弁理士の日々

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アベノミクスとゼロ戦

2022-07-24 11:37:57 | 歴史・社会
ゼロ戦は、太平洋戦争における日本海軍の主力戦闘機でした。
開戦劈頭、ゼロ戦は太平洋の戦場で無敵でした。
その当時、戦闘機のエンジンはどの国でも1000馬力クラスでした。日本のゼロ戦も1000馬力クラス、アメリカの空母艦載戦闘機はグラマンF4Fワイルドキャットで同じく1000馬力クラスです。そしてグラマンはゼロ戦に全く歯が立たず、「ゼロ戦に遭遇したら逃げてもよい」とされていたほどです。
ゼロ戦は、1000馬力エンジンで最高のパフォーマンスを発揮すべく、防御を犠牲にして徹底して軽量化されました。卓越した技能の搭乗員がいるからこそ、ゼロ戦は成立しました。

開戦から1年が経過する頃、米国は優秀な2000馬力クラスのエンジンを搭載した戦闘機を投入しました。空母艦載機はグラマンF6Fヘルキャットです。航空戦能力はゼロ戦に劣らず、防御能力は格段に優れています。ミッドウェー海戦を経て日本の優秀な搭乗員は激減し、総合力でゼロ戦はヘルキャットに太刀打ちできなくなりました。

本来であれば、日本も2000馬力エンジンを早期に実用化し、2000馬力クラス戦闘機を大量生産してゼロ戦から置き換えるべきでした。しかしエンジン開発は難航し、疾風、五式戦や紫電改が実用化されはしましたがゼロ戦と置き換わるほどの量産はされず、結局、ゼロ戦は1945年の終戦に至るまで、働かせられたのです。

さて、アベノミクスです。
アベノミクスがスタートしたのは、2013年の初めです。
2008年から2013年までのドル円5年間の推移を見ると以下のようになります。下の2つの図の横軸は2008年以降の5年間を示し、上は縦軸が円/ドル、下は縦軸が日経平均株価です。

このグラフは、
ドル円5年間の推移と“2010年円高” 2013-02-11“2011年円高”と“白川相場” 2013-02-21などで紹介してきました。
アベノミクス第1の矢(金融政策)、第2の矢(財政政策)、第3の矢(成長戦略)のうち、第1の矢(金融政策)は速攻で明確な効果をもたらしました。これこそアベノミクスの効果であり、第1の矢のみが実効性をもたらしました。
この効果が有効であるうちに、第2の矢、第3の矢、特に第3の矢(成長戦略)を発揮して、日本経済を建て直すべきだったのです。しかし、
黒田日銀の政策発動期待、消費増税に大きな心配ない=浜田内閣官房参与
2013年11月15日, ロイター
にもあるように、浜田宏一・内閣官房参与(イエール大学名誉教授)は『アベノミクスの三本の矢を大学の通知表にならって採点すると「金融緩和はAプラス、財政政策はB、成長戦略の第三の矢はE」とした。』(3つ合わせて“ABE”)と評価される始末でした。

この時点で、アベノミクスは、「円高是正、株高実現」ということで十分に役割を果たしたのです。それに続く成長戦略がないまま、9年が経過しました。「アベノミクス」という言葉は、現時点では過去の事象として語られるべきものです。ところが現在でも、まだ“アベノミクス”が現在形で語られています。それというのも、アベノミクスで直接得られた効果「円高是正、株高実現」を利用した、次の政策が出てこなかったからです。

そう、“アベノミクス”は、第2次大戦における“ゼロ戦”と同じ運命をたどっているのです。
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