弁理士の日々

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最高裁判決:訂正請求の許否は請求項毎に判断すべき

2008-07-15 20:34:12 | 知的財産権
7月10日に、特許に関する最高裁判決が出されましたね。
特許異議申立事件(付与後異議)で特許取消決定がされ、特許権者が審決取消訴訟を起こしたが請求を棄却され、それに対して上告していたのに対し、最高裁は上告を一部容認し、特許権者の主張を認めたものです。
最高裁判決(pdf
知財高裁判決(pdf)(いずれも裁判所ホームページ)

特許異議申立制度は既に廃止されて存在しないので、ここでは一般論の議論を特許無効審判を例にとって説明します。

特許無効審判が請求されると、特許権者は、答弁書提出期間内などに、訂正の請求(特許請求の範囲の減縮などを目的とする)を行うことができます。
審判の審理において、訂正の適否を判断し(「訂正を認める」又は「訂正を認めない」)、特許が無効か否かを判断します。

無効審判請求は請求項毎に行うことができます。特許が無効か否かの判断についても、請求項毎に判断されます。例えば、特許が請求項1~4からなっているとき、無効審判を請求項1、2のみについて行うことができます。審判において、請求項1は無効理由があるが請求項2は無効理由がないと判断されたとき、審決において、「請求項1(のみ)を無効とする」との判断を下すことができます。

ところで、無効審判において行われる訂正請求はどうでしょうか。
特許が請求項1~4からなっており、無効審判が請求項1~4のすべてについて請求され、特許権者が訂正請求を行い、請求項1については訂正事項a、請求項2については訂正事項b、請求項3については訂正事項c、請求項4については訂正事項dである訂正請求をしました。審判で審理を行ったところ、訂正事項bが訂正要件を満たしていません。(訂正事項a、c、dは訂正要件を満たしているとしましょうか。)
審決では、「訂正a、c、dを認める。訂正bを認めない。請求項1~4はそれぞれ(有効)(無効)である。」と判断することができるのでしょうか。

従来、「訂正請求の判断は請求項毎に行うことができない(訂正請求全体で不可分の塊である)」と解釈されていました。特許法の条文において、訂正審判については「請求項毎」との規定がなされておらず、訂正請求についても同様だからです。異議申立事件における訂正請求も同様でした。特許法の条文の文言通りに運用されていたのです。

すると上記の事例ではどうなるでしょうか。訂正事項bが訂正要件違反だから、訂正事項a、b、c、d全部を認めない。すると、請求項1~4は訂正前の状態であるから、いずれも無効理由があり、無効である、との審決が出てしまいます。


今回の事件がまさにそれでした。ただし、無効審判事件ではなく、異議申立事件でしたが。請求項1~4のそれぞれに対する訂正事項a~dのうち、訂正事項bのみ「訂正要件違反」と認定した上で訂正全体を認めず、「請求項1~4に係る特許を取り消す」という取消決定をしました。

特許権者は知財高裁に取消決定取消訴訟を提起し、「異議申立事件においてした訂正請求については、請求項毎に訂正の許否を認定すべきだ」と主張しましたが、知財高裁はそれを認めず、特許庁の取消決定を取り消しませんでした。

特許権者はさらに最高裁に上告し、今回、最高裁の判決が出されました。
結論として、「特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないというべきである。」と判示しました。

--判決抜粋--
「特許法は,複数の請求項に係る特許ないし特許権の一体不可分の取扱いを貫徹することが不適当と考えられる一定の場合には,特に明文の規定をもって,請求項ごとに可分的な取扱いを認める旨の例外規定を置いており,特許法185条のみなし規定のほか,特許法旧113条柱書き後段が「二以上の請求項に係る特許については,請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。」と規定するのは,そのような例外規定の一つにほかならない(特許無効審判の請求について規定した特許法123条1項柱書き後段も同趣旨)。」
「訂正審判請求は一種の新規出願としての実質を有すること(特許法126条5項,128条参照)にも照らすと,複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は,複数の請求項に係る特許出願の手続と同様,その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているといえる。」
「これに対し,特許法旧120条の4第2項の規定に基づく訂正の請求(以下「訂正請求」という。)は,特許異議申立事件における付随的手続であり,独立した審判手続である訂正審判の請求とは,特許法上の位置付けを異にするものである。」
「訂正請求は,請求項ごとに申立てをすることができる特許異議に対する防御手段としての実質を有するものであるから,このような訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許異議事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになる。以上の諸点にかんがみると,特許異議の申立てについては,各請求項ごとに個別に特許異議の申立てをすることが許されており,各請求項ごとに特許取消しの当否が個別に判断されることに対応して,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求についても,各請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断されるものと考えるのが合理的である。」
--以上--

今回の判決は異議申立における訂正請求が対象でした。無効審判における訂正請求が対象になるか否かが気になります。最高裁判決では、異議申立の根拠条文を述べるところで、「(無効審判も同趣旨)」としているので、おそらく無効審判でも同様に扱われるでしょう。
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