弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

水素爆発とベントの関係

2011-06-04 23:12:36 | サイエンス・パソコン
「ベント逆流、水素爆発か」『1号機 東電側「設計に不備」』
朝日新聞は、4日の朝刊第1面トップでこのニュースを報じています。多分スクープなのでしょう。asahi.comの記事はこちらです。

朝日記事『東電の内部資料などによると、1号機には①原子炉建屋内のガスをフィルターを通じて外に出すための「非常用ガス処理系(SGTS)、②格納容器内のガスを外に出すための「耐圧ベント配管」という二つの非常用排気管が備えられていた。排気管は合流して一つの管となり、建屋外の排気筒につながっている。
1号機でベントが実施された際、①の弁が原子炉の緊急停止で自動的に開いた状態になり、電源喪失で操作できなくなっていた。このため、②を通じて建屋外に出るはずだった水素ガスが、合流点から①に入り、建屋内に逆流していた疑いが強いことが新たに判明した。この水素ガスが爆発を引き起こしたとみられる。』
『86年のチェルノブイリ原発事故の教訓から「過酷事故」に備えた格納容器用の排気設備が99年に設置された。』

このブログでは、xls-hashimotoさんのコメントにより、4月の段階で上記に類似した水素爆発のメカニズムはすでに議論されていました。

4月16日記事「原発事故当初の対応で何が可能だったのか」に対するコメントで、以下の議論がありました。

《ベントすると何故原子炉建屋に漏れるのか (xls-hashimoto)》 2011-04-17 11:11:50
『「アクシデントマネジメント策の有効性評価に係る検討に関する報告書」(平成16年度)、平成18年8月、独立行政法人 原子力安全基盤機構
によると、26ページに「格納容器ベント」が対策として説明されています。
格納容器ベントの概略系統図をみると、電動弁で閉じられていますが原子炉建屋換気系ダクトにつながっています。
問題は、電動弁までのダクトがどこを通っているかと言うことです。
ダクトが原子炉建屋内を通っているとすれば、ブロアは電源喪失で止まっているため、ベントしたガスはダクトの開口部(吸い込み口)から逆流し原子炉建屋内に漏れ出て、建屋内を上昇し5階に溜まることが、容易に想像できます。』

《ベントと水素爆発 (ボンゴレ)》2011-04-17 11:44:00
『つまり、「ベントが遅れたから水素爆発した」のではなく、「ベントの時期にかかわらず、ベントすれば水素爆発は起きる」という状況だったと言うことでしょうか。
圧力容器内燃料棒露出と電源喪失が重なった状況では、ベントするときは閉鎖された建屋の水素爆発は避けられない、という設計だったのですね。』

《水素爆発は、必然です。 (xls-hashimoto) 》2011-04-17 16:59:51
『水素爆発を防ごうと思ったら、ベントする前に原子炉建屋5階(最上階)の天井に穴を開ける必要があったのです。
1号機が爆発して、「3号機でもベントする」と、うつろな目で枝野官房長官が言った時、「3号機でもベントするから、1号機と同じように爆発するかもしれないから、先に言っとくね」としか聞こえなかった時には、復旧のことが頭をよぎり悲しかったです。
テレビを見ながら、「せめて、天井に穴を開けてからベントさせろ」と思いました。
5・6号機はあとで穴を開けました。
原子炉建屋換気系のブロアとフィルタユニットは、原子炉建屋とタービン建屋の間の補助建屋の最上部にありますから、原子炉建屋の3階当たりのレベルになります。
原子炉建屋内の空気(地下2階から5階まで)は、3階から吸い出され、スタック(排気筒・煙突)から放出されます。
電源喪失した原子炉建屋では、軽い物は上に行き・重い物は下に来ます。
ただ、それだけでベントされたガスは軽い物は上に行き・重い物は下に行きました。
結果、水素爆発です。』

xls-hashimotoさんが紹介された「アクシデントマネジメント策の有効性評価に係る検討に関する報告書」の26ページ図面によると、格納容器ベントの系統は、朝日新聞が報じるように非常用ガス処理系(SGTS)とつながっているとともに、xls-hashimotoさんが指摘された原子炉建屋換気系ダクトにもつながっています。
格納容器ベントで放出された水素ガスが、そのどちらかから原子炉建屋に入り込み、水素は軽いので建屋の最上階に上昇していった、という構図になるのでしょう。報告書の図面も朝日新聞の図面もデフォルメ図であり、配管がどのように上昇・下降する経路になっているのかについては情報がありません。上昇・下降経路がわかるような図面を見ながら議論したいものです。

ところで、朝日新聞の1面記事は署名記事となっており、記者は板橋洋佳記者です。あの、大阪地検特捜部証拠FD改竄事件をスクープした記者です(朝日新聞・板橋洋佳記者)。現在は原発事故も担当しており、今回はまたスクープをものにした、ということでしょうか。

記事では、ベントに関する格納容器用の排気設備が、チェルノブイリ原発事故の教訓から「過酷事故」に備えた設備として99年に設置されたことも報じています。後から設置するに際し、「全電源喪失」を想定した安全性までは考慮されずに設置されていた、ということになります。

さらに6月4日の夜、以下のニュースが流れました。
「ベントで水素逆流」否定=配管弁、電源喪失で閉まる設計―東電
時事通信 6月4日(土)20時3分配信
『福島第1原発事故で、東京電力は4日、東日本大震災の発生翌日に1号機原子炉格納容器の圧力を低下させるため、蒸気弁を開く「ベント」を行った際、蒸気に含まれる水素が別の配管を通じて原子炉建屋内に逆流して水素爆発に至った可能性は極めて小さいと発表した。
配管に直列に並んでいる二つの弁のうち、一つが電源喪失すると閉まる設計であることが最新の点検記録で確認されたという。』
東電も、ニュースで記述された内容にただ反論するだけでなく、図面を示した上で、水素爆発に至る水素ガスの経路としてどのような経路が考えられるか、少しでも可能性がある仮説をすべて明らかにするような反論をして欲しいものです。
朝日新聞説よりも、xls-hashimoto説の方が可能性が高くなったということでしょうか。
コメント (9)
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