ。」
そこで森嶋氏が結論部分を読んでみると、以下に要約できる内容が書かれていました。
「各論で述べた諸困難にもかかわらず、将来の日本人は、過去にわれわれが終戦後の廃墟から現在の日本を築き上げたように、現在のすべての諸困難を克服して、輝かしい未来を日本にもたらし得るであろう。」
森嶋氏はこの結論部分を読んで、「私は無証明にこういう主張をすることは、偉大なる小宮でなくても、一介の大学学部の学生にも許されていないと思った。」と記しています。

森嶋氏のこの本で小宮氏について知った直後に、今回の小宮氏の訃報です。
ネットで調べる限り、小宮隆太郎氏は確かに偉大な経済学者のようです。1998年当時、シドニーでなぜこのような論文を発表したのでしょうか。
ウィキによると、「小宮の関わった論争」として、「『日本の教育問題』 〜1990年代終盤〜」の中で、「小宮と森嶋通夫の間で日本の教育についての論争が繰り広げられた。」と紹介されています。シドニーでの会議以外でも、小宮氏は同じような趣旨で森嶋氏と論争していたようです。

次に、上記森嶋通夫氏の著書全体について
森嶋氏の著書は、1998年当時の日本の現状を解析した上で、2050年に日本がどうなっているか(没落しているか)を考えた内容です。人口の分裂(第2章)、精神の荒廃(第3章)、金融の荒廃(第4章)、産業の荒廃(第5章)、教育の荒廃(第6章)について論じた上で、日本は2050年時点で没落しているであろう、との結論に至っています。
私は1998年当時にこの本を読んでいたので、それ以降に日本が没落するであろうことは既定事実として受け入れていました。そして、「私は子供時代に国が貧乏だったことを経験しているので許容できるだろうが、裕福に子供時代を過ごした現在の若者にとっては大変だろうな」との予感も持っていました。

現在(2022年)は、1998年(予測当時)と2050年のちょうど中間点に位置しています。今回、森嶋氏の「なぜ日本は没落するか」を再読しました。現時点で、日本は森嶋氏の予測通りの方向に進んでいる(没落しつつある)ように思われます。そして2050年までの間に事情が変わって上昇に転ずる予兆は見当たりません。

ps 11/13 コロナ禍で鮮明になった「日本の没落」…経済学者が23年前に著書で鳴らした警鐘に「森嶋通夫『なぜ日本は没落するか』は、1999年に単行本版、2005年に著作集版、2010年に文庫版が、それぞれ岩波書店から刊行された。小宮隆太郎・東京大学名誉教授およびヒュー・パトリック・コロンビア大学名誉教授との論争は、単行本版にだけ収録されている(2~9ページ)。」とありました。私が読んだのは単行本です。
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