弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

原発事故当初の対応で何が可能だったのか

2011-04-16 17:47:56 | サイエンス・パソコン
福島第一原発の事故対応については、初期段階でいろいろ後手に回ったと言われています。
○3月11日津波襲来後、各所から電源車を集めたが、接続ケーブルが短すぎて使えなかった。
○ベントが遅れた。
○圧力容器への海水注入の判断が遅れた。

これらは、もしうまく行っていたら、どんな良いことがあったはずなのでしょうか。

休止中だった5、6号機については、極めて順調に安定状態に達しました。
5号機についてはディーゼル発電機を含めて全交流電源が失われましたが、19日に6号機の2台目のディーゼル発電機が作動し、5号機に電気を通したところ、冷却ポンプ類が動いて冷却に成功したのです。

私は、1~4号機も同じように復旧することを祈りました。もし、5、6号機と同じように失われたのが電源だけなのであれば、外部電源が通じた時点で冷却ポンプ類が作動し、安定した循環冷却を開始することができるからです。
しかし、外部電源が通じてもポンプ類が作動することはありませんでした。

例えば、残留熱除去系の冷却システムを作動しようとしたら、以下の4点が全て健全でなければなりません。
交流電源-電源からモーターまでの配線-モーター-ポンプ
このうち一つでも異常が有れば、冷却系は作動しません。
そして、1~4号機に外部仮設電源が行き渡っても、冷却ポンプは作動しませんでした。おそらく、配線もモーターもポンプも、すべてが故障しているのでしょう。残留熱除去系の循環水を流すための設備の大部分は、強い放射能で人が近づくことのできない原子炉建屋内に設置されているのでしょう。

もし、配線、モーター、ポンプのすべての故障が、津波来襲時に起こっていたのだとしたら、たとえ3月11日に電源車がうまく接続できたとしても、1~4号機の冷却系は立ち上がらなかったことになります。
従って私の疑問は、
「津波来襲直後には、1~4号機の原子炉建屋内に設置されていた設備は正常に作動する状況にあったのか否か。もしyesだとしたら、どの時点で不良になったのか。」ということです。
yesだとしたら、もし11日の段階で電源車から機器に電力を供給できれば、すべてはうまくいっていた、ということになります。その場合には、「しからばどの時点で機器類が故障に至ったのか」という疑問に進みます。核燃料プールへの放水によって水浸しになり、故障したのか、別の理由によるのか。
逆にnoだとしたら、たとえ電源車が間に合ったとしても無駄だったことになります。

次に、ベントの遅れと海水注入判断の遅れです。
3月12日、官邸は「1号機のベントを行え」と命令したにもかかわらず、東電がもたもたしていたと伝えられています。管総理が原発へ行ったからベントが遅れたのだ、という説もあります。そして1号機の水素爆発が起こり、海水注入はその後にスタートしました。
もしベントをもっと早く行い、海水注入をもっと早く始めていたら、1号機は別の運命をたどったかもしれない、というのはそうかもしれません。しかしあくまで1号機の話です。

13日に3号機のベントと圧力容器への海水注入を開始しましたが、その後に3号機が水素爆発しました。
14日に2号機のベントと海水注入を始めましたが、その日に格納容器が破損しました。
これら2号機、3号機の事象は、11日の1号機のベント遅れ、海水注入開始遅れとは別の事象のはずです。1号機において痛い学習をしたはずなのに、どのような理由でその学習効果を生かすことができなかったのか。その点についてはまだ議論を聞いた覚えがありません。

2、3号機についてはまだわからないことがあります。
1号機は、津波来襲の直後から炉心冷却不能に陥りましたが、2、3号機は様子が異なりました。3号機が炉心冷却装置注水不能になったのは13日5時、2号機が炉心冷却装置注入不能になったのは14日13時です。それまでの間、炉心冷却が作動していました。この炉心冷却が例えば残留熱除去系によるのであれば、残留熱除去系のモーターがバッテリーで作動していたことになり、配線、モーター、ポンプがこの時点で正常だったことになります。一方、残留熱除去系はバッテリーでも作動しておらず、隔離時冷却系(圧力容器からの蒸気でポンプを回して水を循環)によるのだとしたら、やはり残留熱除去系は津波直後から作動していなかったことになります。
2、3号機の炉心冷却はどの系列で作動していたのか。その点がまだ私にはわかっていません。
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5 コメント

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ベントすると何故原子炉建屋に漏れるのか (xls-hashimoto)
2011-04-17 11:11:50
「アクシデントマネジメント策の有効性評価に係る検討に関する報告書」
(平成16年度)
平成18年8月
独立行政法人 原子力安全基盤機構

http://www.jnes.go.jp/content/000005939.pdf

によると、26ページに「格納容器ベント」が対策として説明されています。

格納容器ベントの概略系統図をみると、電動弁で閉じられていますが原子炉建屋換気系ダクトにつながっています。

問題は、電動弁までのダクトがどこを通っているかと言うことです。

ダクトが原子炉建屋内を通っているとすれば、ブロアは電源喪失で止まっているため、ベントしたガスはダクトの開口部(吸い込み口)から逆流し原子炉建屋内に漏れ出て、建屋内を上昇し5階に溜まることが、容易に想像できます。

