弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

横田宏信「ソニーをダメにした「普通」という病」

2009-03-12 21:58:18 | 歴史・社会
ソニーという会社は、私が物心ついた頃から、エクセレントな会社であり続けました。井深大、盛田昭夫の二人の創業者が退場された後も、ホンダとともになぜエクセレントであり続けていられるのだろうと不思議に思っていたものです。
そのソニーが、現在ではどうも普通の会社になってしまったようです。
ソニーをダメにした「普通」という病
横田 宏信
ゴマブックス

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著者の横田氏は、慶応経済を出て1982年にソニーに勤務。現場の部品検査部門をスタートに、その後イギリス勤務では「出る杭」ぶりを発揮します。
1995年頃にソニーを退社し、コンサルタントの道に入ります。一度は起業に失敗しますが、大手のコンサルティング会社に就職して大手企業の大規模な経営革新プロジェクトを成功させます。2004年に会社を立ち上げ、現在もコンサルティング活動を続けています。

横田氏の経験から、特に日本企業でよく耳にする台詞のトップ3は
1番目「会社のため」
2番目「そんなの聞いてない」
3番目「我が社流」
であるとします。

そして盛田氏が健在であった頃のソニーは、上の3つのいずれも反対に位置していたものが、現在のソニーは上の3つにいずれも該当するようになっているようです。

横田氏がソニーに入社して最初に盛田さんから言われたのは「ソニーで働いても楽しめないと思ったら、すぐに辞めなさい」でした。ソニーでは「会社のため」に働くのではなく、ソニーという会社を通じて「社会のため」に働いていたのです。

横田さんが入社した当時、会議で「そんなの聞いてない」と発言したら他の出席者から「だから何?」と言われるだけでしたが、そんな場面も消えていきました。
日本でよく言われる「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」は、「そんなの聞いてない」とごねる上司に対応するための処世術であるわけです。

コンサルティングの現場で「我が社流」が出てくると、大抵は個人の趣味に過ぎないそうです。
最近のソニーでは、プロジェクトの中心人物がへんてこな方針を主張した場合、他のメンバーが「横田さんもご存じの通り、ウチは『人がルール』の会社ですから」と返ってきます。しかし横田さんがご存じだったソニーは「本質がルール」の会社でした。

「私が入社した頃のソニーの組織は、世間からよく『カオス(混沌)』的な組織だと揶揄されていた。
直属の管理職の言うことは聞かないくせに他部門の尊敬する管理職の言うことなら聞く奴。逆に、他部門のメンバーをまるで自分の部下であるかのようにコキ使う管理職など、ざらにいた。
出社はしても自分の席を温めた試しがなく、あちらこちらの職場をふらふらし続ける奴も特に珍しくはなかった。そして、時折そういう奴から、面白い組織間連携の話が持ち込まれたりもした。」

横田さんによると、昔の「ソニー流」とは「何かを真似したり、何かにかぶれたりでは、その何かを超えることはできない。だから、本質の飽くなき追求だけを考えればいい。そして、そのビジネスの本質に忠実であることが、ソニー流なのだ。」ということです。

横田さんが入社した当時、ソニーの本社部門ではすでにソニー流はずいぶん廃れていたようですが、横田さんが配属したのは大崎工場の部品検査部門でした。そして、ソニー流を最も強く受け継いできたのは、工場の技術者たちだったのです。
それが現在では・・・
「いまや、米国かぶれ企業であるという点で、世間の見る目とソニー内部の実態にズレはないと思う。」

「ついでになるが、『産業界全体の間接部門』とでも呼ぶべきコンサルティング業界、特に外資系コンサルティング業界の人間の米国かぶれは、それこそすさまじいものがある。米国流を受け入れない企業は馬鹿げているとさえ言い放つ愚か者が実に多い。同じMBAでも、米国で取得したMBAしか実質的にその価値を認められない業界である。
それでも、同じく産業界全体の間接部門である金融業界、なかでも投資会社には負けるが。」
この本は2008年2月の出版ですが、その後起こった米国発の世界金融危機を見ていると、「まさにおっしゃるとおり」ということになりそうです。

ソニーはずっと就職人気企業トップであり続け、ソニーには高学歴者が集まります。高学歴の優等生ばかりになってしまい、ソニーというブランドの上にあぐらをかいて、実績もないのにでかい顔をしている社員ばかりになりました。


横田さんは、ソニー時代には、ソニースピリットの残る現場を経験し、米国かぶれに陥った本社部門も経験しました。そしてコンサルティング業界に移ったあとは、裸一貫でスタートし、大手コンサルティング会社でコンサルタントとしてのトップポジションを経験します。
このような経験を踏まえ、ソニーの今昔を比較することから、企業再生へのヒントを語っています。

しかし、普通の人が集まる会社で、普通でない会社にしていくことは極めて困難に思います。ソニーが普通でなかったのは、井深大、盛田昭夫という卓越した創業者に恵まれたことが大きいでしょう。
一度普通の会社になってしまったソニーが、再度(いい方向で)普通でない会社に変身するのは並大抵でないと思います。
「読んだ人の意識が少しでも変われば」という程度の効果期待でしょうか。

この他にも、この本ではいろいろ語られています。また別の機会に。
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