弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

年金積立金150兆円の運用

2008-07-06 14:29:00 | 歴史・社会
日本の年金問題を分類すると以下のようになるでしょうか。
① 年金制度をどのように設計し直すか(年金破綻を防止するため)
② 貯まってしまった積立金150兆円をどのように運用するのか
③ 年金記録問題(年金事務を確実に)

重要度でいうと①から③の順だと思うのですが、世間で騒がれているのはもっぱら③です。最近、「基礎年金の徴収を現状の保険料ではなく税金で」という議論が始まり、①についても若干の議論の進展はあります。
一方、②の積立金の運用については普段はほとんど報道に上がりません。

最近、年金積立金の話題が2つ重なりました。

年金運用損、過去最悪の5.8兆円 昨年度世界的株安で
2008年7月4日3時8分
「厚生年金と国民年金の積立金の07年度の運用損が過去最悪の5.8兆円だったことが3日、明らかになった。運用利回りはマイナス6.4%で過去2番目の低さ。米国の低所得者向け(サブプライム)住宅ローン問題に端を発する世界的株安が、公的年金の財政にまで波及した。
  ・・・・・
 一方で、積立金運用の累積収益は7.4兆円とプラスを維持。年金財政に大きな影響を与える運用利回りと賃金上昇率の差(実質運用利回り)も、01年度以降の平均では2.66%と目標の1.1%を上回っており、同法人は「当面の年金財政への影響は限定的」としている。」

年金基金の運用提言 政府系ファンドへ自民PT
07/02 20:47更新
「日本版政府系ファンド(SWF)創設に向け協議してきた、自民党国家戦略本部(本部長・福田康夫首相)の「SWF検討プロジェクトチーム」(PT)が3日、報告書案をまとめる。公的年金基金の一部をSWFの運用原資として活用し、独立性の高い政府出資会社を設立して運用する計画をまとめ、福田首相に提出する。
 案ではSWFの運用額は10兆円程度と想定。政府が全額出資する運用会社を設立して国内債券、株式、不動産、証券化商品など幅広い投資を可能とすることで、運用利回り向上を目指す。運用担当者は国籍を問わずプロを招く。IMF(国際通貨基金)がこの秋にも公表するSWF行動指針に沿った先進的な情報開示を目指すなど透明性を高め、先進国型の新しいSWFモデルを提案する。
 収益は年金基金に返し、運用益による国民負担の軽減を図るとともに、日本の金融市場の活性化につなげたい考え。運用益の目標を上回れば、環境保護や格差是正などに役立てることも検討する。」


昨年7月に年金問題として記事にしました。参照したのは以下の図書です。
年金を問う―本当の「危機」はどこにあるのか (岩波ブックレット)
保坂 展人
岩波書店

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140~150兆円の年金積立金、その運用主体が、昔の財投資から、「年金積立金管理運用独立行政法人」に移りました。この独立行政法人はどのような団体で、どのように積立金を運用するのでしょうか。
「年金を問う」によると、
独立行政法人には、経済・金融関係の有識者による運営委員会が設置されます。運営委員会は理事長に建議できる権限を持っています。最終判断はたった一人の理事長が行うということです。また、厚生労働省内に評価委員会を設けます。ところが、理事長、運営委員、評価委員のいずれも、厚生労働大臣が指名します。
二重チェックのように見えて、実質はすべて厚生労働省の手の内にある、ということです。

そして、150兆円のうちのある比率は株式に投資されているのですから、この1年の株価低迷で運用損が出ているだろうことは当然に予測されていたことです。
今ここで驚くのではなく、「年金積立金150兆円をどのように運用するのか」をもっと国民のレベルで(国会で)議論すべきだということです。
アメリカは、年金基金の運用先を国債のみに限定しています。そのようにするのか、そうでないのか。
現状は、厚労省に実質的に牛耳られた「年金積立金管理運用独立行政法人」の中でさまざまな決定がなされているのでしょう。


最近、石油資源国を中心に、政府系投資ファンド(SWF:ソブリン・ウェルス・ファンド)の活動が目立っています。サブプライムローン問題で疲弊したアメリカの金融機関は、SWFからの融資で何とか命脈を保っています。

私も、「日本の年金積立金を基金にして、日本版の政府系投資ファンドが可能なのではないか」と考えたことがありました。
政府系投資ファンドについては、今年5月にサブプライム後に何が起きているのかの中で取り上げました。
サブプライム後に何が起きているのか (宝島社新書 270) (宝島社新書 270)
春山昇華
宝島社

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それによると、
《第2章 突如として表舞台に登場した国富ファンド》
資源輸出国、商品輸出国は、貿易黒字で得た外貨資金を、万が一のために、外貨準備金という形で一定量手元に残しました。その外貨が貯まったままではもったいないとのことで設立されたのが、外貨準備金を運用する国富ファンドです。
従来は、いつでも現金化できる流動性の高い資産に投資する保守的なものでしたが、最近の原油価格の高騰で外貨準備高が急増したので、外貨準備の一部を使って「長期固定させてもよいから、高いリターンを目指そう」という積極的な運用を可能にさせました。
国富ファンドは、巨大資本家ならではの特徴があり、通常の株式投資家よりも高いリスクを取り、より高いリターンを享受しようとします。ただし運用は「人知れず静かに」行います。
国富ファンドのもう一つの特徴は、通常の投資信託や年金ファンドと違い、『短期的な時価評価に一喜一憂する必要がない』という点だとしています。

年金積立金の運用損益は毎年評価されていますから、1年ごとに「得した、損した」と評価されるので、とても「人知れず静かに」運用することなど不可能です。

結局、現在の石油資源国や中国が世界経済を動かしている「政府系投資ファンド」は、「政府の自由になるお金」が存在することが前提でしょう。
それに対し年金積立金は、あくまで国民の大切な年金の原資であって、決して政府の自由になるお金ではありません。

それでは、自民党が提唱している「年金積立金を用いて政府系投資ファンド」とは何なのでしょうか。
ニュース記事を読む限り、これは現在の世界経済を裏で動かしているいわゆる「政府系投資ファンド」とは似ても似つかないものですね。

単に、「年金積立金の運用を、厚労省が牛耳る現在の「年金積立金管理運用独立行政法人」のみに任せるのではなく、もう一つの基金運用団体を作ろう。現行の団体は人件費が抑えられているので優秀なプロを雇えないが、新しい団体には優秀なプロを雇おう。きっと運用益を出してくれるはずだ」といった発想のように思えます。
結局は、官営の投資機関を、一つから二つに増やすだけのことですね。
コメント
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