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残留熱除去系が動かない別の理由 (xls-hashimoto)
2011-04-17 11:34:14
以前に紹介した
「BWR(沸騰水型原子炉)概略フローシート」

http://ow.ly/i/9sVU/original

の左下に、「RHR海水ポンプ」が載っています。
残留熱除去系は、原子炉水と海水を「RHR熱交換器」で熱交換させて冷却します。

「RHR海水ポンプ」や「取水設備」は、津波で使えなくなったので、復旧作業をしようとしたら、隣のピットの線量が高い事がわかって、今の状態に至っているということでしょう。
冷却に使おうとした海水も、今はシルトフェンスで囲まれた黒い水を含む海水です。

残留熱除去系海水系配管は原子炉建屋1階天井部分を何の遮蔽も付けられずに配管されているので、黒い水を含む海水が循環すると、復旧作業が大変になると思われます。


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ベントと水素爆発 (ボンゴレ)
2011-04-17 11:44:00
xls-hashimotoさん、コメントありがとうございます。

つまり、「ベントが遅れたから水素爆発した」のではなく、「ベントの時期にかかわらず、ベントすれば水素爆発は起きる」という状況だったと言うことでしょうか。

圧力容器内燃料棒露出と電源喪失が重なった状況では、ベントするときは閉鎖された建屋の水素爆発は避けられない、という設計だったのですね。
2号機で水素爆発が起きなかったのは、3号機の爆発で2号機の建屋が破損し、建屋が開放されていたためでしょうか。

水素爆発を防ごうと思ったら、冷却機能喪失と同時に海水注入を開始し、とにかくベントの必要が生じない冷却を継続することが必要だったのでしょうか。

何よりも痛恨だったのは2号機の格納容器が損傷したことです。3月15日の2号機格納容器損傷によって大量の放射能が漏出し、レベル7と評価される原因となったし、飯舘村まで拡散が及ぶ原因となりました。
これも、もっと早く海水注入を開始し、さらに消防車の燃料切れを起こすことなく注入を継続することが必要だったのでしょうか。
返信する
水素爆発は、必然です。 (xls-hashimoto)
2011-04-17 16:59:51
水素爆発を防ごうと思ったら、ベントする前に原子炉建屋5階(最上階)の天井に穴を開ける必要があったのです。
1号機が爆発して、「3号機でもベントする」と、うつろな目で枝野官房長官が言った時、「3号機でもベントするから、1号機と同じように爆発するかもしれないから、先に言っとくね」としか聞こえなかった時には、復旧のことが頭をよぎり悲しかったです。
テレビを見ながら、「せめて、天井に穴を開けてからベントさせろ」と思いました。
5・6号機はあとで穴を開けました。

原子炉建屋換気系のブロアとフィルタユニットは、原子炉建屋とタービン建屋の間の補助建屋の最上部にありますから、原子炉建屋の3階当たりのレベルになります。
原子炉建屋内の空気(地下2階から5階まで)は、3階から吸い出され、スタック(排気筒・煙突)から放出されます。
電源喪失した原子炉建屋では、軽い物は上に行き・重い物は下に来ます。
ただ、それだけでベントされたガスは軽い物は上に行き・重い物は下に行きました。

結果、水素爆発です。
水素発生は、原子力発電所には付き物です。

今は、何を書いても後も祭りにしかならないので、頑張ってもらえる様に書きます。
しかし、今日のニュースで、やっと原子炉建屋の扉が開くとの報道がありました。
なるべく早く入って、使える物・使えない物を確認していただきたいです。
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3号機水素爆発と自衛隊 (ボンゴレ)
2011-04-17 22:43:56
3号機水素爆発に伴って東電の方が負傷すると同時に、自衛隊の4名も負傷されました。陸上自衛隊・中央特殊武器防護隊の車輛3両がちょうど3号機の傍らにさしかかったときに3号機の爆発があったとのことです。車輛は吹き飛んだそうですが、隊員たちに犠牲者が出なかったのが不思議なくらいです。映像で見る3号機の爆発はすさまじく、そばを通行中だった車両の搭乗者が無事であるとはとても信じられません。
自衛隊はこのとき、事前に「安全だ」と告げた東電に対して不信感を抱き、一時第一原発から撤退したと言います。
専門家の目で見たら、「3号機の水素爆発は時間の問題」だったのに、東電は自衛隊にそれを告げていなかったのですね。
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